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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
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26

「生徒会のお手伝い?」


せりかがきょとんとすると橘は少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「そう、今度体育祭があるでしょう?それに参加して欲しいって打診があったんだ。俺と椎名さんに」


「誰から?」


「生徒会からだけど、まあ、会長と副会長からかな」


「人手が足りないの?」


「うちの体育祭はたいした事もしないし、人手が足りないって事も無いんだけど、選挙は秋だから、今のうちから仕事を覚えて欲しいみたい」


「引き継ぎって事だよね?選挙で選ばれてもいないのに引き継がれても選ばれなかったら意味無いんじゃないの?」


「そうなんだよね。手伝ってたのに選んで貰えないとやっぱりきついよね~」


「それってそういう事も有り得るってことでしょう?なんだか大丈夫なのかな?」


「だから、好感度アップ作戦、一年の時から草の根運動、してたじゃん!」


「草の根運動って…あの幾つかの悪企みは、草の根運動だったって訳なの?」


「前にそう言わなかったっけ?玲人との事も気を付けてたのも、選挙も大きいけど、こうやって声を掛けてもらう為だったんだよ。悪目立ちすると選挙に通らない可能性があるから、その前にお手伝いの声も掛からなくなるからね」


「なんだか奇妙ね。次の生徒会役員は前の生徒会の人が決めるみたいな感じよね。民主主義じゃないみたい」


「それが現実なんだよ。結局仕事はしてもらわないとならないけど、一年から役員の奴っていないから、結局秋の選挙まで待ってると三年生も受験勉強もあるから引き継ぎは今くらいからして置きたいんだよ」


「建前と現実は違うのね。それでどうするの?」


「これから生徒会長達にご挨拶、顔合わせとこれからのスケジュールの説明があるから」


「わかったわ。なんか緊張しちゃうわね。先輩との繋がりって今迄皆無だったから…」


「部活してないもんね。でもうちの学校って半数は部活してないし、してても同好会レベルだから、珍しくないんじゃないのかな?」






生徒会室を見渡すと、何台ものノートパソコンと一台のデスクトップとプリンター、そしておおきな楕円形の机が中央にあり、椅子が何個かあった。小会議室といった感じだった。そこで数人が昼食をとっていた。


私達がノックの後に失礼しますと入室すると、皆、一旦昼食を取り止め、私達に挨拶をしてくれた。本来下級生である私達から自己紹介するのが筋だろうが、こちらは急に呼ばれた身でもあるので、先輩方の自己紹介を聞いていた。


「会長の三年一組の若宮春奈わかみやはるなです。今日は、急に呼びだしてしまってごめんなさいね」


会長は何回かの行事の挨拶で知っていたが、美人で賢そうな女性ひとだった。おまけに感じも、ものすごく良い。こうじゃないと生徒会の顔にはなれないんだろうなとせりかは思った。


「副会長の伊藤律也いとうりつやです同じく一組です。よろしく。君達が次代の会長と副会長だから、頑張ってね!」


うわー!暗黙の了解だと思っていた事をはっきり言っちゃったよ!と心の中で突っ込むが、伊藤先輩は面白そうに私達の反応を見ていた。


あと、書記の二人と会計の計五人で運営しているのだと説明された。驚いたのは、全員が同じクラスだった事だ。


後から、橘に聞くと代々そうらしいので、珍しい事でもないらしい。勿論例外もあるが、こうして一組から私達のように会長と副会長が決められると後は仕事を一緒にやり易い人を連れて来る事になるという事だった。


