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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
40/128

40

「だから~、椎名さんが決めることじゃん?!」


「そうだよ!玲人。昼休みに会える様にしてくれよ…頼む!」


サッカー部の一角で、声を潜めて話す団体がいた。人数は六人。一際ガタイのいい少年を取り囲んで、何かを懇願しているが、少し離れた位置からは、話の内容は分からない。




伊藤に諭されて、騒ぎを大きくしたら、ライバルが増えてうまく行く確率がぐんと落ちるぞ!と有り難いアドバイスを貰った少年達は、出来るだけこの情報は自分達、もしくは自分の為だけに役に立てたいと考えていた。元々、サッカーを続けながら、この進学校に来られている時点で彼らはそこそこの頭の持ち主の集団だった。自然と先輩の伊藤の言った事の理解も素早い。


彼らの憧れの彼女、椎名せりかは、黒目がちの大きな目に、黒く光沢のある綺麗なストレートな髪に、肌理が細かい白い肌、通った鼻筋に、形の良い薄らと紅い唇という整った可愛らしい容姿で、それでいて学年首席の成績を取りながらも、慎ましい控えめな性格をしていた。去年の文化祭ではシンデレラ役をしていたが、彼らの中では、断然、「白雪姫だよなぁ…」という意見で一致していた。


しかし、せりりん(せりかのファンの中の通り名)は、玲人と忍という、芸能人やアイドルもかくや…と思われる王子もどきが二人も傍にいる為、せりりんの彼氏はこの二人のうち、どちらかだろうと(もく)されて来た。実際皆でどちらが、せりりんの彼氏か?論争は良く持ちあがっていた。大体のところで、多分玲人だろうという所に落ち着いた。


玲人に決まった理由は色々あるが、やはり一番の決め手は、一緒に歩いている時の距離にあった。忍と比べると明らかに距離が狭い!くぅー!やっぱりあれって恋人の距離だよなぁ?と後ろから指をくわえて見ていると、そんな親密そうな二人の中に、なんの躊躇いも無く入って行く忍を見ると、忍が空気を読まないだけなのか?もしくは、皆の希望どおり、せりりんはフリーなのか?と盛り上がる。


多少、切ない思いをしながらも身近なアイドルの話題で一喜一憂して楽しんでいた部分も大きく、しかも、決定打が打ち込まれない為、少しの希望を持って彼女を想っていられる事で、なかなか諦めない者が多かった事は必然だった。


そこへ、この間の玲人の雑誌事件である。玲人は否定したが、せりりんファンの中では、誹謗中傷から、雑誌の彼女を守る為で(そうあって欲しい!)本当は玲人の彼女なのだろう、という結論を勝手に付けていた。


一番、彼氏の有力候補の玲人が消えた事で、せりりんを想う者の中には、本気で付き合いたいと思うものが出てきたのも必然だ。今迄半分以上諦めていた所に、せりりんフリー情報が濃厚になってくれば、此処にいる者は皆、自分に自信の無い者達では無い!この中から、誰が彼氏になってもいい筈だと思うのは当然の事だった。


ただ、女子の集団の様に、抜け駆け無し!とか、『みんなのもの』など、玲人に寄せられるような思いは、彼らの中には無い。むしろ、皆がライバルであり、同士でもあるので他より抜きん出る事を考えつつも、うまくいった奴の事は、涙を飲みながらも祝福してやろうという、さっぱりとした気の良い仲間でもあった。


修学旅行というビッグイベント前に、緊急速報が流れて来た時には、皆で歓喜の雄叫びを上げた。『『『『よっしゃー!』』』』。


なんと、我らがせりりんが彼氏募集中らしい。玲人に彼女が出来た所為で、傷心なのではないかと、的外れな心配をする者もいたが、多くの者達にとっては、ビッグチャンス到来である。


たまたま、玲人に教科書を借りようと行った一組で、この中の一人の二組の安藤将太(あんどうしょうた)というサッカー部の少年が、せりかに無理に橘を押し付けようとする玲人の姿を見た。明らかにせりりんは困惑の色を浮かべながらも、玲人に逆らえない様子に、玲人のせりかへの影響力の大きさを感じた安藤は、玲人にせりかを紹介して欲しいと頼んだ。それを聞いていた仲間達も

『『『俺達も!!』』』となってしまい、玲人に詰め寄った。


「せりは、男に免疫が無いから、あまり恐がらせないでくれよ…一昨日だってナンパされて腕掴まれて震えてたんだ……だから、お前らも急に告白とかは頼むからやめてくれ!」


温室で囲って免疫を薄くしたのは間違いなく玲人だった。しかしそれを知る者は少ないので、彼らを余計に焚きつけてしまう情報だった。


「忍は、ずっと五組の頃から一緒に委員やっていて慣れてるし、見た目も、なよっちいから、せりもあまり警戒しないと思うんだ…」


随分な言い様ではあるが、忍を一推(いちお)しにしている理由を玲人が言うと、納得出来る内容に皆が黙った。しかし、安藤だけは、現場を目撃していてせりかが、橘に色良い返事を返していなかった事から、そんな理由では諦められないし、直接は行かないから玲人からうまく友達からでいいので紹介して欲しいと理路整然と述べると、皆も後に続くことになった。


収まりかかった所に喰らいつく安藤を、忌々しく思いながらも、芯があっていいと思う相反する気持ちが玲人の中に起きた。思えば、安藤は、厳しいサッカー部に入りながらも二組に入り、(一組に入れた玲人はせりかのお蔭で、忍は別格だ)見た目も、キラキラしい忍に比べると、普通を良しとする、せりかの好みかもしれない…。それに、この本気度具合から安藤は、もう少し様子を見て候補に入れてやろうかと思い始めた。




玲人のそういう思考は分かり易い。安藤にも隙を与えてしまい、結局、サッカー部で紅白戦に勝ったら繋ぎをつけてくれよ…等と頼み、(サッカー馬鹿達の彼らは結局そういう頼み方しか出来なかった)それを玲人が(ことごと)く返り討ちにしていた。


次こそは~!とチャレンジする者が増えてきてしまい、見ていた関係無かった者まで玲人に挑みだして、此処はいつから道場破りの道場になったのか?!という不思議な状態にサッカー部はなっていた。


伊藤から、「椎名さん争奪戦」騒動の話を聞いていた部長と副部長は、実力アップの起爆剤になりそうな、この事象を大変歓迎していた。普段、玲人に比べると、テクニックが先に立ってしまい、ハングリーさが少し足りないのでは無いかと思っていた忍も、玲人の防衛の力になる為に必死になってアシストしていた。


伊藤はそんな橘の様子を見て、せりかの事を本当に本気で想っているのだと改めて思った。若宮も如何(どう)、この腹黒王子に丸め込まれたのか応援する様な事を言ってきたので、おかしいと思ってはいたが、女性の方がそういう所のカンが鋭いということだろう。




伊藤はサッカー部を影ながら、(知ったら激怒(げきいか)りだろうが…)応援はしてくれていないが…力になってくれているせりかに心の中で感謝したが、また、せっかく懐いてくれた子猫ちゃんに嫌われてしまうのかと思うと柄にもなく少し胸が痛んだ。


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