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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
126/128

126

せりかは初心に帰る事にした。まず、相手から如何見られるか等と修学旅行の時に告白した時に考えただろうか?


田村から告白を受け、それを断った直後で、気持ち的に不安定だったとは思う。しかし、あの時はせりかの気持ちを本庄に知っていて貰えれば、もうそれだけで満足だった。応えて貰いたいと思わなかったと言えばそれは嘘だが、状況的に100%無理だと分かっていた。それでも相手に気持ちをはっきりと告げたのだ。


その事を思い出すと、今はなんて臆病で保身的に成ってしまったのだろうと思う。相手が此方を向いた途端に臆病風に吹かれたのは、随分と情けないと我ながら苦笑を禁じ得ない。


彼の目に自分がどう映るのかなんて気にも止めなかった。所詮叶わぬ恋だと高を括っていたのかもしれない。それが、彼の心がせりかに有るという事実はせりかを驚かせもしたが、ずっと不毛な片思いが長かった所為か、彼が何故自分の方を向いてくれる事に到ったのか、という疑問は、彼がせりかを「聖女」だと例えた事で勘違いなのだと納得してしまった。それが、せりかにとって一番分かり易く楽な道だったのかもしれない。


とどのつまり、せりかは本庄に好きだと言いながら、それ以降の事は全く考えた事が無かったのだ。玲人や橘とは付き合ったらという事は、仮定で考えた事はある。玲人に至っては結婚して穏やかな家族愛で過ごせるだろうとまで想像出来た。だが本庄とは一回も未来について考えた事が無かった為、唐突な相手の気持ちの変化にせりかは尻込みしてしまった。本庄がせりかに決定的な事を言わなかった事も、問題を先送りさせる材料に成った。


「やっぱり、はっきりきっぱり言った方が良いのかしら?」


これだけ周りも巻き込んで色々あって、更にその周りまでもが応援してくれている、という状態は冷静に考えなくても恵まれすぎている。その上、相手が自分の事を想ってくれて居るのが分かっている状態で告白も出来ないなんて、人として終わってるんじゃないかとさえ思う。やっぱり明日告白しよう!

でも明日、仏滅とかじゃ無いよね?出来れば大安か友引が良いなぁなんて結婚式みたいな事を考えた。今迄、そんな事を考えてみた事も無かったけど、やっぱり始まる日は縁起が良い方がいい。カレンダーを見てみると友引…大安まではいかないが、お日柄も良く、と言える範囲には良い日だ。こんな些細な事を、勢いと力に無理矢理して、本庄に明日告げる事を決めた。


明日の事を考えるとそわそわして眠れない。ようやく明け方頃ウトウトとしたが、直ぐに起き無ければいけない時間だ。よく眠れてはいないが、神経は張りつめている。学校に着いてからもせりかの緊張は周りに伝わるようで、若干周囲がせりかに対して腫れ物に触るような態度になってしまっていた。美久などは顕著でいつも叩く軽口も今朝は一言もなく、当たり障り無い話題に終始している。流石に美久と弘美と沙耶に申し訳なくなって『今日、告白しようと思うの』と、こっそりと言ったら、沙耶から「なんだぁー!心配しちゃった。昨日王子と深刻だったから、何か落ち込む様な事が有ったのかと思ったわ」と言われ、美久と弘美も「心配して損した」と、ほっとしながらも少し怒り気味だ。


「じゃあ、王子が背中押してくれたって事?」


「沙耶ちゃん、王子呼びは本人が嫌がるから!」


「居る所ではしないわよ。悪口じゃ無いし、それは置いておいて、決心したのね?!」


「ええ、みんなに背中を押されているのに気が付かない振りは、もう出来ないし、私自身、結果がどうなろうとも受け止める覚悟がやっとだけど出来たの。遅過ぎるくらいだけどね」