今回は体育祭の各クラスの実行委員への仕事の振り分けや、説明会が行われるのでその際の書類の作成等の説明を受けた。


「橘くんはお兄さんが私達の二代前の会長だから、この指名制はあまり違和感は無いみたいね」


不意に会長の若宮さんが言ったので、驚いて橘君の方を見るとにっこりと肯定の笑顔を見せた。


「うわー!お兄さんもカッコいいなぁとは思っていたけど、弟さんの方も近くで見ると迫力あるわねぇー」


若宮さんが感心した様にいうが、初対面で橘を見れば、十人中十人が同じ感想を抱くだろうと思う。一樹(いつき)さんも顔の造作は整っているが、随分砕けて気さくな雰囲気だった。橘は高嶺の花感満載の人だと思う。無駄に綺羅綺羅しいのに、他人をある線から近寄らせない。過去の経験からかもしれないが、今はストイックな感じで出来過ぎな印象を与えるので、よけいに近寄り難い感じだった。


「兄はああいう感じの人なので、ご迷惑を掛けていたんじゃ無いですか?」


「ううん。私達、その時一年生だったから直接はお話させてもらった事はあまり無いんだけど、私達の前の先輩達からよく話を聞かされてて、色々と無駄な事とかカットしたり、文化祭の規律を緩くして楽しめるようにしたのも橘先輩だったらしいの。今迄って文化祭は、やっても良い範囲が厳しくて、出された企画も結構却下されていたらしいから」


一樹さんってすごい人だったんだなぁって思うが、橘は知らなかった様で純粋に驚いていた。家ではかったるそうにしていたのに…とうっかり洩らしてしまう程だった。


「椎名さんは、橘君と親しそうだし、いい補佐役になってくれそうよね」


「いいえ、そんなこと…」


「謙遜はいいよ。一年の時の文化祭は感心したよ。一年のクラスが最優秀を取ったのって初めてみたいだよ。頑張ったクラスとかがあると、特別賞とかは出していたらしいけど」と伊藤先輩がいってくれた


「ああ、あの劇は脚本と演出を担当した子が頑張ってくれたんです」


「劇の中では恋人同士だったけど実際は付き合ってないよね?そういう雰囲気ゼロだもんね~」


からかうように伊藤が言うと橘が抗議の声をあげた。


「伊藤先輩!!余計な事言わないで下さいっ!」


随分親しげな様子に二人が知り合いであった事が判って橘に聞くと、どうやら伊藤はサッカー部の先輩らしい。最初から言えばいいのに、橘はやっぱり狸だ。一樹さんの事だって一言も聞いていなかった。妙に詳しいとは思ったが部活の先輩が副会長だったのか!


運動部と生徒会は両立出来るのかという心配は皆無になった。ここに生きた見本がいるのだ。多分、予算や場所の使用権を握っている生徒会の権限は大きく、自分達の部に生徒会関係者がいる事は歓迎されるべき事柄のようだ。


「もちろんお付き合いしていませんよ!」


せりかがにっこりしていうと伊藤が「連れないねぇ」といったが、笑顔でスル―した。


「次期副会長さんもなかなか骨が有りそうだから、楽しみだよ。ね?若宮?」


「そうね。私達早めに引退させて貰えそうね」


と物騒な事を会長が言い出した。やっぱり任期中はやらなきゃでしょう!!と突っ込みたくなるが、いかんせ先輩に失礼な口はきけない。まして橘と違って初対面だ。


予鈴が鳴ったので、そこで一応、解散となった。明日の昼休みからお手伝いに入るから暫くは昼食は生徒会室で食べる事になりそうだ。


皆、気さくそうな人達で一先ずほっとした。






家に帰ってから今日あった事と伊藤先輩の事を玲人に報告すると「伊藤先輩と一緒だったら大丈夫だろう」と随分伊藤を信頼しているのが分かる感想だった。


「忍は、せりがビビるの面白がって余計な情報与えなかったんだろうとは思うけど、でも、言うと甘えも自然と出ちゃうから言わなかったんじゃねーの?ほら、第一印象って大事だろう?最初は緊張してるくらいの方が後輩は可愛いと思うよ」


「成程ねー!すべて計算し尽くされていた訳か……」


「普通はすごく親切って思う筈の所だけど、忍相手だとそういう感想にはなっても仕方がないよな…」


と玲人が普段の親友の悪行を思い、溜息を吐いた。


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