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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
124/128

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注意 せりかは今回出て来ません。

「せりかちゃん可愛かったわねー♪」


「そうだね。彼女も春奈さんに会えて喜んでたし良かったんじゃないの?」


その言い方に、何と無く橘の機嫌が少し良くない様に春奈は感じた。


「もしかして本庄君に誘われて付いて行ったのを怒ってる訳じゃないんでしょう?」


「そんなに心狭く無いよ。流石に…」


「でもちょっと機嫌悪くなってないかしら」


橘は普段が秀麗な容姿に色香を放つ美少年な為、機嫌の良し悪しが雰囲気の変化に現れやすく些細でも分かり易い人だ。春奈も似た様な所はあっても橘程顕著な訳では無く、そして女はいつでも女優であるという信条で居る為、周りにそれを悟らせるのは意図的か、どうでも良い時だけだ。しかし橘が春奈をどうでも良いと思っているとは思えず、可愛いせりかも見れて機嫌が悪いというのは、ちょっと理由が思い付かなかった。


「それは、本庄が煮え切らないっていうか、言い逃げみたいな事ばかりして肝心な事を言わないで、今の中途半端な状態を楽しんで居る様に見えて、…何だかそういう駆け引きみたいなのがちょっと嫌だなって思ったんだよ」


「意外に真っ直ぐな事言うのね。貴方だって結構な策略家じゃないの」


「………椎名さんが辛そうなのを玲人に聞いたら腹が立って来て」


「せりかちゃんが辛いのは貴方に悪いと思ってる部分の方が大きいんじゃないのかしら」


「今はもう、こうやって春奈さんと付き合ってるっていうのに?!」


「うーん。あくまで私の見解だから、そのまま受け取らないで欲しいのだけど、男の人って、本当に浮気しなければ、街で可愛い子を見かけて良いなって思っても、罪悪感なんて微塵も湧かない物だと思うのよ」


「一般論としてはそうかもね」


「まあ良いわ。…でも女は気持ちだけでも立派に相手に対して裏切ったって思ってしまうものなの」


「それは俺と付き合っている時点で本庄に気持ちが残ってた事に対しての事を言ってるの?!そんな事、付き合う前からお互いに分かって付き合い始めたのに、それを気に病むのは、別れた今と成っては、いくら何でも不毛過ぎじゃない?」


「だから男の人のそういう合理的な考えとは、ちょっと違う生き物だって理解が必要だって言ってるのよ」


「本庄はそれを理解してるから、俺とは違うって言いたい訳?」


「少なくともせりかちゃんを辛くしているのは、自分よりも貴方の事だっていうのは理解してるから、あまり強引に行かないで、様子を伺いながらにしてるんじゃ無いかしら?遊んでいる訳では無いと思うわよ」


「本庄に負けてるって分かっては居るけど、春奈さんに指摘されるのは、かなり凹むんだけど」


「じゃあ反対に聞くけど、せりかちゃんと私を比べて、私の方が可愛いと思ってくれてるの?」


「春奈さんは誰から見ても綺麗な人だよ」


「それは悲しい答えだけど、私だってせりかちゃんの方が可愛いって事は分かるわ。でもそれだけが人間としての価値じゃ無いから私達付き合っているのよね?!」


「それは俺に対して人それぞれだって慰めてくれてるっていう解釈で良いの?」


「そうよ。当たり前でしょう?私の恋人が最高な人なのは当然の事よ。彼に負けてるなんて情けない事言わないで頂戴。まだ高校生でそんなに世慣れてなくても良いじゃ無い!それ以外で年齢相応な魅力が有ったら構わないと思わない?」


「俺、今すっごい口説かれてる?それとも怒られてる?」


「それは、どっちも違うわよ。茶化さないで!照れて誤魔化したりしないで。貴方の価値基準が、彼を意識し過ぎなのは、仕方が無い事なのは分かるけど、あの子は特殊なのよ。私は、貴方は特別に神から愛された様な人だと思うわ」


「春奈さんに限って外見の事を言ってないよね?」


「見た目も含めて貴方なのよ」


ここで中身がと言われても橘は納得出来なかったと思うが、綺麗事では無い、真実を言われて少し腑に落ちた。自分が神から愛されているとは、とても思えない迄も春奈からそう言って貰える価値は存在しているのだと思えた。本庄と自分を比べるのは確かに間違っている。彼は施されている教育が自分とは全然違う。夏休みに自分がサッカーに汗している時に自社で働いていた。本人はアルバイトだと大変さを滲ませなかったが、普通に考えて高校生の若造が次期後継者だからと簡単に受け入れられる筈が無い。皆に役に立っていると感じて貰えなければただ邪魔なだけだろう。今の時点で彼との視野の違いを比較するのは愚かな事だ。


