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幼馴染の親友  作者: 世羅
1章
15/128

15

せりかは眠れずに月曜日の朝を迎えた。


ずっと自分の中で、好きっていう感情や恋愛ってどういう事を持って確かなものだといえるのだろうか?と考えていた。しかし、考えるうちに、玲人からの告白は断った場合、今後疎遠になるという事も含めたもので、今迄の自分達の歴史を否定された様で最初は悲しくて如何しようもなかったせりかだったが、段々玲人に怒りが湧いて来た。いくら何でもこんだけべったり生まれた時からして来て、こちらに彼氏が出来そうになったとたん、「じゃあね」は酷いのでは無いかと思えた。しかも橘を選ばず、玲人も選ばなくても同じ事だろうと思うと結局本当の究極の脅しだと思う。自分を選ばなければ許さないと言っているのと同義語だ。何て傲慢なんだろうと怒り心頭であるが、これが幼馴染の性格を知り尽くしていると(何も気が付かなかった時点でそうでもないのかもしれないが)傲慢なところも、我儘なところも、そういうところも、あったな~位で済まされてしまって、心でいくら罵詈雑言を浮かべてもなんだか虚しいだけだった。何を思っても今更過ぎる相手なのだ。それでも玲人は私に対して恋愛感情を見せた事は無かったと思う。だからいくら本庄に言われても信じる気になれなかったのだ。自分と同じ気持ちになるのを待っていたと言っていたが、自分の知っている玲人の性格を考えるとそんな気の長い事を考えていたなんて今でも其処だけは信じられない。橘のことが無かったら一生こんな事を言って来ないで、大学に入ったら綺麗系でナイスバディなお姉さんの彼女でもさっさと作って、せりもがんばれよ♪みたいな事を上から目線で言われていたんじゃないかとさえ今でも真剣に思えてくる。


昨日言った事が全て勢いだけだとは思えないが、勢いだけの部分もあるんじゃないかとは思っている。特にまだ十六なのに、付き合うって決めたら、即結婚も考えろというのはこれからまだ、どんな人とお互い巡り会うか分からないのには早計ではないかと思う。


しかし、そう言えば、真綾は本庄との付き合いは結婚も受け入れて付き合っているのだから、其処まで先の事を決めてしまって後悔しないのだろうか?と疑問になった。しかし、本庄には未来を委ねてもいいと思う位の包容力があった。とても不謹慎だが、本庄に言われたら、玲人も橘も振り切って付き合ってもいいと思う位、せりかはやさぐれた気持ちになって来た。絶対に無い事だから思うのかもしれないが、段々と疲れてきて、なんだか全部投げ出したくなって来た。




朝いつもの様に玲人が迎えに来てくれたのを、やっぱり嬉しく思ってしまう自分の気持ちを思うと余計に玲人に怒りが湧いた。不機嫌に歩いていると玲人は全然昨日の事など無かったように、「アレの日か?」等とからかってくる。ぶちんと切れて、「そうよ!!」と言ったら流石に黙ってしまった。こちらの怒り様が半端じゃ無い事が分かったようだ。


「昨日は、急に色々と押し付けるような事言って悪かったとは思ってる。ごめん。せりの事をそんなに簡単に離れてもいいと思っているわけじゃないんだ」


「そうだよ!ずっとこっちがもう少し距離置いてって言っても、昔っからおんぶお化けみたいにべったりして来たくせに酷いよ!!」


「でもさ…」


「でもも何も無い!!確かに好きな人が他の人といるの見るのツライとか思ってるのかもしれないけど、私達ってその程度の関係だったの?私に彼氏の二、三人出来た所で捨てられる様な間柄だったわけ?私が反対だったら、何があってもお祖父ちゃんとお祖母ちゃんになるまで玲人とは縁は切らないわ。絶対に」


「ごめん。お前の方が子供って思ってたけど、そうじゃないんだよな…俺の方が本当に如何しようもない奴なんだよな」


「分かってるなら、昨日の事許すから考え直して。そうじゃ無いと気持ちもどうか分からないのに私達結婚するしか道がなくなるじゃない!!玲人は私が玲人の事好きじゃなくてもお嫁に来てくれるならそれでもいいっていう馬鹿な考えで昨日の事言ったんじゃ、ま・さ・か、無いわよね?!」


実のところ玲人はそれでもいいと思う自虐的な思考だったが、それを今言ったら流石にせりかに殺されそうだった。というよりも逆に見捨てられそうだと思う。


「分かった。昨日の言い方は流石に極端だったと思う。せりかに酷い事言って悪かった。頭冷やして考え直すよ…」


「あー!!良かった!!もう、昨日ずっと考えてたら、恋愛云々は悪いけど如何でも良くなって来て玲人が縁切るって言った方が腹が立って来ちゃって!なんだかグレそうになったわよ。もう、いっそ橘君でも玲人でも無い方がいい気がしてきた。今言い寄られたら、ある程度妥協出来るから自分でもヤバイと思うわ。本庄君に言われたらまず間違いなくそっちに行きそうね!!」


