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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
34/128

34

玲人と街を歩くといつもの事だが、女の子達が振りかえる。しばらく玲人に見惚れた後に、せりかの事を値踏みする様にみてくるのだ。


はっきりいってこの余り気分の良いものでは無い事態が発生しだしたのは、中学生の終わりころに、背がぐんぐん伸びて、逞しい肢体を玲人が手に入れた頃から起きだした。


その頃は、今以上に自意識過剰で傷付きやすいお年頃だったので、聞えよがしに「何~!隣の女、釣り合ってないよね~!どうみても」等と聞こえてくると流石に落ち込んで、食事も喉を通らなかった。


学校は、若干のやっかみはあっても、そこは慣れという物があって、事情も様子も相手も分かっているので、その様なひどい事を言われる事は無い。


街に出た時の容赦の無い言葉の方が、本当の事なのだろうとせりかはずっと思って来た。


今は、少し広い世界に出たせいか、世の中には綺麗な人達は沢山いるのだと橘や若宮などを思い浮かべ、自分がそうで無いとしても、いったいそれが何なのだろうか?と思う様になった。世の中普通の方が多く大半なのに、見ず知らずの人間にそれを咎められる筋合いなど何処にも無い。たとえ、知り合いだとしても皆無だが…。


そう考えれば、心無い言葉に傷付く方が馬鹿である。逆にあんただって全然普通じゃん!と言い返してやりたいくらいだ。


其処まで開き直った今は、玲人の横を堂々と歩き、値踏みの目は、侮蔑の視線で返す。こんなんだから、女王様などと思われてしまうのかもしれないが、こっちが視線を送れば、無遠慮に知らない人を値踏みした方の人間が、目を逸らすのだ。


たまにそういう良心も常識も遠慮の欠片も持ち合わせていない人種と出遭ってしまった時はとても嫌な女になってやる事にする。


「玲人~、あっちの人がずっと見てるけど玲人の知り合いか何かかなー?」


指指ゆびさしてやると真っ赤な顔で脱兎の如く逃げ出してしまう。我ながら、性格が悪いと思うが、色々と開き直った結果なので、此方が嫌な思いをした分、相手にもして貰わなければ、割に合わない。


これを美久や弘美も一緒の時にやると、「せりかもいい性格になったよね…」と言われるが、弘美はどうか分からないが、中学の時に悩んでいた事を知っている美久は、内心では常識知らずな女の撃退を快く感じている事を知っている。もうちょっと甘い処置の時は、不満そうにしている。せりかだって鬼では無い。相手の様子で、悪意度を見極める。


一番マックスは、じっと見て来る事を止めない子達に「何か?!お知り合いでしたか?」と玲人に言わせ、(ここは、玲人は純粋に疑問系で聞きに行く。なんかじっと見てて恐いけど、もしかして知り合いかもしれないし!などとそそのかす)玲人が声を掛けてくれた事に喜んで黄色い声をあげた所で、美久に「やだー!ストーカーもどきだったの?!やっぱり知らない人達だったんだー!恐―い!やっぱりそういう人って本当にいるんだねぇー!」とキャラに無い高く透る声で叫ぶと、どんなに無遠慮にこちらにあれこれ言ってきていたとしても玲人の前から綺麗に消え去る。


玲人も初めの頃こそ、せりかが神経質で恐がっていると思った様だが、最近は、はっきり制裁だと分かっているので行くのを断ってくるが、「元々の元凶に断る権利なんてあると思ってるの?私が言ってもいいけど修羅場っても知らないからね!」というと渋々三文芝居に付き合ってくれる。美久と弘美にプチ悪魔の所業と言われるのは、この辺りが所以ゆえんだろう。


もちろん此処までやる事は殆ど無い。私が、というよりも美久や弘美が隣にいて、被害に遭うと一気に沸点が低くなって数回やっただけだ。実際騒いだ此方も恥しいが怒りのが上回る場合のみの最終手段だ。


こんな気の強い、しかも腹黒くなってしまった女を今でも玲人は好きなのだろうか?と思ってしまう。普通は、幻滅してもいい筈だが、多分長い付き合いで良い所ばかりを見て来た訳ではないので、幻滅する事は難しいのだろう。元々が幻想ありきで、幻滅が対で存在しているのだから…。



