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幼馴染の親友  作者: 世羅
1章
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「ラブシーンが最後に無いと劇全体が締らないんだよ!やっぱり!!」


台本と演出担当の荒井絵美香が出来上がりつつある「一年五組版シンデレラ」に対して、声を張りあげる。


「「「「「はあ~?」」」」」


呆れた様に皆、力の抜けた答えを返す。特に当事者の二人は苦笑気味だ。


「あのね~。荒井さん。演出に力入れてくれるのは嬉しいけど、それはちょっとやり過ぎだと思うよ」


せりかが軽く注意をいれると、橘を始め、周りの者も頷いた。


「そうだよ。学園祭でそこまでやったら指導はいっちゃうんじゃね?」


「主役の二人にも悪いよ。そんな演出は」


次々と荒井を諭す言葉が出るが、流石プロ志向だけあって少しそれっぽい感じでいいから!と粘られる。


「大体、少し抱き合うふりなんてダンスとそう違わないじゃない?」


「「「「違う~!!!」」」」


踊る連中からは悲鳴が上がる。


本庄がダンスの先生として見かねて代表で物申してくれる。


「ワルツをしない人間から見ると抱き合っているのと近く見えるかもしれないけど、踊る当事者からは天と地程の違いがあるんだ。みんな、ダンスなら恋人じゃなくても手を握れるけど、それ以外でそういう事は無理だろう?女優や俳優じゃないんだから、そんなに割り切れないよ。まだ高校生なんだし」


「そうか~。ごめんね。出来あがりがどんどん良くなって来たら欲が出ちゃって。私も大分、無理目な事を言ってるのは分かってるんだ…」


荒井が、しょぼんと肩を竦めると皆、責めた事に段々罪悪感が湧いて来た。彼女は、そもそもよくやってくれているのだ。彼女無くしては、劇も素人ばかりで形になったかどうか分からない。


気まずくなった内のひとりが爆弾を放り投げた。


「キスシーンは?もちろんフリだけで。それで幕が降りれば、かなりめでたしめでたしっていう感じじゃない?」


「フリだって流石に見てる先生とかも分かるだろうし、それならば注意は受けないかもね」


「そうだよね。ホントにする訳じゃ無いし、そういう場面があったらすっごい素敵かも~」


女子中心にかなりの盛り上がりでキスシーン(フリ)の追加がついに決定してしまった。せりかにしたら大ショックだが、橘も口も挟めない状態でせりかを見るので、安心させるように『大丈夫、フリだけだし劇がうまくいったほうが嬉しいから』というと橘も頷いた。


しかし、あからさまな、フリなのもどうなのか?やはり一気に、冷めるのではないかという話になり、クラスの皆が、客席予定の色々な位置に立ち、照明も夜で、月夜バージョンに落として、どうしたらどの角度からみても離れて見えないか?という実験がはじまった。


せりかはやると言った手前、頑張るが冷や汗が出て来た。せめてもの救いが衣裳を着ている事だった。これが制服だったら本当にもう居たたまれない。橘の王子様の衣裳は、緋色のマントに黒のタイネクタイをしたスーツだった。物語の王子様っぽくないが、かぼちゃパンツは、似合わないからという理由でドレスもすべて現代風にする事で、浮かないようにしたが、橘の存在自体が、佇んでいるだけでも充分に目を奪われるので、あまり意味がないのではないかとせりかは思った。しかもタキシード風なスーツとマントじゃ、ドラキュラ伯爵に見える。しかし、橘が着るとそれに王冠を載せただけで充分王子様になるから摩訶不思議だった。


現実逃避すべく色々な事を考えるが、キスシーンは顔を限界まで近付けるので、もうビクビクである。橘や、本庄が、やっぱり止めたほうがいいんじゃないか?と取りなしてくれるが、見ている皆が、変な演出家スイッチが入ってしまって、「もうちょい角度右で」とか「少し手を添えると隠れて離れてるのが見えないからやってみて」と指示が色々な所から飛んでくる。それに少しずつ答えて行くうちに、全員からOKサインが出た。わぁーとか、おおーとか出来あがりに歓声が沸いた。


「すっごい雰囲気ぐっと締っていい絵になるよ!!やっぱりこれでいこう。立ち位置とか角度とか充分に今のを覚えこんでね!」


荒井が興奮して言うが、心の中はへなへなになっているせりかにこれを覚えている自信は全く無い。橘を頼る様に見ると、ガムテープを小さく分からない位にこっそりとその場所に貼った。それから携帯を持って来てもらい、本庄に写メールのムービーで体勢を一周まわって撮ってくれる様にリクエストしていた。流石、頼りになるなぁと変に感心する。本庄も冷やかす事も無く、黙々と作業をこなしてくれる。先生ありがとうと心の中で手を合わせる。こんな撮影、本庄で無ければ冷静にやってくれられないと思うと橘の人選にも唸らざる得ない。


