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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
35/128

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せりかは、お目当てのジーンズを一本とトップスを旅行用に購入した。


それから、玲人とインド料理屋に入って、二種類ずつ選べるので、違うカレーを頼んで、分け合いながら食べる事にする。飲み物は勿論チャイだ。


「チキンカレーとキーマカレー、それにマッシュルームとほうれん草のカレーにマトンカレーでしょう?四種類食べれて得した気分だよね!」


せりかが言うと、ナンをほうばりながら玲人も頷いた。なんだか玲人といるとホッとする自分がいる。彼への気持ちは間違いなく親愛だ。父と母と同じくらい玲人が大事だと思う。


ほんわかとした気持ちの裏側で、時を経ても玲人とは、きっと恋愛にはなり得ないだろうと思う自分がいた。一緒にいる事は容易いし楽しい。もしも将来、今の気持ちのまま結婚をしたとしても、深い家族愛が最初からそこに存在するのだから、せりかの両親や玲人の両親のような良好な関係を築くことは可能だと思う。だからこそ玲人も、告白して来た時点で結婚という、いろいろな事をすっ飛ばした突拍子も無い事を言えたのだと思うし、その時の将来設計に自分とせりかが人生を共にする選択を、違和感無く思い浮かべる事が出来たのだろう。



あの観覧車に乗った日に、本庄に「彼の気持ちは彼のものだ」と諭されてから見えて来たものがある。多分、せりかの方が手を取るか離さない限り、ずっと今のままだと言う事だ。それに罪悪感はもう持っていないが、このままで良いとも思わない。


こうして二人で家族の様に食事をしていると、実際に家族に成ったかの様な錯覚に陥りそうになってしまう。


しかし、玲人の手を取れるか…というとそれは多分無理だ…。せりか自身が本庄を好きだという事も前提としてはある。しかし、それ自体も相手の優しさに浸っている状態で、決して真綾の事を裏切らない本庄を思い続ける事は、段々と苦しくなって来てしまうだろう。


自分の本庄への気持ちも、この優しい状態を良い事に続けていく事は、やめるべきだと思う。


玲人が、気持ちを受け入れないのなら、離れると言ったのを酷く責めて引き止めてしまったが、玲人がせりかに対して親愛とは別の感情がある事を思えば、怒って拗ねてしまった自分は、とても無神経な子供であったと今は判る。報われない恋を近くでみていなくてはならない事を強いる事は、とても残酷な事だった。


玲人は今、如何したいと思っているのだろうか?目の前にいても、気持ちが明確に見える訳では無い。今迄、関係を壊したくなくて避けてきてしまった事柄だが、ちゃんと聞いてみて話合う必要があると思った。


唐突だとは思ったが、玲人に聞いてみよう…と覚悟を決める。


「突然で、カレーを食べながら聞く話では無いと思うんだけど、これから玲人は、どうしたいと思っているの?」


「……如何いう意味で?」


少し玲人の視線がきつくなった。たぶんこちらのいわんとする事が解っていても、明確にはっきりとした言葉で話さなくてはいけないのだろう。


「…私達の関係が、このままの状態なのを、どう思っているの?」


「それは、せりも言っていたけど、もう少し大人になって、それから考えてもいいと思ってるよ。せりの事を待ってるつもりはないけど、その時にお互い付き合ってる相手がいなかったら、その時は俺達の事を考えてもいいんじゃないかと思ってる」


それは、せりかの望んでいる……模範的な解答に思えた。実際に半年以上前に、せりかが口にした酷な言葉だった。


待ってるつもりは無いと言ってくれるのは、プレッシャーをかけたくないからそう言ってくれるが、あの時の言葉のまま返してくれる玲人の気持ちは、まだ止まったままなのだろう。


「私は一度いろいろな事をリセットしたいと思ってる。本庄くんを想うことを、もうやめたいと思うの。玲人の事は、玲人が決める事だけど、……私は、新たな恋をしたいと思っているの」


「それはやっぱり、どんなに俺が変わったとしても、受け入れてくれないっていう事なのか?」


「今日、いろいろあったでしょう?玲人といるとホッとして安心するし楽しいけど、それは、こっちの勝手な言い分が生み出した結果じゃない?玲人が告白してくれた重さを、多分、私はあの時判ってなかったと思う。…離れると言ったのを怒ってしまった自分の勝手さに、今は後悔しているの……その後悔こそが、勝手なのも分かってるけど、でもその方が正しい道だったのが、今になって分かって来たの…玲人が言った事の意味が、今は理解出来るのよ…」


「本庄を諦めるなら、俺のところに来てくれ…。絶対に後悔させないから……」


「…それは、出来ない。多分この先も無理だと思う。玲人には、違う種類の気持ちが強すぎて恋情にならないって、玲人とこうやって家族みたいな事をする度に思い知らされるの。何度も玲人との将来を考えたけど、それは共に歩いていけても、玲人の望む気持ちを返せない。最初はそれでもいいかもしれないけど、段々と辛くなるのは目に見えてるよ」


「……………せりを、変なやつに任せるくらいなら、辛くなってもかまわない!」


「それは、私が構うの!私に言われたくないかもしれないけど、玲人には、幸せになってもらいたいし、玲人は多分、私の事がなければ、当然のように幸せを手に出来る人だと思うの!勝手に聞こえると思うけど、同情とか後ろめたい気持ちから言っている訳では無いの!それに、玲人には玲人の気持ちがある様に、私にも私の思いがあるのよ。あの時我儘な勝手を言った私に、今の気持ちを玲人に理解してって思うのは……おかしいって思うし、玲人も私を詰りたい気持ちになると思うけど、それは覚悟して言ってるの。ごめんなさい…」


「………せりは、俺に悪いと思っているんだよな?」


「貰った気持ちに対しては思っていないけど、子供っぽい感情で、玲人にも家族愛を強要した事は、とても悪かったと思ってるわ………」


「じゃあ、ひとつだけ、俺のいう事を聞いて欲しい」


「…………何?!」


「俺以外のやつと付き合う選択をするんなら、忍と付き合ってくれ…」


「!!それは、出来ないよ。玲人だって無茶な事を言ってるのわかるでしょう?」


「せり、…俺にだってせりに、家族の様に思う気持ちもあるんだよ。自分よりも、せりを幸せに出来る奴にしか、せりの事、渡せないよ…」


せりかは、困って黙り込んだ。玲人の言いたい事も解るが、それは押し付けだ。しかし、せりかが玲人の気持ちを何も汲む事が出来ないというのは、今の段階ではいう事は出来ない。


黙ってしまったせりかに「それ以外の道は認めないから」と、もう一度言った。勝手だし、相手の気持ちも無視だし………でも無理難題を押し付けて困らせようとしている訳ではない事は、さすがに判る。玲人の譲れるギリギリのところが其処だと言う事だ…。


返事ができないまま、ふたり無言で家に帰った。気まずくは無いといったら嘘になるが、不思議と険悪な雰囲気には成らなかった。




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