「でも、良い結果が見えてる告白を応援するのは、楽しいわね!」


「そうだよね~。駄目モトみたいな友達の応援は、後から慰めオプションが付いて来て、ちょっとこっちも辛くなるわよね」


「せりかは、絶対うまくいくんだもの。今からお祝いのケーキでも用意したいくらいよ」


「…三人とも有り難いんだけど、世の中絶対なんて無いし、相手が有る事なんだから、そんなに楽観的になれないわよ。昨日だって眠れなかったんだから!」


美久は相変わらず、せりかは考え過ぎねと言ったが、三人があまりにも簡単に考え過ぎなんだとせりかは思う。


「それで、せりかは、いつ告白するつもりなの?」


「今日中…(友引だから)」


「せりかちゃんっ、それはアバウト過ぎじゃ無い?何処でとかは?」


「実は、私今迄そういう経験無いから、みんなどういう風に相手を呼び出してるのか、聞きたかったの」


「えー!みんなで、考えようよ」


「美久ってば、せりかで遊び過ぎよ。せりかだって、本当に緊張しているのは、分かるでしょう?」


「有難う。眠れて無いせいか、思考力鈍ってて、本当は日を改めたい位なんだけど、今日は、友引なのよ!」


皆が一瞬目が点に成ってから、笑い崩れた。「せりか!安定の残念っぷり健在でおもしろ、じゃなかった嬉しいわ」


「美久、言い換えても面白いって言ったのは分かったわよ。別に何処が可笑しいの?」


「それは、この期に及んで気にする所が其処なの?って全員思ったからじゃ無い!それより考える事が有るでしょう?」


「それは、考えたって相手の予定もあるし、学校に来てから、相談しようかと」


「相談って!まさか本人と?」


「それ以外、ないでしょう?」


「何で、そんな情緒も雰囲気も欠片も無い様な勿体無い事しようとするの?!私達に相談してくれれば、うまく告白スポットに呼びだしてあげるのに!」


「ああ、私、そういう所で告白する人を非難している訳では無いんだけど、呼びだしただけで何の用事か分かる様な事は、流石に気恥かしいのよね。悪いけど私には絶対無理!それに友達に伝言頼むのも、違うクラスって訳でもないんだもの。何だか気が進まないわ」


「それで、自分で約束取り付けるのね?美久ちゃんの言いたい事も分かるけど、せりかちゃんらしくて良いんじゃ無いかしら?男らしいわよね」


「そうだよ。せりかの事を良く知らない人に言う訳じゃないんだから、あんまりそれっぽい雰囲気作っても相手が引くんじゃないかしら?」


何気に一番酷い事を言った弘美に、美久も「そうねぇ~」と納得して、結局告白は友の手を借りず、自力で頑張る当初のスタイルのままになった。


本庄が来たので、寄って行って、今日空いている時間が無いか、聞いて見ると、昼休みは空いているから、食事をしてからで良い?と聞かれたので、「それでお願いします」と答えた。何だか相手は相談事でも有るのかと思われた気がするが、取り敢えず約束を取り付ける事に成功した。重要なミッションを一つクリアした。


上の空での授業が進み、それから昼休みになったが、朝の三人と落ち着かなくお弁当箱をつつく。


「せりか、食べた方が良いよ。バイトだってあるんでしょう?寝不足の上、殆んど食べて無いんじゃ倒れちゃうよ」


「そうね。まーくんの家に迷惑かけちゃうもの。有難う!ちゃんと食べるわ」


なんとかお弁当の中身を無理矢理喉に押し込めて、お茶を飲んだ。本庄からメールで先に屋上に行くから、其処で寒かったら場所を変えようと来た。幸い今日はお天気が良く、良く日が当たる場所なら外でも話は出来そうだが、この時期の屋上で食事をとる人は居ないので、人が居ないという点ではクリアしている。生徒会室にしないあたりも、せりかが嫌がると思ってのことだろう。此方から時間を作って貰ったのに、寒い中は悪いなと思いながらも、膝かけにしているケープとマフラーを持って外に出た。


階段を駆け上がり、屋上に出ると思ったよりは暖かいが、この季節だけあってやはり寒い。ケープを羽織ってから、待たせてしまっている本庄が後ろ向きに座っていたので、ふわりとマフラーを首元に掛けた。


「うわぁ!…首絞められるのかと思ったよ。あんまり驚かせないで?」


びっくりした顔が珍しくて、笑みが漏れた。


「お待たせ。寒いと思って、私ので悪いけど、少しの間巻いていてね」


「有難う。首元が暖かいと随分体感温度が違うよね。でも今日はそんなに寒く無いから、大丈夫だよ。話って何?橘のとこで何か揉めてるのに巻き込まれてる?それとも真綾が何か困らせてたりしてる?」


「えっと、違うの。相談事じゃ無くて、その…私とお付き合いして欲しいの」


せりかは超直球で言ったつもりだったが、相手が怪訝な顔をして、意味を理解して居ない事がわかったので、仕方がないのでもう一回はっきりと言った。


「貴方の事が好きなの。だから良ければ私とお付き合いして貰えませんか?!」


「………本当に?」


本庄の問いかけは、告白の答えとしては答えになっては居ない。だけど、見開かれた目に、「信じられない」と小さく呟いたのは、せりかの気持ちを拒否している訳では無いと思う。


