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「せりの事抜け駆けしただろう?忍、おまえって本当に友達甲斐の無い奴だよな」
お好み焼きを頬張りながら言われてもあまり効果は薄い。
「何の事?抜け駆けなんて人聞きが悪い事俺がする訳ないでしょう?玲人が一回でも椎名さんの事好きって言った事あったっけ?無いよね。それでも分かれってそれは言いがかりってもんだよ」
いけしゃあしゃあと言ってのける橘の方が、口では全然優勢だ。玲人では相手にならない。
「大体、せりが本庄に転んだのだってお前の事相談に乗って貰ってるうちにそういう感じになったんだろう!」
「あれは失敗したね。婚約者がいる奴だからって安心してたんだよ。途中からは、結構仲良いからなんだかヤバくならなければいいなぁとは思ったけどまさかね…」
「俺が、いつからせりの事想ってたと思ってるんだよー!忍はその見映えだけで充分誰でも男でも女でも付いてくるんだから、せりになんてちょっかい出さなくてもいいのにさ!!」
「あ・の・さ、本庄はお前の方がカッコいいって言ってたけど?それこそ手近で済ませないで、もっと視野を広げて見ろよ。玲人に合って、玲人の事を想ってくれる子なんて沢山いるよ。一応、玲人の為を思って言ってるんだからな。あんまり思い詰めると相手も重いよ」
「人の事言えるのかよ!」
「失敗してるから言ってるんだよ。椎名さんはいい子過ぎて想ってくれる相手に気持ちを傾け過ぎるから、追い詰める事になるって分かったからこうして綺麗さっぱり諦める気持ちになったのに玲人が隣の家で、未練たっぷりにしてたら彼女も身動きとれないよ?少し休戦しなよ。大学生くらいになったら、玲人も本庄位いい男になるよ絶対」
「お前、俺の事本当に慰める気でいたんだな。からかわれてるか遊ばれてるとしか思って無かったけど」
「それも当たってる(笑)プラス励ます気持ちで、今日はきたんだけど?」
「お前は大丈夫なのか?かなり本気だったんだろう?わざわざそうじゃなければ、せりなんて面倒な所に行かないだろう?」
「それはもう、超本気でしたよ?全力でこんなにいったの初めてだし、だけど、気持ちが時に重い事も知ってるから真剣に相手が断ってきた以上はすっぱりあきらめるよ。玲人は俺とは微妙に先のある断られかたなんだから、とりあえず今は友達に戻った方が、絶対に玲人の為にもなるから…」
「そうだな。せり以外は今でも考えてないけど、今迄の関係で続けてみるしかないよな」
「そうそう、それに今度、本庄や更科さんとか森崎さんとか斎賀さんと遊びに行こうって椎名さんと言っているんだ。楽しそうでしょう?」
橘は意地の悪い笑みを浮かべながら玲人の方をみた。案の定、本庄の名前を聞いた途端に不機嫌になる。橘は玲人のこういう素直な所を好ましいと思ってはいるが、どうしても苛めたくなって来てしまう。
「本庄がいかないと椎名さんも来ないかもしれないよ?この間の暴言で玲人株大暴落だから」
「忍って本当に見た目天使なのに中身は悪魔だよな…。くやしいからせりに暴露してやろうかな?」
「椎名さんはとっくにそんなの知ってるよ。それに黒い俺の方が付き合いやすいって言われてるから隠すつもりないよ」
「……せりって趣味悪いんだな。幼馴染でも分かって無い事って多いんだな」
「自分でも自分の事ってそんなに分かっているわけじゃないんだし、まして異性の友人の全てを把握しようとするのは無理ってもんだし、気持ち悪いよ。悪いけどそれが許されるのは、彼女に想われている場合以外は立派な犯罪になるから気をつけてね」
「お前の辛辣な助言、ありがたいけど、なんだかもう少しあったかく言えないものなわけ?たちばなくん?」
「ゴメンね♪こういう性格なもんで、これが精一杯の温情かな?立場は玲人と同じなんだから仕方ないよ。さあ、俺も本格的にやけ食いしようかな」
「そうだったな。俺ばっかり振られた気持ちになってたけど、そもそも忍があまり落ちてないから、ついついその事実を忘れちまうんだよな」
