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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
116/128

116

少し短めです。

「おはよう。なんかすっきりした顔してるけど、まさか!」


「あのなぁ……本庄に朝っぱらから下ネタ言われると思わなかったよ。椎名さんが来たら言うよ?」


「冗談だって!男同士でこれ位は許容範囲内だろう?でも、昨日より、ふっ切った表情かおになってるよ。若宮先輩とうまく行きそうなんだ?」


「まあね。お前もこの機会に頑張ってみれば?」


「橘に言われると、本気で凹む。お前に励まされるのって、相手が相手だけに微妙過ぎる…」


「そう?もう頑張ってるし~とか言われて大きなお世話かと思ったけどね」


皮肉っぽい笑みで揶揄すれば、本庄も苦笑いを浮かべて「確かにもう頑張ってはいるね」と答えた。


「でもうまく行ってない。難攻不落じゃない?お嬢さんって」


「弱音?」


らしくも無いと笑うと、本庄は「こっちの執着が強過ぎて重いのかなぁ」と本気で相談し始めて来たので、橘はあせって「ここ教室だから!」と窘めた。


「他の場所で聞く?」と橘が一応聞くと、予想通り「まさか!それは無い」と返って来た。


「玲人にでも聞けば?椎名さんのパイオニアだし」


「それは、真綾と関わりが無ければ考えるけど、秘密厳守してくれると言っても嫌だな」


「ふふっ。難しいね~」そう言って微笑む彼は、晴れやかな表情をしていた。昨日色々と不条理に思えた春奈との付き合いについて、言及する事は水を注すだけだと悟って聞かない選択をした。その上、本庄にせりかとの事を発破を掛けて来るのだから、驚いて真意を探ろうとしたら、冷静にいなされてしまった。




「椎名さんの方に俺の余波は、やっぱり来た?」


声を落として聞いて来たので、本当はこれがずっと聞きたかったのだろうと本庄にも直ぐに分かった。


「クラス内では無い。だけど前会長との方がお似合いだとかは、囁かれてる。多分彼女にも聞こえてるけど、気にしてない。勿論良い気はしないだろうけど、お前と別れた時点で、有る程度は覚悟が有るみたいだ」


本庄も橘にしか聞こえないボリュームで喋っていたら、せりかがやって来た。


「おはよう。二人ともなんか妙な雰囲気出してるから、気を付けた方がいいよ。何にしても橘君はまだまだ注目の的だって忘れて無い?肩の力が抜けるのは喜ばしいけど、緊張がすっぽり抜け落ちてるわよ」


「だって本庄が、朝から下ネタ言ってくるんだもん。緊張感が無くなるよね」


「お前!本当に言うとか有り得ないだろう?女の子相手に!」


「本当だったの?橘君の冗談かと思ったわ!」


せりかが大袈裟に驚いて見せると、本庄は墓穴を掘った事に気が付いて橘を睨んだ。それに対して憎らしい程綺麗な笑みを返されてしまい、今日の朝は橘に完敗だった。


美久や弘美も寄って来て、にぎやかになった。二人は春奈の事に触れる事無く、本庄の誕生日が近いから、それを口実に遊ぶ企画を話し出した。本庄はもう少し待ってクリスマスパーティにしない?と言ったが、混んでくるし、カップルばかりになるから、早めの方が良いと言う。


「じゃあ、うちに来る?」と橘が誘うが、せりかが「それはちょっと…」と言うと皆もあっさり、そうだよね~と納得した。この絶妙なバランスで友人関係が成り立っているのは、周りのお蔭だなと橘は思う。