真綾の事を知らない玲人にお灸をすえるつもりで昨日よぎった戯言を口にした。


「せりは、……あの、本庄の事が好きなのか?」


本気に取った様子で玲人が青ざめた


「彼は、とても包容力がある人だしね。昨日色々考えていたら、結婚まで何で考えられるんだろうって思ったら包容力が有るからだろうな~と思った訳」


「それって俺には其処まで考えられるほど、包容力が無いって事だよな」


「そうだよ。彼だったら、この位でガタガタ言わないわね~。婚約者の彼女、わざわざ橘君に近付けて揺らいでもいいと思うって人なのよ?最終的に色んな人を見て自分がいいと思う様なら結婚してもいいらしいわ」


ネタばらしをして、少しお仕置きを止めた。昨日考えに考えて思ったのは、本庄が特別なのかもしれないけれど、其処まで思われていたら昨日の玲人みたいな事は言い出さないだろうと思ったら、求め過ぎなのかもしれないが、自分が一番に相手に求めるものが、包容力だと気が付いた。橘や玲人のように容姿端麗で文武両道だったりしなくてもいい事に気が付いたのだ。


「…それを聞いてたら、昨日の俺の事を心が狭いって思っても仕方が無いかもしれないな」


「誰もが、本庄君みたいな考え方じゃ無い事も分かるから、仕方無い事もあるかもしれないけど、でも私達の関係は第三者が入ってきたら、多少は変わっても切れないで繋がってるって血じゃ無いけど、そう思っているのが自分だけだと思っただけよ。あと玲人と橘くんみたいにすさまじくカッコ良くなくてもいいから、一番に包容力のある人とお付き合いはする事にしたから、二人とも悪いけど、断る事にしたから…あしからず」


「おい、結論それかよ!!少なくともどっちか選んでくれるかと思ったのに」


「そうね~。玲人が包容力たっぷりの大人な人になった時に、玲人にも私にも恋人がいなかったら、付き合う事もあるんじゃないかしら?ずっとお隣さんな訳だし?」


「忍は?せりの思う包容力が今の時点で足りないのか?俺にはそうは思えないけど」


「有るのかもしれないけど、テッペン見ちゃうと悪いけど、理想が高くなるからねぇ」


「ああ、本庄に比べると駄目って事か…」


「そうそう。他のところで、橘君や玲人の方が上のところも沢山あるとは思うけど、今の時点の私の思うてっぺんは彼だけど、自分の求めている部分が分かったっていうだけで、彼女がいる事に落胆したりはしてないわ。だって、彼女に対する彼がとても良く見えるんだもの。これで、簡単に他の人に乗り替えたら超幻滅しちゃうわ」







クラスに着いてから、メールで昼休み屋上に橘を呼びだした。


「今日は返事を貰えるってことかな?」


「ええ。その前に昨日から色々、あった事を話したいんだけど聞いて貰ってもいいかな?」


「いいよ。玲人に相談するって言われた時から少しは、覚悟が出来ているから…」


「……橘君は玲人の気持ち知ってたの?」


「それは、分かるよ。なんでちゃんと告白して自分のものにして置かないのか不思議なくらいだったよ。玲人に言われて断るような子そうそうはいないだろうし、椎名さんを見たって玲人の事を気が付いて無いだけで好きなんじゃ無いかってずっと思ってたし」


「それは、駄目モトで告白してくれたって事?」


「ううん。気が付く前に俺の物にしちゃおうかなっていうずるい考え」


「……すごく違和感ある理由だけど、そういう橘君の方が好きだわ。面白くて」


「引くかと思ったのに流石、椎名さんだね。腹黒趣味なんだ?」


「ふふっ。完璧橘君より数倍いいと思う。そういうちゃっかりしたところを見るといつもがしっかり者な印象なだけに男の子に褒め言葉じゃないけど可愛いと思うわ」


「可愛いは確かに褒め言葉じゃ無いけど、椎名さんが言ってくれると誉められてる気がしてくるから不思議だね」


「私、玲人に付き合ってくれって言われた時に、自分を選んでくれなかったらこの先、縁を切るって言われて、もうぶっちん切れたのね。今迄十六年間の関係を、色恋沙汰位で切るなんて心狭くてびっくりよ!その時、自分が付き合いたい相手に何を一番求めているのか考えたの。それさえ有ったら後は有る程度許せるみたいなものを思い浮かべたら、包容力がある人だったら結婚まで考えられるかもねって真綾さんと本庄君の様子を見て思ったら、本庄君がいいなぁって思ってしまったの。玲人に結婚も考えてくれって言われたのも大きいんだけどね」


