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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
44/128

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くすりと笑う気配に、少しウトウトと夢と現実の狭間を漂っていた真綾は、現実に引き戻された。


綾人が見ている視線の先を見て、せりかさんと橘君の遣り取りに笑いが漏れたのだと分かった。


真綾も二人が仲直りしてくれて良かったと思う。ここ最近のせりかと橘の様子は、険悪では無いものの、いいとは言い難い雰囲気にクラス全体に気まずい空気が流れていた。


普段、率先だってクラスのトラブルを解消しようと動いてくれる二人の衝突に、みんな途方に暮れていた。唯一助けになりそうな高坂は、そのトラブルの原因を作ってしまったので、そこは頼れない事も分かっていたので、自然と皆と親しい本庄に『なんとかして~』という声が来ていた。本庄は『修学旅行までにはおさまるから、悪いけど我慢して!』と皆を宥めていた。


大体、無理やり、橘君を彼氏にするって、そんな横暴な事を高坂君に言われてもせりかさんも困るだろうと思う。


高坂君が余計な事をするから、あんなに気の合っていた二人が、気まずくなるのだわ!と内心、真綾は玲人を罵倒していた。


しかし、綾人がせりかさんに聞いた話では、せりかさんは、高坂君の事を怒っている訳では無く、橘君本人を怒っている為こんなに長く二人の不仲が続いてしまったのだと聞かされた。


せりかは八つ当たりでいつまでも怒っている様な性格では無いので、怒る理由が個人的に有るのだとは思うが、特に恋愛関係でもない男女が此処まで揉めてしまう理由が真綾には思い付かなかった。


じっとせりか達の様子を楽しそうに見ていた本庄の瞳が、少し揺れている事に真綾は気付いた。


二人を切なげにみつめる本庄を見ていられずに、真綾はもう一度目を閉じた…。


高坂君も言っていたじゃない!知らない方が良い事だって有るのよ…きっと…起きたらきっと今のは、気の所為だって思えるわ…。と自分を言い聞かす様にまた夢の世界に足を踏み入れた。


バスは、途中に長万部(おしゃまんべ)という面白い地名のところで昼食の休憩となった。班ごとに座るせりか達とは席が遠くて話す事が出来なかった。何か特別な用事が有る訳ではないが、真綾は早くせりかと言葉を交わして自分を安心させたかった。隣で、手を怪我するとピアノの発表会が近いからと、ハサミで毛蟹の身をとってくれる綾人を、美久ちゃんと弘美ちゃんにそっと冷やかされるが、いつもなら照れてしまうところだが、今の真綾にはその彼の優しさが妙に癇に障った。






「せりかちゃんって蟹食べるの上手よね~!」


「…実は、海鮮物大好きだから、隠れた特技なの…コツがあって挟みを使わなくても身が取り出せるの…」


少し恥かしそうに、話す様子が普段見慣れない私服な事もあっていつもより数倍可愛い。周りの注目も集めてしまって、橘が少し苦い顔をした。


沙耶はそんな橘が珍しくて驚くが、せりかと付き合うのを自分が保留にしてしまったが、やはりせりかの事を想って無ければオッケーの返事はしないだろうと、少し橘に申し訳無い気持ちになった。


「椎名さん俺のも剥いてほしいな~」と露骨なアピールをするのを、横から玲人が「せり、俺のも頼む」と空気を読まずに頼んで来たので、沙耶は秘かに笑いを堪えた。


玲人くんが勧めてるのに、自ら天然に邪魔するのって可笑し過ぎ!と玲人の天真爛漫さに、こみ上げてくる笑いを押さえきれずに少しだけ、笑ってしまった。


「ほらー!二人とも、子供みたいな事するから、沙耶ちゃんに笑われちゃってるよ?」


そういいながらも蟹の身はほぐしてあげているせりかは、根っから面倒見がいいのだろう。なんだか楽しい気配がしそうな予感に沙耶は、心の中で、『何でこの状況、観客が私だけなのよ~勿体ない!』と思ってしまった。



それから、食後にお土産を見がてら休憩をして(多分、食後すぐにバスに乗せない為だろう)そのあと、また函館に向けてバスは南下した。



「少し眠くなっちゃったから、寝ちゃってもいい?」とせりかが言ったのを「うん、どうぞ」と橘は答えたが、内心心臓が跳ね上がった。せりかのこういう無防備さには驚かされるが他意は無い事は良く分かっている。他から窓側に座るせりかの寝顔が見えないように、自分の座る角度を塞ぐようにずらした。




せりかの無防備さに橘が困っているのを見て、本庄は気の毒になるが、やはりせりからしくて可笑しかった。自分が気を揉まなくても済む事を安堵する気持ちと寂しい気持ちが両方だったが、脇でじっとせりかの寝顔をみつめる橘を羨ましく思ってしまうのをとめる事が出来ない自分に末期なのかなと諦めに近い気持ちになった。


隣で眠る真綾は、ストールを被って横向きで顔を見せない。普通は、こうなんだけどなぁと思うと、あたふたとする橘を見て少しだけ気の毒になってしまった。まだ、この先が長いから後で話せる機会があれば注意をいれて置こうかと思うが、自分がいっても大丈夫なものなのか…?…悩むところである。橘にも恨まれそうだし…いや、むしろ感謝されるのか?と考えると橘に言おうと決めた。


好きな子の寝顔をみせられる嬉しさと辛さでは、橘には辛さのが勝つだろう。高坂ならなんとも思わないのだろうなと思うと、そこは自分と真綾の関係がダブってみえた。実際ずっと見て来た真綾の寝顔にいまさら慌てたりはしない。こういう穏やかな関係を断ち切ったせりかの強さの半分でも自分にあったら、真綾の幸せを自分の事よりも先に考えられたのだろうと思う。