本庄がじゃあ、「俺のところは?」と聞いて来たので、皆は本人の誕生日なんだし、それは無いでしょうと言ったが、本庄は退かなかった。


「そんなのみんなで遊ぶ名目でしょう?お花見みたいなものだし、拘る必要無いよ。うちにしようよ。多分両親居ないし、気楽だよ。なんなら泊りにしない?」


本庄の何時に無い迫力に押されて、今度の週末、両親が出掛けているからと言う理由でお泊まり会となった。


皆、しきりに遠慮したが、本庄の笑顔の圧力に負けて、お世話になる事にした。


橘が何か言ってくれるのでは無いかと皆思っていたが、くすくすと笑うだけで是も非も言わないが、反対しないと言う事は橘は無言の肯定という意味なのだろうと分かった。


一番親しい彼が反対しない以上は、迷惑かもと遠慮していたが、本庄自身の強い誘いもあって、色々とパーティの段取りが決まっていった。


真綾は勿論来るだろうし、玲人は後から橘かせりかが声を掛ける事にして、沙耶を誘う事にした。




女子が沙耶に声を掛けに行ってしまった後、橘が我慢できずに笑い崩れた。


「っ!……お前必死過ぎ!珍しいもの見たんで超面白かった!しかも泊りに迄話を持って行く辺り、上手うま過ぎだろう?」


「何とでも言ってくれ。うまく話が運んでくれて良かったよ。お嬢さんの信頼回復したいけど、試行錯誤中だから、テリトリーに誘い込んでみるかなと思って。とにかく試せるものは、挑まないとね。それに皆で遊ぶのも自然と距離感が戻って来そうだしね」


「そのまま言ってみたら?これだけ苦労してる本庄を見たら、俺だったら絆されるけどなぁ!」


「遠回しに言ってみたけど、それは失敗してるから。それに橘が俺に絆される事は無いね。珍しい嘘を言わないでくれ。調子狂うし、あとさっきのアレ本当に言うってどういう事かな?」


「お前がトボければ、彼女は俺に冷たい視線を向けたよ。ちょっと冷静になった方が良いんじゃないのか?普段だったら本庄はその位の事やってのけるだろう?焦らない方が良いと思う。少し早いけど俺の最大限贈れる言葉だから、深読みしないでそのままの意味で捉えて」


「なんか、そう言われれば、言われるほど不気味な感じなんだけど…」


「照れるなって!」


「寒い!!」


「確かに、お前には絆される事は無いから、さっきのは言葉の綾だな」


「何だか少し落ち着いて来た。調子狂わされてるのってお前の幸せオーラに中てられての様な気がして来た。橘がいつもと違うから、なんだか、こっちもいつも通りに行かないんだよ」


「喜んでくれないの?一番喜ぶの本庄かと思ったのに」


「嫌な事言うなよ!…でも、そういう方が、いつもらしくて安心する」


「本庄の中の俺の評価が如実に分かるな」


そう憎まれ口を叩いて笑う橘に、本当に安心してしまった。春奈の事は本庄の中ではうまく行って良かったと言える程の所まで来ていない。しかし正直にそう言うには、橘が幸せそうで言えなかった。


急に日程も決まってしまったお泊まり会は、沙耶は都合が悪く来れないそうで、とても残念そうだった。玲人と真綾は参加でと言って来た。


真綾がにまにまと橘と同じ種類の笑みを浮かべているので、本人以外にはバレバレかと思う。いや、もしかしたら本人にも邪な思いが滲み出ていたかもしれないと思う。


真綾には余計な事をするなと釘を刺した。


料理やケーキの担当等、お花見の時の様に盛り上がっている。沙耶が来れないから、次は女子だけでパジャマパーティにしようかと来れない沙耶の事も気遣って居る様だ。


周りも楽しそうな華やかな雰囲気に羨ましそうにされた。


本庄も自分の誕生日祝いだという名目のお蔭で、いつもよりも好き勝手にさせて貰ってしまった。しかも皆、お祝い持って行くから楽しみにしててねと言ってくれるので嬉しいのだが、若干クラスの男子の視線が痛い。


橘が庇う様に「俺もとって置きのを用意するから」と花が綻ぶ様な笑みを見せると、注意が本庄からあっさり逸らされた。なんだかんだ言っても橘は友人想いだなと思う。しかし今朝はふざけて言った戯言をせりかにばらされた事に地味に落ち込んでいた。橘に言えば余計に喜ばせるだけなので、言わないでおくが…。



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