しかし、今日の玲人は、やたらと可愛いと褒めてくるので、催眠術でもかけられたのか?!と思ってしまうが、そんな奇特な催眠術を掛けるような人は存在しない。と思った傍から、本庄か?と疑いが向いてしまう。彼ならその位の事が出来そうだ。しかし、橘と違って面白そうだからという理由だけで、悪乗りする性格でも無い事を思えば、今思った事は、完全に濡れ衣だろう。


じゃあ、そうなると正気かー!今日の仕上がり具合が、とてもいいのか?もしくはラピスラズリのおかげかなぁと美久達を拝む気持ちになる。橘だって、これを買うのにかわいい店に美久と弘美に引き摺りまわされたらしいから、かなり感謝しなければならない有り難い石だと思う。引き摺りまわした件は美久が教えてくれたが、王子は嫌な顔ひとつ見せなかったらしい。さすが、私と被っている被り物の厚さがちがうなぁと思ってしまったのだが、イヤリングを見ながら、そう思った事を懺悔したのだった。元々は、私の為であったと…。



その有り難い石の効果か今日の私はまあまあ、可愛いらしい!最初は気味悪かった玲人の賛辞も、そう思うと段々、受け入れられるようになって来た。私がニコニコしだすと玲人も嬉しそうに微笑む。なんだか、まるで恋人同士の様で、少し落ち着かないむず痒い気分になった。


「俺、スニーカー見たいんだけど、せりは、どうする?」


「じゃあ、こっちの靴の方で待ってる」


どこが、そんなに違うのか理解ができないのだが、男の子のスニーカー選びは時間が長いのだ。一緒に見ていても違いが良くわからないので、靴をみる事にする。




「ねえねえ!あの人格好良くない?」


「ホントだー!!めっちゃイケメンじゃん!芸能人ばりにカッコイイよ」


「一人で、来てるのかなぁ?声掛けてみる?」


玲人の事を言っているのだろうと思われる声が私の横の方で聞こえる。こういう時に思うのは、自分に被害が無いので、唯、感心してしまう。知らない人がイケメンだからといって声を掛ける勇気は私には無い。しかも顔がいい人イコール良い人とは限らない。変な所に連れていかれたら如何するつもりなのだろうか?と思うと違う意味でも勇気があるなぁと思う。


「お姉さん、一人でお買い物?良かったら、一緒に飯でも食わない?」


なんだか、同じ年くらいの男が声を掛けて来た。お姉さんと私を呼ぶが、年下という訳では無いだろうと腹が立つ。人間、年下には甘くなりがちでガードも緩むとでも思っているのだろうか?


「いいえ、連れが、居ますのですみません」


きっぱり断るが、仲間がガラスの向こうにいるのが見える。


「えー!お友達と一緒でもいいからさぁー!あっちで先輩が可愛い子がいるから連れて来いっていうんだよ!俺の顔を立てると思ってお願い!」


知り合いでもない人の顔を立てなきゃならない意味が、まったく不明である。「悪いけど」と言って立ち去ろうとしたら腕をつかまれた。


「マジでお願い!奢るし、先輩から怒られちゃうんだよ。俺が!」


本当に怒られて困るのかもしれないが、私の知った事では無いし、掴まれた腕が気持ち悪い。


「せり!!」


玲人が気が付いて、戻って来てくれたので、助かった!


「お前、離せよ!気安くせりに触ってんじゃねーよ!!」


「なんだとー!!」


と威勢よく振り返った男の顔が強張った。玲人を見て、勝ち目が無いと分かったらしい。そうだよねぇー。仲間がいて、例え腕っ節で敵うとしたとしても、こんなにイケメン君と人目のある所で女性の取り合いをすれば、まわりから嗤われるのは目にみえてるもんねぇ。ご愁傷様!


