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「伊藤先輩も飽きませんねぇ~」
「せりかちゃんが可愛いからじゃ無いの?」
すごく美人な若宮に言われても納得感はゼロに限り無く近い。
結構この間の真綾の事件の収束で、伊藤が大活躍だったので、せりかは伊藤を見る目が変わっていたのだが、伊藤は相変わらず、せりかにプチセクハラもどきのちょっかいを掛けてくる。橘が居れば、彼に対する遊びで、事は済むのだが、少し趣向を変えたのか、いない時にちょっかいを掛けるようになって来た。
会長の若宮と会計の佐々岡百合が止めてくれる事が増えたていたのだが、二人も最近は何を誤解したのか、「人の恋路を邪魔し過ぎるのもどうかと思うの」とか訳の分からない事を言い始めて、よっぽど目に余る時以外は干渉しなくなったのだ。せりかが伊藤や他のメンバーに慣れて来て逃げられる心配が無くなったと思っている所為か、何処か微笑ましく伊藤とせりかの攻防を見守る様になって来た。
今は、橘は書記の先輩達と体育祭用の備品のチェックに行っている。会長職は一応全部の把握が必要な為、彼はせりかよりも多忙だった。
せりかはパソコンでの書類の作成が多い。とはいっても、今回の橘達が使う、チェック項目がある文書を印刷したり、前年度のから日時を変えたり、と細かい変更をするのが主なので、ファイルの場所さえ、判ればそんなに大変な作業でもなかった。あとは、エクセルで予算の管理を引き継いでいるが、これは、連れてきた会計の子にまかせるらしいが、副会長としてのせりかの把握して置かなければならない範疇らしい。「お金の事は二人以上でやるのが鉄則なのよ。変なトラブルになっても嫌だから」と佐々岡に言われて、納得した。今は会長の若宮とやっているが、本来は副会長の仕事なので、せりかになったら戻す事になった。
「せりかちゃんが色々、やってくれるから、橘は楽できそうだなー」
「それは、伊藤君がサボり過ぎるのよ。元々は、どっちが、会長の候補だったのか忘れているんじゃないの?」
「若宮の方が、適任そうだったから、前会長に進言しただけだけど?会長も俺よりも若宮の方が、安心だと思ったんじゃないのかな?」
「伊藤先輩が会長に成る筈だったんですか?」
「そうなのよ。せりかちゃんだって、女の会長なんて、どれだけの女傑なのって思っちゃったでしょう?」
「あ、はい。最初は女性の生徒会長さんは珍しいかなっとは思いましたけど、でも、生徒会の顔としては若宮先輩はぴったりだと思います!」
「ありがとう~!!なんだかそんなに優しい事言われた事って最近ないから泣きそうよ?」
「若宮には、みんな、いつも感謝してるって、なあ、佐々岡?」
「それは、伊藤には、春奈も言われたく無いんじゃないの~?嬉しさ半減どころかマイナスになるんじゃないの?」
「そうよ!百合のいう通りだわ!か弱い乙女を矢面に立たすなんて、男の風上にもおけないわ!橘君は、せりかちゃんにそんな事させそうに無いから安心ね!」
「そうですね。基本、橘くんは女性に優しいですから、会長職を押し付けてきたりは、しないと思います」
「せりかっち!それじゃあ、俺はすごく人で無しみたいじゃん」
とうとう、呼び名が、『せりかっち』になって来た。せりりんじゃないだけ良しとしよう…。
「人で無し迄は言ってないですよ!若宮先輩が、向いてらっしゃるから出来たことでしょうし、それで前会長も納得したんでしょうから。でも私には会長は無理なので、橘君も分かってくれてるだろうなってことですよ」
「せりかっちも言う様になったねぇー!お兄さんも鍛えた甲斐があったよ!」
「なんだか、愛のムチみたいに言われると全力で否定したくなるんですけど!!」
「いやいや、分かって貰えるまで、頑張らせてもらうからね♪先は、まだまだ長い事だし、手取り足とり教えてあげるからね!」
「伊藤君、今のは、完璧にイエローカード越えてるわよ!橘君がいたら、きっとカンカンよ!」
「そうですよ!橘君云々抜かしても、今のは、ちょっと悪寒が走りました……」