多分根底に、せりかに選んで貰えなかったコンプレックスがあるのだと自分でも自覚はあった。過去というにはまだ近過ぎて、それでも彼女が幸せになってくれたら、自分にもそれに少しでも寄与出来たのだと思う事が出来ると思っていた事は否めない。彼女との交際は主に彼女の教育に重きを置いたものだったからだ。自分が春奈という存在を得た為かもしれないが、せりかの想い人と成就を願ってしまう気持ちが強くなった。他の女性の事をこんなに気に掛けても受け入れてくれる春奈のお蔭だと思うが、自分が満たされた気持ちに成る度にせりかの事が気に掛かってしまうのだ。


「せりかちゃんだって、ずっと同じ所に立ち止まっては居ないわ。ずっと二人を見て来た貴方が、もどかしい気持ちに成るのは当然だと思うけど、もう少し彼女の成長を信じてみたらどうかしら?貴方だって相手頼みじゃ無くて、本当はそうあって欲しいと思っているんでしょう?」


「春奈さんには、考えたら、椎名さんの事相談に乗って貰っていたんだし、今こうして一緒に居れば、俺の本音が透けて見えるのは仕方が無いのかな」


そう言って苦く笑うと春奈に「ごめん」と言った。いくら相手の懐が深くても甘え過ぎていると思った。


「元々が私の我儘に付き合ってくれているのに、そんなに自分ばかりが色々抱え過ぎなくて良いのよ。私は貴方に感謝してるし、せりかちゃんを放って置けない貴方が良いと思うわ。だって別れたら相手を何とも思わない薄情な人なんて嫌じゃ無い?」


「春奈さんは理解が有り過ぎだよ。酷いって言われても仕方が無い事なのに」


「相手がせりかちゃんっていうのも大きいわね。私だって色々、気に掛かっちゃうからお互い様じゃないかしら」


確かに春奈はせりかを心配する団体の一人だったが、それは今でも続行するつもりらしい。


「それで、椎名さんをけし掛けてたの?彼女は困っていた様に見えたけど」


「聞こえてたの?そっちは真綾ちゃんと話しに夢中でこっちの事は聞こえて無いと思ったわ」


「悪いけど耳は良い方なんだ。そっちの話は大体聞こえてたよ。座った位置が良かったみたいでね」


「私達からは全く貴方達の話は分からなかったのに、本当に凄いのね」


話が全て聞こえて居たのなら、本庄がせりかを庇っていた事も聞こえただろうが、せりかに対しては揺さぶりを掛ける駆け引きともとれる言動は確かに有り、それが思っていたよりも真っ直ぐな橘の勘に障ったのも仕方が無いかと春奈も思う。友人関係をまず強固な物にして、長期戦の構えの本庄は、絶対に失敗したくないが故に慎重が過ぎる。石橋も叩き過ぎたら壊れるか、ずっと渡らなければ朽ちてしまうのだと言いたく成る程だった。それで本当に純粋に友人にしばらく徹しようとするならまだしも、フリーのせりかに虫が寄らないように彼女自身に虫除けの呪文を掛けるのだから、念には念を入れるにしても少々やり過ぎだ。確かに宮野の様な異性が急に近しい関係になった事で心配なのだろうとは思うが、春奈が選んだ目の前の男よりも、最初からせりかに選ばれて置きながら余裕が無さ過ぎる牽制に呆れてしまう。


「本庄君は確かに余裕が無さ過ぎて、方向性が間違ってるんじゃ無いかと思うわ。生徒会の仕事であんなに的確に動いてくれていたのに、せりかちゃんの事となると、どうしようもないくらい考え過ぎな人になっちゃうわね」


「まあね。あれで椎名さんは天然に悪女だし、一回失敗してるし、友人としてもギクシャクし出して来たから、彼女からの好意が未だに確かなものとして存在しているのか、確かめないと怖いんだよ」


「そんなの確かなものに作り変える方に力を使えば良いのに!本庄君も妙な所で駄目な子ね!」


「それこそ、春奈さんが言ってた男と女の違いだよ。男は割と繊細に出来てるからね」


そう言って笑うと、春奈も「そうかもしれないわね」と渋々頷いた。


それでも…と春奈は思う。冬の星座を見上げながら、こうして恋人と歩く自分は、自分だけ幸せならばそれで良いとは思えない。橘と深く関わった二人が、彼の憂いを無くしてくれる位になったら、自分達も、もっと心置きなく関係を深められると思う。しかし、それよりも率直な思いとして、本庄に想われて幸せそうに微笑むせりかの姿が見たかった。ずっと辛い顔しか見ていないのだから、二人の、心持ち一つで、それが簡単に叶えられると分かって居るのには、やっぱりもどかしい!と、どうしても思ってしまうのだった。



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