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「サッカー部の高坂君、一組の更科さんと付き合ってるらしいよ!!」
「うそー!マジで?!あたし超ファンだったんだけど!…っていうか更科さんって誰?」
「この雑誌見てみれば分かるよ」
「えー!!こんな子と付き合ってるの~!なんか思ってたのと雰囲気違うしー」
「そうだよね。何か子供っぽいし、発育不良?って感じだよね~」
「言えてるー!何か釣り合ってないよね~?それに高坂くんの事はみんな好きだったけど、みんなのモノって手出ししない約束だったのにね~」
「ずるいよねー!でも何かこの雑誌のせいで説教喰らってるらしいよ」
「身の程しらずだっつーの!反省して早く別れてくれればいいのにね~」
「ホントだよ~!高坂くんもこんな女じゃ満足出来ないんじゃ無いの?きっと直ぐに別れるわよ」
色々なところでこの雑誌の事が囁かれているが、やはり真綾に非難が集中してしまっているようだった。真綾位、可愛くていい子なら玲人には勿体無いと思うのだが、玲人に想いを寄せる女子にはそうは映らないらしい。結局真綾がどうこうじゃ無くて、だれが彼女でも我慢ならないのだろう。
「本庄君、どうしよう?なんだかマズイ事になってるよ!何とかしなきゃ…」
「うーん。高坂には悪い事したなぁとは思うけど、完璧に真綾の過失だよね。ああいう取材受ければ写真が掲載されるかもっていうのは前提の話だし、高坂はこれだけ人気あるんだから、こうなる事は有る程度、予想できた訳だよね?」
「でも、謂われの無い悪口言われたら、真綾さんだって傷つくんじゃ無い?玲人がこんなにモテるなんて私だって予想外だもん」
「予想外なの?でも椎名さんは、高坂の事、近寄らせなかったから、用心してたんじゃ無いの?」
「それは、半ぶんは橘君にそうした方が良いっていわれて、それに中学の時は少しやっかみもあったから、気を付けてただけで、まさか此処までとは思って無かったよ」
「何とかするって言っても噂は収まらないだろうから、単独行動取らせないくらいしか今は出来ないと思うよ。俺との事を言っても、火に油を注ぐだけだと思うから暫くは様子を見るよ。実害があったら、証拠ばっちり揃えて訴えるけどね!それこそ、真綾に傷一つ付けたら、どんな手使っても退学して貰うから!」
やっぱり、本庄も、この状況で何も起きないと楽観視している訳じゃ無い様だ。とるべき措置は全部とって、それでも、噂や悪口などは、どうしようも無いから静観するしか無いのだろう。
それからの教室の移動は皆で、真綾を囲んで見えないようにして動いた。トイレも美久や弘美やクラスの女子で連れだって行った。
幸い一組の女子には玲人が本当の事を説明したので、誤解だと分かってくれた。元々、玲人が説明しなくても殆んどの子は余り気にしていない様だったが、唯、四人程、玲人の熱心なファンの子がいて真綾にでは無く、玲人に事情を聞いてきたので、何と無くまわりにいた人達にもついでに説明するに到った。元々、同じクラスだった元五組の子が中心となって、警戒してくれている。橘が、皆に頼んでくれたらしい。皆も仲間の危機とあって協力してくれている。常に十人以上で動く様子は、異様ではあったが、橘くんを筆頭にした大所帯の団体に文句を付けてこれる人は居なかった。
「私が悪かったのに、みんなに申し訳ないわ!!」
珍しく気弱になった真綾の頭を撫でると、薄らと涙を滲ませた。
「ずっとって訳じゃ無いし、皆も、纏まって行動してるだけだから気にしない方がいいと思うわ。もちろんとても有り難いとは思うけど、私も含めて純粋に真綾さんが心配なだけだから…」
「有難う。せりかさん…」
玲人も申し訳なくは思う様だが、真綾に寄らないように言ってあるので、出来るだけあの雑誌に書いてあるのは軽いノリでジョークだからと周りに説明するのに留めていた。
「玲人の奴、玲人のくせに随分騒がれてるらしいじゃん!」
生徒会室に昼休みに手伝いに行くと伊藤がせりかに声を掛けてきた。
「本当に玲人のくせに!!ですよ」
「せりかちゃん、橘にだけじゃ無くて玲人にも連れないんだねぇ。もしかして男嫌いなの?」
「違います!好きな人はいます!!」
「そーなんだぁ!告白とかしないの?っていうか誰?!俺の知ってるやつ?」
思わず乗せられて、余計な事を口走ってしまって、何て言おうかと思案していると橘から助け舟が出された。
「先輩、プライバシー侵害ですよ!そういう事は、もうちょっと親しくなってから聞くべきでは?」
「おおっと!正論出たね。じゃあ親しくなれるようにがんばらなくっちゃねぇ~」
「今度はセクハラ入ってますよ!!オヤジ臭いから止めて下さい」
「間髪入れずにキビシーね~!せりかちゃんどう思う?ああいう男?」
「…私を庇って言ってくれてるのにどうもこうも思いませんよ!」
「伊藤君!ふたりに毎日、突っ掛かってるとその内、嫌われちゃうわよ!特にせりかちゃんに…」
「それは、困るかなぁ!役員の業務にも支障をきたすよね~。俺からせりかちゃんに引き継ぎなんだからさ!」
「そうよ!せりかちゃんに嫌われたら困るでしょう?逃げられちゃったら一生恨むからね!!」
「若宮は、橘に引き継ぎだから、橘を捕獲しておけば安泰なんじゃ無いの?恨まれる筋合いないと思うけど」
「この頃は、せりかちゃんが居てくれるだけで、この殺伐としてた生徒会室も癒しの空間になって来たのに冗談じゃないわ」
「なんだか若宮の方が中にちっさいおっさんが入ってる気がして来た……」
「なんて言って下さっても結構!とにかくせりかちゃんに半径一メートル以内近寄らないで頂戴!」
「今日は何か、みんな機嫌悪いよなぁ?何でなん?」
「若宮先輩は伊藤先輩と違って、神経細やかなんですよ。…俺たちの友達が玲人の事で困った事になってて気持ちが落ちてるのが分かってらっしゃるんですよ!」
「噂の相手の子友達だったんだー!それは、大変だったなぁ!庇って神経使ってたから機嫌悪かったのか…」
「そうよ!あの雑誌の子を囲んで十人くらいでガードしてるの見たもの!二人とも大変なんだから、伊藤君の戯れの相手まで出来ないわよ」
「相手の子って玲人の彼女じゃ無いの?」
「それは、違うんです!!私も一緒にいたんですけど、たまたま、二人が取材されちゃって!だからデートとかじゃ無かったんです…」
皆で守ってるけど心配だと言うと、若宮先輩が出来るだけ、同級生で部活をしている子達に話して後輩の子に違うという事を広めてもらう様に手伝うと言ってくれた。伊藤先輩も部活を見に来ている子達にフォローを頼むと言ってくれ、結構伊藤先輩もいい所があるなぁと思った。後は、沈静化を待つしか無かった。




