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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
120/128

120

短めです。

橘が思った通り、玲人は宮野と数日で親しく成っていた。裏表が無くおおらかで明るい玲人は、その場に居るだけで周りを楽しい気分にさせる才能の持ち主だ。玲人の方から近寄られて親しく成らない筈は無かった。


宮野自身も橘がせりかの為に集めた情報からすると人物像は決して悪く無い。面倒見も良く、男子にしては気配りの行き届いた常識人だ。常に笑みを絶やさない為、同じクラスの女子から受けが良い。男子にも態度が変わらないので評判も良い。この間の文化祭から余計に頼られる事が多くなっている様だという話は玲人から聞いた。家の商売を手伝って接客業をしている宮野は、今迄は表立って面倒事に首を突っ込まなかったらしいが、この間の模擬店から本領を発揮してしまって当てにされる事が増えてしまい、自然と頼られる様になって来てしまった。本人は少し面倒だとこぼしてるらしいが、それでも色々と細かい事を相談に乗っているらしい。橘はその話を聞いて、嫌な事に少し本庄に似ていると思ってしまった。せりかが本庄の何処が好きかなんて、はっきりとは分からなくても友人として宮野を好ましく思う材料には成るだろうと思った。


玲人は一週間も経たずに宮野を『マサ』と呼ぶ様に成っていた。玲人流の親しくなったら面倒だから短く呼ぶを実践している。橘の事は翌日から『忍』と呼んで来た事を思うと玲人だったらこんなものだろう。


玲人は宮野の事をクラスに連れて来て、せりかのバイトの話を聞いていた。当然本庄も橘も興味が有るので混じる。場馴れしているのか躊躇無く話す宮野と橘達やせりかと親しい女子達も、話術に長けた宮野と友人と言って差し支えない関係に成って来た。



「マサの怪我って超昼ドラじゃん!名誉の負傷って感じ?やっぱりもてるのに、あの時俺を嵌めやがって!」


「だから~、玲人君とは違うんだって!なんか女性同士が張り合ってただけで、俺は蚊帳の外だったしね」


「玲人、その話は大きな声では言わないでよ!小母さまとか、その主婦の人とかに迷惑掛かっちゃうでしょう」


「知ってる奴とか別に居ないだろう?それに、マサは俺が皆に殴られてる間、涼しい顔してたんだぞ!意外に忍より性格悪いんじゃないのか?!」


「玲人、聞こえてるから!今日はパス出し長めにしろって涼に言っとこうかなーー」


「お前、涼まで手懐けて俺に嫌がらせするの勘弁してくれよ。ポジション変わっても遠隔操作でそういう事するのやめろよな!」


「橘って遠くで見てた時とイメージ違うよな…。ちょっとビックリかも」


「やっぱり?もうちょっと性格良く見えてたみたいよ。でも橘君は言う程酷い事はしないのよ。まーくんも直に分かると思うけど」


「椎名さんフォローに成って無いから!別に宮野は具体的に悪いとは一言も言ってないし」


「でも、そういう意味だったでしょ。誤解されちゃうと、せっかくの橘君の完璧な優等生振りも勿体無くなーい?」


「別に優等生ぶった事無いし、誤解じゃ無ければどう思われても構わないよ。椎名さんが俺のイメージを守ってくれるのって何か理由が有るの?」


「まあね。完璧な生徒会長さんの方が、いろんな事が通り易いでしょう?私の為だから、まーくんも橘君の本性、余所でばらさないでね?」


「「酷っ!!」」


橘と真宏と同時に言ってしまった。せりかは天然に結構酷い所がある。しかも堂々と利用しようとしてるから価値を下げるなとは、あまりにも酷い。


「酷いかしら。ねえ、玲人もそう思う?」


被害者の玲人からすれば間違い無く橘の方が悪いし、せりかの機嫌を損なっても得の無い玲人は、せりかに便乗して「忍に比べたら、せりの方が全然酷くないと思うよ」と言う。


真宏は橘に少し憐憫な目を向けて来た。「じゃあ、橘の事は今迄通り、聞かれても完璧、王子って感じだって言っとくよ」


「その王子って、流石に痛い人だと思うから、椎名さんが俺を利用しようとする時に支障の無い範囲で良いよ。無理に良く言ってくれる必要は無いから」


「橘って、本当にイメージ違うね!せりかちゃんに利用されても構わない上に、割と積極的に利用させようと考えてる訳?!」


口には出さないが、振られた上に別れた彼女相手に献身的過ぎる様に映るのだろう。被虐趣味でも有ると思われたら、それは流石に嫌だなと橘は思う。


「橘君だって散々私を利用して来たのよ?それにクラス委員の相方を引き受けてあげる時に何でも言う事聞いてくれる約束したのよね。付き合っている時はあまり意味の無い約束だと思ったけど、今は伝家の宝刀の様に抜く瞬間がいつか来るかもしれないと思ってるの!」