「有難う。橘くんも先生も」


少し涙目になりながらお礼を言うと、二人がぎょっとしてせりかを見たが、本庄は早く涙を拭け!!とやや命令口調でハンカチを押し付け、橘は口元を押さえて顔を赤くした。


「どうかしたの?」とせりかが不思議がると「これだからお子様は!!」と本庄には珍しく悪態を吐かれた。橘は僅かに微笑んで、後で、メールで写メ送るねと優しく言っただけで質問には答えてくれなかった。何がいけなかったのか帰ったら玲人に聞いてみようとせりかは思い、それ以上聞くのをやめた。






帰ってからせりかは、恒例になっている二人の勉強会の後に、今日の事を劇の事だけすっとばして玲人に聞いてみた。玲人は、一瞬絶句するが、その後、呆れたように溜息を吐いた。


「あのさー、違ってるの分かって聞くけど、特に意図はないんだよな?」


「意図?って何の為の意図よ」


「やっぱり微塵もないんだな。分かってくれてる本庄に相当感謝すべきだな」


「ハンカチ押し付けられたけど別に拭かなくちゃいけない程、潤んでないよ。少し熱とかあるとウルッとするじゃない?あれくらいだよ。しかもなんか達成感と緊張が解けたんで気が少し緩んだだけで、泣いちゃったわけでもないのに…」


「あのなー。鈍いのもいい加減にしてくれっていうか、多分俺の所為か…。今迄、せりの周りから男連中排除してたから、極端にそういう事に疎くて無防備にさせてるんだな~。ごめん!」


「なんで玲人が謝るのかも訳分からない。確かに今迄、すこーし免疫薄いかもしれないけど女子校育ちじゃ無いんだし、喋ったり普通にしてきたんだよ?」


「うーん、なんて言ったらいいか分かんないから直訳しても怒らないか?」


「うん。怒らないから、はっきり私の至らない事を言って?それだけは本庄君の言い方で何と無く分かったんだよねぇ」


「一言で言うと、それは普通に見れば、男を誘っている様にみえるんだよ。せり…」


「はぁー?初心者が二人も一遍に誘えるわけ無いじゃん。ばっかじゃ無いの!!」


「だから~、無意識でやるのは無防備の馬鹿なの!それを気付いて本庄が止めてくれたんだろ。お前にそういう気が無くても男の方がグッとくるの!!」


「誰にでも来るわけ?節操ない感じ。普通、好きな人だけじゃないの?」

 

「高校生の男なんて大抵そんな事しか考えてねぇよ。今迄そういうの俺が排除して来たから危機感薄いかもしれないけど大抵の男ならせりはストライクゾーンだからある程度、気をつけないと駄目なんだよ」


「なんか私って、鈍くてすごく駄目な子みたい」


「みたいじゃなくて、だめだから!」


「きつーい。でも玲人じゃ無いとこんなにはっきり教えてくれないんんだから感謝しないとね。ありがとう。橘くんと本庄くんも教えてくれなかったもん」


「それは、無理だろう。半分自分で気付くようにしてくれてる分、本庄は場馴れしてるのか、ちょっと話聞いたら普通の奴と違うよな?」


「そうだね~。悪いから、直接は聞いてないけど、噂では、結構有名な企業の御曹司って聞いたけど。でも本人あまり言われたく無さそうだから、玲人も余計な事言わないでね」


「セレブで女慣れしてるって事か……」


「そんな感じ悪くないし、全然チャラくないわよ。なんだか色々と面倒見も良くて育ちがいい感じで他の子よりも少し丁寧な感じ?粗野の反対で…優雅って言ったらちょっと過ぎるけどなんだか自然にジェントルな感じって言ったらわかる?」


「ああ、大体分かった。まあ、いい奴なのもわかる。せりが、結構ボケてるのを知ってて、面倒見てくれてて、なんだか俺も手を合わせてお礼言いたくなってきた」


「私なんていつも心の中で手を合わせてるよ。実際言葉でも言うけど。ハンカチのお礼と共に何か作ろうかな?」


「ああ、それ駄目―。アウト。そいつにも、またお目玉喰らうと思う。少量の買ったチョコか飴がベスト。いつも噛んでるガムとか?そういう軽―い感じのにしとけ」


「分かった。そうする。遅くまでありがとう。聞いてくれて助かった。玲人には文化祭終わったらお菓子作ってあげるけど、それはセーフ?」


「もちろん!!」


満面の笑みで玲人が答えた。せりかも気になっていた事が分かったので、内容はどうあれ気分は良かった。これで数日後の文化祭がうまくいけば言う事なしなんだけど、といった気持ちになった。



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