「…それは、椎名さんは本庄が好きって事になるよね?更科さんがいても」


「真綾さん含めた本庄君だから、本庄君みたいに包容力がある人だったら、橘君や玲人みたいに綺麗だったり頭良かったりしなくてもいいかなぁって言ったら分かって貰えるかな?」


「それは、究極のところに行っちゃったんだね。相変わらず突拍子も無いね」


そう言うと橘は微笑を浮かべた。


「そうなんだけど、極端な性格なのよ。こんな私とうまくやってくれる人なんて、心が際限なく広い人だって自分で気が付いたのかもしれないわ」


「……今迄、有難う。椎名さんの事、悩ますだけの結果になっちゃった事、悪かったと思ってるんだ。振り回すだけ振り回してごめんね。最初から断られてるも同然だったのに、おれが長引かせて足掻いただけなんだ」


「ううん。こちらこそ本当に感謝してます。こういう状況で告白になるけど、半年間、毎日どきどきしたり、ときめいたり橘君がそういう気持ちをくれた事に感謝しているの」


「それは、光栄だけど、自分でも惜しいっていう感じなんだなぁって落ち込むなぁ。玲人はライバルだってずっと分かってたけど、本庄みたいな人がいいって言われるとキツイよな」


「フォローになってないと思うけど、私は自分で自覚してるけど、特異例だし、先生曰く、橘君は、顔良し頭良し性格良しでおまけに声も良くて艶っぽくて引力あるってべた褒めですごく橘君の事を勧めてくれたのね。あからさまでは無いけど、私が断りそうになるとポジティブな要素持ちだして来てくれて、私と橘君のことすごく考えてくれているんだなぁって思ったわ。私もその通りだと思うんだけど、相談に乗って貰ってるうちにこういう感じの人だと話易くていいなぁとか思っちゃったんだ。私も潔く失恋してくるので、御相子にして貰えないかしら?」


「うん。玲人とやけ食いでもして、気持ちを昇華するよ。でも玲人は諦めないんじゃないの?俺よりずっと年季が入ってるし、これからも近くに居る訳だから…」


「それはね、お互い大人になった時に包容力も出来て、私も成長して、心狭い人とでも大丈夫とかになった時にお互い、恋人がいなかったら付き合う事もあるかもしれないわねって言ってあるの」


「俺より生殺し状態だな。椎名さんって結構サドっ気有りそうだもんね。玲人が苦労しそうだな」


「あら、意外と腹黒の橘君にサドなんて言われるなんて光栄だわ。女王様キャラで行こうかしら?これから……」


「わざわざ、キャラ作らなくても地でイケるんじゃない?学校では少し猫被りみたいだから」


「ふふっ。分かる?こうやって気取らないで喋ってたらもっと楽しかったよね。八景島とか。なんだか損した気分だわ」


「そうだね。これからはお互いに地でお付き合い願いたいね。それだけで、俺のほうはもう充分だから」


「有難う。楽しくなりそうね。周りをドン引きさせないといいわね?周りの人達の為に…」


「黒―い空気漏れ出して五組の委員は二人とも腹黒でサドとかって笑えるよね。きっと…なんだか椎名さんと緊張しないで楽しく喋れるようになったら、少し世界観変わってきたかもしれない」


「私も!!これからはもっと楽しくなりそうね。まだ高校一年生なんだもの。恋愛より友達と楽しくしててもいいと思うの」


「そうだね。今度は二人じゃなくてみんなで遊びにいこうか?玲人や本庄や森崎さんや斎賀さんも誘って」


「いいアイディアだと思うわ。橘君の提案じゃクラス全員来そうだもの。あと数カ月だけど、このクラスで良かったって本当に思う。いい出会いが沢山あってシンデレラも大成功だったし、あと好きな人とファーストキスも出来たしね」


軽く片目を瞑ると橘は驚いた顔をしたが、その後、屈託無く笑ってくれた。その顔を見て、せりかは、本当に自分の淡い初恋が終わったのだなと感じた。二度目の恋は本気だけど、既に婚約者のいる相手で失恋確実で、でもきっとその後も橘と一緒で友達付き合いしていける筈だ。恋が終わっても何もかも無くなってしまう訳ではない。ここからが新たなスタートだと思う。


事の顛末を本庄に話すと、「勘弁してよ~!!俺がすごい悪者みたいじゃん」と抗議を受けたが「好きなんだから仕方がないじゃない?」と言うと「流石はお嬢!!想定外で最高に面白いね♪」と最高の賛辞が返ってきて、せりかの失恋の痛手は大分薄くなった。もちろんその後も良き相談役でいて貰う気満々だからねと言うと「お嬢さんには敵わないよ。この中で真の無敵なのは、間違い無くお嬢だね」とからかうようでいて優しい許容の言葉をせりかにくれた。



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