「あれは、流石にマズイ約束しちゃったけど、切羽詰まってたし仕方が無いかな。でも椎名さんの良識を信じてるし、椎名さんの頼みなら元々聞くつもりだから特に問題は無いかな」


真宏は、艶の有る雰囲気で甘い言葉を言う橘に今度こそ本当に度肝を抜かれた。場の雰囲気を一瞬にして変えてしまう役者の様な橘には本気で驚いた。


「うわぁ!怖ッ…。ごめんなさい。あの約束無かった事にはしないけど、本当に困った時にしか言わないから許して!悪乗りしてしまって悪かったわ」


真宏には甘く艶っぽいと感じる橘が、何故かせりかには恐怖の対象になるらしい。にっこりと満足げに微笑み、醸し出す雰囲気を清廉なものに、すーと変える橘は真宏からすると圧巻だった。橘を思っていたよりも気さくな奴だと思ったが、どうやら思っていたよりも難しい性格だと考えを改めた。しかも普通には話すが、どうしてもほんの少し自分に滲む悪意は気のせいでは無いと感じた。せりかに未練がある訳では無いと多分思うが、それでもせりかに対して特別な思いは持って居て、近づく真宏の事は心の何処かで面白く無いんだろうという事は分かった。玲人も最初は同じ感じだったが、親しくなった今は微塵も無い。元生徒会長だった新たな彼女も居るのには不可解な気がするが、橘はせりかを相棒として扱い、親しくしているし、せりかも振った元彼とは思えない程、仲も良く今の様に軽口も叩くので真宏には分からない信頼関係が彼らの中で出来ているのだろうと思ったが、それでもとても不思議な関係に思えた。


会話に更に本庄が加わると、真宏は別に何もやましい事も無いのに、見透かされて居る様な居心地の悪さを感じる。本庄自身は品も良いし感じも良い。自分と規模は違うが家の跡を継ぐと決めている所為か話も合うのだが、橘のほんのりとした罪悪感の混じった悪意よりも更に強い感情が向けられているのが分かる。せりかも感じるようで、一緒に気まずそうな表情をするが、細かい事は気に成らない玲人は特に何も気が付かず、気が付いては居そうだが、さらりと流す橘はやはり曲者なのだろうと感じた。かといって橘も本庄も話していて楽しい。決して余所者の自分に疎外感を感じさせないのだから、せりかに関してのみ発生する感情なのだろうと判断して、せっかく親しくなれたのだしと玲人に連れて来られるがまま、何と無く仲間に加わっていた。


玲人のお蔭で、せりかの事を根掘り葉掘りクラスのサッカー部の奴らから聞かれる事も無くなったし、一組でも橘達と親しく話す様に成ってからは、せりかを迎えに来ても好奇の目は向けられなくなった。玲人はあまり計算で動くタイプでは無いが、橘が何気に誘導している様な気がした。せりかにとっても真宏にとっても不本意な噂が立たないで済んで助かったと真宏は思っているので、橘に関しては驚きも大きい面もあるが、割合好印象だ。玲人については今は三組のクラスメイトが取り囲むのも納得の良い奴で、せりかの母の自慢も足りないんじゃ無いかとさえ思う程だ。


怪我をした事で急激に環境が変化している状況を、望んでも出来ない事なので前向きに楽しんではいるが、匙加減も難しい。せりか自身と親しくなる以上に周りが面白いし難解だ。あと、あの本庄のあからさまな牽制をせりかはどう思っているのだろうかと気になった。橘とも仲の良い本庄が、橘と別れたからといって彼にも分かる真宏への牽制は、せりか以外でも橘もどう思って居るのか玲人に聞けたら聞いてみたいが、あまり気にする様子の無い玲人は気が付いているのかさえも分からない。余計な事を言ってせりかとの関係を勘繰られても困るので、当面は静観かなと思う。


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