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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
43/128

43

バスの前方の席を見ると、せりかと橘が、いつもの様にど突き合っている姿が見えた。じゃれる二人は子犬の喧嘩を思わせる、のどかさに包まれていたが、喧嘩の形勢はやはり、せりかの方が不利に見えた。それを見て本庄は安堵しつつも少し笑ってしまった。


せりかから頼まれてた本庄が、橘に話をすると、予想通りの答えが返って来た。橘も有る程度は、せりかがこのままの状態で旅行に行って周りの空気を悪くする事は出来ないだろうとは、考えていただろう。


橘から和解を申し込む事は、せりかと付き合う事を撤回する事になる。そんな愚かな選択を、あの橘がする筈も無い。だから次善策で本庄にせりかの事を頼んで来たのだろう。本庄以外の奴には頼みたくないと普段の彼に似合わぬ独占欲と嫉妬の混じった言葉を聞いた時には、純粋に橘にここまでさせるせりかに感心したが、本庄にとっても特別な存在だと知っても、尚、彼は、せりかを委ねる気持ちになったのだろうか?と自嘲してしまう。


今迄、恋愛して来た事が無い訳では無かったが、本当に相手の事を想っていたかを思うと、結果的には自分のなかに今の様な強い気持ちが存在していなかった事を思えば、自分は相手からすると冷たい男であったと思う。決して相手の女の子達を軽んじたつもりは無いが、自分に対して与えてくれる安らぎは一瞬で、後は、男女の駆け引きが透けて見えていただけの様に思う。実際に自分もその駆け引きを楽しんでいた所があった。付き合う女性が年上が圧倒的に多かった事を思えば、彼女らに自分の背景に対する打算は皆無では無いのだという事は、その時から解っていた。その中には、家庭教師や、父の秘書といった、親と雇用関係が有る事を考えれば、向こうも純粋に本庄本人を見ていた訳ではないだろう。そして自分もそれも仕方が無い事だと自分の一部として切り離せない以上、受け入れて割り切れていた。特にそれに対する嫌悪や苦悩など無かった。むしろ、当然の事と考えていた為、相手を責める気持ちには成らなかった。


別れは、相手の自尊心を傷つけないようにしながらも、いつも本庄の方から切り出した。それ程思う気持ちも強く無かったのか、婚約者の存在を先に話している為か、縋るような女は誰ひとりとして居なかった。今にして思えば、別れる時の事を、つき合う前からシュミレートしてしまう自分は無意識に縋る事等しないプライドが高い女性を選択していたのかもしれない。




真綾は、自分がずっと守って来た掌中の玉だ。本庄に纏わりつくようにして懐く可愛い従兄妹は、いずれ自分の隣に立つのだろうと幼い頃から思ってきた。


しかし、いずれ、一緒に会社を担う事を考えれば、今の様に箱入りのままの状態でいてもらっては困る。たとえ、辛い思いをしても早めに世間を知ってもらう必要がある。他にも求めたい所はあるが、それはその後の話だ。親にも話して、二人で公立高校に入った。真綾の親は、綾人との将来の事を考えなくても、その方が娘の為になるだろうと考える聡明な人達だった。綾人と同じ学校という事も安心材料の一つだったのだと思う。どう手を回したのか、一年生の時は同じクラスだったのだから、そうは言いながらも心配で有った事は分かる。


中学から、既に公立校に移っていた本庄にとって、県下一の公立校は、そんなに危ない場所では無い事は分かっていた。


なるべく過保護にしない様に学校生活を送りながら、真綾も段々と世間の普通を認識出来る様になって来た。自分の事を普通じゃないと認識出来る程度には……。


この自覚はかなり大事なものだと本庄は思っていた。自覚がなければ、反省も出来ない。尚且つ、慎重さも身につけた真綾は思っていたよりも、骨のある女性であり、少し見縊(みくび)っていたかもしれないと反省した。見方を変えれば、自分の為に変わって貰おう等と、奢った事を考えていた訳だが、真綾の成長と共に傲慢な考えであった事を反省するようになった。まだ、十代の半ばで、将来を決めてしまう事は、彼女の為にはならないだろう。今迄、そう思わなかったのは、自分が居なければ、彼女は一人で歩いていけないだろうと奢った考えが根底にあったからだ。


真綾には、自分が必要なのだと納得して、安心してしまう自分がいた事は確かだ。其処に存在意義を見い出して縋っていたのだと思う。


面倒を見てきたつもりが、こちらが、見させて貰ってきた事に気が付いたのは、せりかと出会ってからだった。彼女にも似たような存在の男が近くにいて、まるで鏡を見る様に関係性が似通っていた。


せりかを甘やかす幼馴染は、校内一モテるが、それを頓着しないおおらかな性格に、無邪気な朗らかさを持ち合わせた、中々、好印象な男だった。


しかし、人間として自立した彼女は、必ずしも彼を必要としていない事が判った。彼が守って来ただろう筈の彼女が、他の男でも充分に幸せになれるだろうという事は、手に取る様に解った。現に橘とその時に付き合うかどうか悩んで、本庄に相談して来たのだ。


せりかが、躊躇なく高坂の手を取っていたら、自分の中の迷いは、見ない振りを出来たのかもしれないが、現実を直視しなければならなくなってしまった時点で、自分の存在意義を守る様に、真綾に付き合いを申し込んだのは、自分を守る為であって、決して真綾の為では無い事をその時から気付いていたが、結局真綾の為にならない選択をしてしまった自分を内心では恥じていた。



それなのに、そんな駄目な自分の事を好きだから、高坂と橘を断ったと言う、せりかには、本当の事を言ってしまって幻滅してしまって欲しかった。しかし、彼女は、真綾の存在を知っていて告白して来てくれたのだから、自分に有る程度の美化をしたのだとは解るが、打算は全くないだろう。そんな彼女に自分の苦悩を吐露してしまうには、何も見返りを求められていない現状では、ただ彼女に理解と許しを求める懺悔に等しい行為で、それをされてしまっても彼女が困ってしまうだけだろうと思った。



結局、婚約者のいる男の事など、想っていたところで何の益もないだろう。それに、そんな理由を橘と高坂も受け入れる筈はないだろうとも思っていたが、橘は、こちらが呆気にとられる程、あっさりと退いた。友として見て来た彼のおそらくは、精神的には初恋であろう事を考えれば、それは納得がこちらが行かないくらいに綺麗に手を引いた。


高坂のやはり諦めきれない様子にこちらの反応の方が普通だろうと思った。


そして、自分の事をずっと好きでいてくれる彼女に、特別な思いを持ってしまう事は、真綾と彼女を同時に裏切ってしまう事になる。しかし、彼女が多分思っているよりも本庄は強い人間では無かった。彼女からの無償の愛情を無視出来ないし、それは、子供の頃から望んでも手に入らなかった特別なもので、結局はその甘い誘惑に負けてしまった事を完全に自覚した本庄は、これからの事を考えてしまい、じっとせりかを見てしまう自分を、隣で寝てしまっていたと思っていた真綾が気付いてしまっている事に、この時は気付けなかった。


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