「オトコ連れなら早くそう言えよ!!」


と捨て台詞を吐いて仲間の方に走って行ってしまった。見ていた先輩達も許してくれるんじゃないの?良かったわねと思い、見送った。


「大丈夫か?!せりも早く大きな声だして俺の事呼べよ!!」


「うん。まさに呼ぼうかと思った所で玲人が気が付いてくれたから良かった!助かったよ~!なんか先輩に連れて来いって言われてるからお願いってシツコイんだもん!」


「それは、同情を買う常套句なんだよ。本当にそうなんだろうけど、ナンパに失敗したからって、一緒に遊ぶほど親しい先輩が怒ったりしないよ」


「成程ねぇ!そんな同情心、湧かない女に声掛けちゃって運が悪いわね!私も早くに連れが男の人だって言えば良かったんだよね。でも例え女の子と一緒の時でも行かないから、そういう断り方は違う気がしたのよね~。そうしてたら、相手が仲間がいる所為か気が大きくなってた感じで強引だったのよ」


「恐かっただろう?!ごめんな。せりが、早口で喋る時は、動揺してる時だもんなぁ。本当にごめん!」


「もう、やだなー!そういうの判っても見逃してくれてもいいじゃん…玲人のバカ!」


こういう時に判ってしまう幼馴染って本当に嫌だ…。本庄君の墓穴を指摘した時は、わざわざ言うなっていったじゃないの!玲人だって今はスル―してくれるトコじゃないんですか?!って言いたいけど、やっぱり安堵感の方が大きくて、憎まれ口を叩けない。腕を掴まれた時は、本当に恐かった。今迄で、こんなに執拗なナンパは初めてだった。女の子だけでいても、みんなでごめんなさいと誘いに乗る気が無い事を知らせれば、割とさっさと次に行ってくれた。


「俺が、馬鹿だったよ。せりを置いていくんじゃなかった。可愛いせりが、一人でいて声掛けられない訳ないよなぁ」


また今日の得意の可愛いが出た!と思ったが玲人の反省した様子にそこを突っ込む事は出来なかった。


「玲人が来てくれて、大丈夫だったんだから、買い物続けようよ。スニーカー決まったの?」


「あー!会計しようとしてた所だから、戻らなきゃっ!」


少し慌てた様子で売り場に戻ると店員さんが、商品を持って待っていてくれた。


「すみません!急に居なくなってしまって」


「いえいえ、彼女が可愛いと少しでも放って置けなくて大変ですよねー!」


彼女じゃないけど、店員さんに否定するのも無意味だし、おかしい。


「なんか、性質の悪いのに絡まれちゃったらしくて、騒いでしまってすみません。お会計途中だったのお願いできますか?」


「かしこまりました。お包み致しますので、少々お待ち下さい。あと、こちらサービスでお付けしていますので選んで下さいね」


それはシュシュが籠に沢山入っていた。せりかに合いそうなオフホワイトのものを選んで、せりかに投げた。


「珍しいおまけですね!」


「最近ジョガーが増えて来て女性のお客様も多いんですよ。走る時に、髪を縛るものがあると喜ばれるんですよ!」


「もしかして、女性限定のサービスですか?」


「いいえ、好評なので、彼女連れの方にもしていますから」


「そうなんですか。ありがとうございます」


せりかも買ってないのに貰ってしまったので、ペコリと頭を下げた。





それから目的の鞄屋さんに行き、一番荷物が入りそうなスポーツバッグを手に取った。


「ガラガラって訳にも行かないわよね」


「そうだな。今、持ってるの、黒だと使いやすいけど、黒の奴が多いから違うやつにするか、バンダナでも目印に巻いておいた方がいいぞ」


「うん。でも黒が、やっぱり気に入ったから、これにして何か付けとく事にしようかな」


「俺も、これがいいなぁ!結構入りそうだもんな」


「お揃いって笑われるわよ!いい年して…」


「こんなのみんな似てるんだから、気にしないよ。俺も黒にしよう!サッカー部の合宿とかにも使えそうだしな!」


二人で会計にいった。被害妄想かもしれないが、『ラブラブですね~』と店員さんの目が言っている気がした。お揃いを止めれば良かったのだが、私が違うのを買うのはなんだかくやしい。店員さんも悪気は無いのだろうと思うが、少し恥かしかった。



いろいろトラブルでお買物が終わりません。せりかちゃん救出で、玲人の株は上がったのでしょうか?

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