正直に言うと伊藤は笑い崩れた。怒ってくれていた筈の若宮や佐々岡まで、耐えきれなくて、噴き出したので、先輩に言うにしては言い過ぎたかと反省するせりかだった。
「いい!いいよ!せりかっち。悪寒って、マジで受けたわ」
「もしかして、言葉のチョイスを間違えました?気持ち悪いとかよりは気を使ったつもりだったんですけど」
堪え切れないと言う様に、若宮たちが、身体を捩って笑いだした。
「せりかちゃんって、最初の印象よりも面白いわよねぇー!!可愛いだけじゃ無いのがナイスよ!その「敬語で毒舌」はなかなか、いないキャラだと思うわー」
「もしかして、私、相当失礼な事をしちゃっているんじゃないですか?気を付けるんですみません」
「違うわよ!伊藤君のセクハラも軽くいなしてすごいなぁとは、思ってるけど、それをいい事に伊藤君がやり過ぎなのよ!それで、言葉選んで悪寒が走ったとかって、なかなか良いセンスしてるのがおかしかっただけよ!流石に伊藤君も内心、傷付いてるでしょう?貴方に靡く女の子ばっかりじゃ世の中無いのよ?」
「そんなに自惚れてないけど、正直悪寒はショックだなぁ!今迄、橘のブロックに遭ってきたけど、逆にこっちにダメージが来ない様にやってたんじゃないのかと思うくらいだよ」
「橘君って、気遣い屋さんだから、もしかするとそうなのかしらね~」
と若宮はくすくすと笑いながら言った。二人に揃ってそう言われると、何も言えないせりかだったが、慣れて来て、こんな風に軽口をきける様になって来たという事だろうと、優しい先輩達を見ながら思った。
それから数日後、とうとう体育祭の本番になった。練習があった訳でもないので、本番というのはおかしいかもしれないが、せりか達は、各クラスの体育祭の実行委員のお仕事が、ちゃんと出来ているのか、チェックする役割をしていた。
去年の体育祭の時には、こんな風に見回っている人達がいるなんて知らなかった。分かってはいたが、華々しい部分だけが、目立ちがちだが、生徒会は、基本的に縁の下の力持ちなのだと思うが、せりかは、そういう事は嫌いじゃない。誰かにみて欲しいわけでは無く、自己満足の世界だと思う。だからこそ、自分達の遊びもいれて楽しめるのだ。ボランティアという訳でも無く、趣味に近いかなと思うが、口には、それこそ出せないと思った。
三学年による、クラス別の対抗リレー等、前々から練習をする様な得点の高い競技は春の体力測定の結果から、スカウトが来るので、(個人情報保護法はどうなってるのよ~と思うが)今年もせりかに声が掛かった。生徒会の仕事があるから断ろうとしたが、やんわりと橘に止められて、走る事になった。橘も、一緒にでは無いが、走者だ。一組は他に、若宮も伊藤も走るので、なんだか生徒会チームの様だった。
男子と女子と別れているので、混合にしたほうが盛り上がりそうだと、橘に言うと、「来年はそうしちゃおうか」と答えられた。先輩達も、来年は全然違う大会になるとは、夢にも思わないだろう!使う機材とかは、変えないで、如何に面白くなるか?白熱するか?盛り上がれるか?だけをモットーに変える算段を橘とちょこちょこと話合った。連絡用に持ってもいいと言われている携帯のメモ機能に打ち込んで置く事にするが、今は、誰にも見せられない為、ロックは普段よりも厳重に掛けた。これで、来年の体育祭が楽しみだ。橘と目を見合わせて微笑むが、お互いの笑みはかなり黒い。
結局、善戦するが、オール一組チームは三位だった。優勝チームは、何故かゴーヤの種が商品だった。ゴーヤって苦いよね?と思ったが、お手伝いする時にはもう決まっていたので、まあ、花も咲くし、実も家族とかには好きな人もいるだろうと思ったが、優勝チームの前の花壇は、ゴーヤを植えてもいい権利もプラスされて、ecoカーテンで涼しくなれるらしい。涼しいのは、一階の三年生だけでは?と思ったが、それは、上級生の特権らしい。
私達の時は一、二年生にも恩恵がいく、賞品にするとメモするが、しかし、今回のもなかなか面白い!と思う。時流にも乗っていて、シャレが利いている。これ以上に面白いものは、なかなか難しい様に思うが、それを考えるのも楽しみだとせりかは思った。