せりかは何と答えるのが正解か迷ったが相手の言葉に鸚鵡返しで「本当よ」と言った。


「何故?!」


相手の驚愕が治まらないらしく、是の言葉が貰えない事に少し不安に成って来た。もしかして、本庄も現実的にはせりかと付き合う事を捉えて無かったのかもしれない。


「何故って、私はずっと貴方を好きだったわ。ただそれだけよ」


「何故気が変わったの?俺の事を怒っていたでしょう?橘と別れたのだって、俺が椎名さんが苦しく成る様な事を強いたからだったのに」


「橘くんとの事は、まるっきり関係無いとは言えないけど、結局私は、貴方が好きだったから、彼とは一緒に居られなくなったのよ。分るでしょう?」


「俺が君を聖女だと崇めている事を気味悪く思って無いの?」


「それはプレッシャーに感じているけど、私が思っている聖女とは違うって、私達のお友達が言ってたわ。好きに成ったら、それぐらい良く見えても当然だし、彼が、『罪を憎んで人を憎まず』みたいな所を聖女の様だと言って居るって分かって、大分ホッとしたわ。私は貴方が誤解していると今でも思っているけど、それ自体はがっかりされる部分もあって、それで貴方から失望される事になっても仕方が無いって思う様に成ったわ。変化はその辺りだと思うけど、気持ちに変わりは無いわ」


「付き合ってくれるの?!」


「それは私が貴方に聞いてるのよ?」


「ごめん。夢みたいで、確かめずに居られないんだ。君の恋人に成れるのなら、何時迄でも待つ覚悟だった。まさかお嬢さんの方から、こんなに早く告白してくれるなんて思わなかった。喜んでお受けするよ。これから、宜しく」


「有難う。嬉しいわ!こちらこそ、宜しくお願いします」


「今日は一緒に帰れない?早く現実感が伴った事をしたいな」


「バイトが有るから無理なの。ごめんなさい。デートは土日なら、大丈夫だけれど」


「じゃあ、バイト先まで送っても良い?」


「宮野くんも一緒だから、あちらに気まずい思いは、させたくないわね。まーくんは今回の事で、背中を押してくれたうちの一人だしね。皆が駄目な私を応援してくれて、目が覚めたから、本庄君がどうして唐突に私が告白して来たのか疑問に思うのは、当然かもしれないわね」


「土曜日は、二人で出掛けたい。真綾や高坂がどれ程、付いて来ようとしても、絶対撒くから、高坂には出掛ける事は言わないで欲しい」


「そんなに、あの二人は邪魔しないと思うわよ。だってとても応援してくれてたのよ」


「そんなの!うまく行った途端、小姑と小舅に早速、早変わりするんだから!だからせめて後、数日は言わないで置いてくれないかな?」


「私、今日告白する事、美久と弘美と沙耶ちゃんに言って来てるから、真綾さんにだけ言うのが遅くなったら、私の事を好いてくれて居るのには悪いし、玲人に内緒にしたら、それは執念深く親まで巻き込んで盛大に拗ねられそうなんだけど」


「じゃあ、頑張っても三割くらいは邪魔が入る覚悟でいて貰いたい」


「私は、四人で出掛けても、そんな世界の終わりのような気持ちには成らないから、その時は構わないわよ?」


「俺が構うんだけど、初デートの邪魔をされたら、しばらく二人のデートに付いて行ってやる!」


「もしかして何回か邪魔してるの?」


「高坂から聞いて無いの?」


「聞いてないわ。でも貴方の事を性悪小舅っていう理由は分かったわ。土曜日は邪魔が入っても自業自得ね。貴方の分の責も一緒に背負うから安心して?」


にこやかにせりかが揶揄うと、本庄が、せりかの手を取って「冷たいね」と人の悪い笑みを見せた。手が冷たいんじゃ無くて、態度が冷たいって言われてるの?!しかも急に手を取られて動揺してしまうのは、絶対に仕方が無いと思う。せりかは「みんなが良い結果の報告を待ってるから早く帰らなくちゃ。本庄君も風邪でも引いたら大変だから、早く戻りましょう?」と言って逃げる様に走り去ってしまった。せりかのマフラーだけが本庄の手元に残って、夢じゃ無くて、奇跡が起きた事の証の様だと思った。


少し時間を置いてから、教室に戻ると、周りから冷かされているせりかが見えた。なんだかそれが妙に嬉しい。マフラーは放課後に帰す方が良いだろうと判断した。


本庄は、自分の体が宙に浮いているんじゃ無いかと錯覚するほど、気持ちが高揚していた。橘の元に行くと、敏い彼は「うまく行ったんだ?」と持っているマフラーを本庄から抜き取った。どうするつもりなのかとぼんやりして居たら、せりかに戻してしまっていた。この状況下でも相変わらず、天使の顔でプチ悪魔の所業をしてくれるお友達は、此方を見て楽しそうに、にやりと笑った。悔しいが、せりかの背を一番強力に押してくれたのはきっと彼なのだろうと、それだけは、はっきりと確信するものが在って、橘に感謝の念を込めて微笑むと、案の定、それに彼は、とてもとても嫌な顔を返して来た。




やっと!ここまで来ました(>_<)じれじれで申し訳ありません。

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