「玲人は女々しいって椎名さんに吹き込んで、更に株を落としてやってもいいんだけど、落ち込まないのが彼女の為でしょう?玲人も今の態度じゃ椎名さんも落ち込ませるの分かってるの?しっかりしなよ!!」
「……本庄ってすごいな。お前にも靡かないのを彼女がいるのに向こうを選ぶんだから」
「本庄はすごいけど、椎名さんもまだ恋愛したく無いから無意識に相手にならない人に惹かれるんじゃないかと思うんだ。だから玲人も本気なら熟成させるつもりで地下に気持ちを寝かせておいた方がいいと思うよ。確かなことじゃないけど椎名さんも玲人の事、多分好きになると思うよ?だって俺の時には周りが面倒だって言ったのに、玲人の時は違った訳だからその時点で答えが出てると思うよ」
「そう願うしか無いか…とにかく、もう少し包容力をつけてお前みたく相手を思いやれないといけないんだな…」
「なんだよ!気持ち悪い。俺だって椎名さんに言わせれば駄目なんだから、見習っても無駄だから」
「いや、お前の俺とせりへの気遣い聞いてるとなんで、せりに振られたのか納得させられるよ。なんでお前を振っちゃうのか分かんないけどな。勿体ない事するよなせりも」
「タイミングが悪かったのと後はやっぱり、根本的な気持ちの問題だと思うけどね。でも、椎名さんは今でもこれからもずっと友達だし、俺のトラウマを解消してくれた恩人だからやっぱりずっと忘れられないとは思うよ。…彼女も初恋でファーストキスの相手だって言ってくれたしね♪」
「忍…、それ冗談だよな?せりから、其処まで聞いてない!!」
「残念ながら本当。シンデレラのキスシーンで掠っただけだったけど、どうせならもうちょっと感触わかる位しとけばよかったなぁ……」
「あれ、してるフリじゃ無かったのかよ?」
「まあね。でも椎名さんがよろめいたの支えてたんだけど、もともとすごく無理な体勢を強いられてたから支え切れなくてね」
「わざとじゃないのか?本当に?」
「それは無意識には願望もあったかもしれないけど、そんな事はしないよ。…唯、相手が違ったらもっと頑張ったかもしれないけどね♪」
「忍は、俺が落ち込むのを見るのが好きだってよく分かった。…俺はせりの幼馴染なだけなんだから、それは気にしない事にする。これで妬いたりしたら、もう一生せりに相手にされないと思う」
「玲人もわかってきたじゃん!!みんなでこれからは、遊びに行ったりしたいのに玲人の意識が変わらないんじゃ誘えないから残念かなって思ってたんだ。これからは楽しみだな?部活も二人ともレギュラーになれたし。まだ一年だからフルでは使って貰えないけど、お前と一緒にプレー出来るの楽しいんだ。同じ年の奴もいいのが揃ってるから俺達が主力の代になった時には結構上を狙えると思ってるんだよね」
「そうだな。いろんな人達の協力があって今が有るんだから、感謝しないといけないよな。親やクラスメイトや先輩達…それに仕事を沢山引きうけてくれた副委員の石原さんやせりにも感謝だな」
「玲人も多少は他の子に目が向き始めたのかな?石原さんって綺麗な子だよね?」
「そんなんじゃないけど、今は周りにいる全員に『ありがとう』って言いたい気分なんだよ」
「基本的に玲人は素直で明るいし今迄挫折無さそうだもんなぁ。これからも能天気なムードメーカーでいて欲しいな」
「はぁ~?!そんな評価されたの初めてだ。すっごい屈辱!!特にお前に言われたくない。他の奴なら鼻で笑ってやるのに!」
「悪い意味じゃ無いよ。椎名さんもいつも言っているけど、玲人は精神が強靭で羨ましいって。俺も実はそう思ってる。サービス精神豊富なのもすごいなって思ってるよ」
「なんだよ。褒め殺しでいろいろ無かった事にする気だろう?ッ最初に話題戻ってやろうか?!」
「戻ってもいいけど時間と労力の無駄だからやめような~。褒めてるのは本心でチームとか友達うちでもムードメーカーでいて欲しいとは思ってるんだよ。これから、お互い頑張っていこうな!!椎名さんに振られた者同士、連帯感も湧いてくるってもんだろう?」
「最後の一言が余計なんだよ……」