せりかは高坂の幸せを考えたから、受け入れるか手を離すかを考えて、手を離したと話してくれた。それは彼の事を家族に近いとは言っていたが、自分の事よりも優先出来る程の深い愛情があるのは間違いないだろう。


それから、一行は、五稜郭タワーに上って、星型の五稜郭に感嘆の声を上げ、その後、トラピスチヌ修道院にいった。五十人以上の修道女が今も暮らしているらしいと聞いて驚くが、他人の気配がまるで無い。ここの修道女はクッキーを作って生計を立てているらしいが、朝一で無いと売り切れてしまう人気のものらしく、その有り難いクッキーは買う事は敵わなかった。


修道女の暮らすという浮世離れた空間は、まるでキリスト教の学校の様にもみえたが、どうして俗世を捨てる気持ちになったのだろうか…と、きっと聞いてはいけない事なのだろうが聞いてみたいと思うが、この好奇心こそが既に世俗にまみれたものに見えるのだろうとせりかは思った。




夕方になって急に冷えてきたので上着をはおった。昼間は少しだけ涼しくて気持ちが良いなぁなどと思っていたら、夜は真冬並みに冷える。こちらの真冬は氷点下だろうから、せりかの思う真冬並みだが驚くほど、昼間との気温差があった。この後は函館山のロープウェイに乗って、頂上から、函館の夜景を見る事になっている。横浜の夜景も綺麗だが、また別格と聞いているので、とても楽しみにしていた。



ロープウェイで本庄達の班と合流して一緒にいく約束をしていた。美久が走ってやってきて心配そうに大丈夫?といったので、笑って答えたが、心配を掛けてしまっているのだなと胸が痛くなった。


その後、真綾達がやってきて、せりかに抱き付いたので、アメリカンな挨拶に照れながらも、抱きしめ返して「寒いね~」と照れ隠しに付け加えた。


本庄は、橘の所に行って二人で、ぼそぼそと話していたが、橘が「成程ね!」と声を上げたのだけは聞こえた。二人とも仲がいいなぁと思う。黒いところが呼び合うのかしら?とせりかは思うが、言ったが最後、碌な事に成らないのは、目にみえているので余計な事は言わない!と思ったが、カンのいい彼らは思っただけで文句を言ってくる厄介な人達でもあった事を思い出して、目を逸らした。


「何~お嬢さん、今良からぬ事を思ったでしょう?」


やっぱりおいでなすった。見逃すという単語が欠落してるんじゃないの?!と思うが、曖昧に笑うに留めた。


「椎名さんが分かり易いんだよ。前にも注意したじゃん。ね~?」と美久達に同意を求める。美久はケタケタと笑って頷いた。


「弘美―!小舅さん達が私に沢山付いて来てるの。助けてー?」と言って二人の傍から逃げて弘美の横に行った。二人でブルブルと寒いね~と手を取り合ってそのまま繋いだまま歩いた。くっ付くと少し暖かい。やっぱりひと肌だよね~雪山は!というと「「「雪降ってないから」」」と三人の小舅様から突っ込まれた。「みんなノリがいいね!」と美久がいうと本庄だけが大笑いして、橘は苦笑した。玲人は美久に「違うから!」とこれに関しては三者三様な対応だった。美久との親しさの差かもしれないなと思ったが、そう思うと、せりかに対して三人が同じ対応なのは三人ともせりかとの距離が同じなのだろうか?と、ふと思った。皆さま、もう少しだけ離れてくださって構いません。とまた怒られそうな事を思ってしまったので、弘美の影に隠れた。


ロープウェイに乗って上にいくとガラス張りの温かい室内から、綺麗な夜景が見えた。すごい!地図みたいっ。北海道の先のところが地図の形そのままなのに感動してしまう。この形を元に出来ているのだから当たり前なのだが(笑)そうと判っていてもやっぱり、ここにいる!と日本地図に人生ゲームで使う人形を刺せそうなくらいに自分達のいる場所がはっきりと分かった。


結構温かい室内に、北海道の人は寒がりだという話を思い出す。寒いところに住んでいる人の方が寒さに強いのかと思うが、暖房を強くかけるので、室内温度は、せりか達の住む所よりも高く設定するので、北海道出身の人が、こっちは寒いよね~!と言って皆を驚かせた事を思い出した。今も少し着こんでるので、汗ばみそうだった。後からひえるので上着を脱いだ。


皆も口々に地図って正確なんだねっとしきりに言っていたので、さっきせりかが思ったような事を思ったのだろう。せりかは、横浜よりも神戸よりも、この地図っぽい函館の夜景が好きになった。


横浜は見慣れているし、神戸はあまりにも横浜と似ていて有難味に欠ける。神戸の人からみたら、横浜も遠いところに来た気がしなくてきっと旅行という点では有難味がないんだろうと思う。その点では、こちらは港の光も素朴で有り難さからいったらダントツに風情があった。


新婚旅行は、海外だから(予定)、その後くらいの家族旅行でまた来たいなと思う。それくらいせりかはこの函館がとても気に入ってしまった。明日の教会やテディベア博物館もこうなると期待が膨らんだ。食べ物も空気も美味しいし、道はまっすぐで車酔いもしないし、北海道ってほんとうにいいところだとせりかは思った。


横浜と神戸にお住まいの方、気を悪くされたらすみません。あくまで、話の上での主人公の個人的な感想です<(_ _)>

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