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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
114/128

114

「えーーーーー!!春奈先輩とお付き合いするの?!」


「うん。椎名さんには一応言って置かないと、周りから何か言われないとも限らないしね」


橘は淡々と言うがすっごい大事件だと思う。


「社会人の彼氏いるって言ってたし、大体受験生だし」


「ああ、実は部活の練習帰りに、図書館で勉強してた若宮さんに、たまたま会って、この間の同好会の件とかも有ったから、生徒会の今迄の方針とか、参考に教えて貰おうと思ってファストフードの店に寄ったんだよ。駅前の。時間割いて貰うのも向こうもこの時期だし、どうかと思ったんだけど、勉強し過ぎて疲れてるから息抜きに丁度良いからって付き合ってくれたんだ。混んだ時間帯で表に面したカウンターしか空いて無かったんだけど、向かい合う仲でも無いから、その方が都合が良くて話し易かったからいいかなって思ってたんだけど、外から丸見えなんだよね」


「それで???」


どこから付き合う話に成ったのか見えてこない。もしかして橘も少し気恥かしくて、本題に入る時間が欲しいのかもと根気良く話を聞く事にした。ちなみに二人で入らない様に言われた生徒会室に二人きりだ。お弁当を食べながら、お昼休み、話があると言われた時は、せりかの方も悶々と考えて謝りたい事も多々あったので、悪いが玲人に最初は一緒に入って貰って、休みが終わる頃にまた迎えに来て貰う様に橘が頼んでいた。


「それを運の悪い事に、彼氏に見られたらしくて、生徒会の後輩だって、いくら説明しても納得してくれなくて別れちゃったんだって」


せりかには、春奈の彼の気持ちがよく分かった。何でも無いというには、橘の見た目が良過ぎた。誤解しない方が無理がある。しかも並んで近距離で仲良く話している状態は、とても迫力があっただろうと、生徒会で一緒にいる度に見て来て思った事を思い出す。


「俺は、彼氏の所に一緒に説明に行くって言ったら、そんな必要もう無いから、責任感じてるんだったら、付き合ってって言われて、面喰ったんだけど、自棄になられてもって思って一応頷いたんだ。あの人って性格強烈で忘れがちだけど、すごい美人でしょう?そういう女性が自棄になって誰でも良い位の状態で放っておいたら、ろくなのに捕まらないからね」


橘に凄い美人だと言われても納得が行くのは、せりかが今迄会って来た人の中でも春奈だけだ。


美男美女のゴージャスなカップルだが、見た目で眩し過ぎそうだと思う。それにしても相変わらず橘は人が良過ぎである。そんな理由でお付き合いしてもいいのか。


「みんな驚くんじゃないかしら?すごくお似合いと言えない事も無いけど。私が言うのもどうかと思うんだけど、ごめんなさい」


「ううん。そんな事構わないよ。突然そういう事になったんで椎名さんには早く話さないと、あっちからぼろぼろ広がって行きそうで、急にごめんね!」


「春奈先輩が自慢しまくってるって事?橘君との付き合いを?!」


「多分そうみたい。佐々岡先輩が朝、『ツバメちゃんおはよー。春奈が周りに言いまくってるから覚悟した方が良いわよ』って有り難い忠告をわざわざ、しに来てくれた位だから」


「つ、つばめちゃん?って年下だから?」


「そうみたいだね。でもあの若宮会長の彼氏が年下で次期を引き継いでる俺だと、なんだかイメージ的につばめっぽいよね。俺のせいじゃなくて、主に向こうに原因大アリな所為だけどね」


「春奈先輩は何でそんなに広めちゃうの?自棄になってるって言っても、自慢なのも分かるけど、そういうタイプの人じゃ無いでしょう?」


「何だか、ずっと社会人彼氏と付き合ってきたから、制服デートとかしたいんだって。思ったより乙女チックな人で、今迄やりたかった事を叶えるの手伝ってって言われたんだ。とりあえず朝一緒に来るのと帰る所から始めたいから、周りに色々言われる前に自分で広めてるみたい」


「橘君はそれで良いの?その、……いくら先輩が凄い美人さんでも、好きだった訳じゃ無いじゃない?」


「まあね。でも人間的には好きだし尊敬してるから、相手が望んでくれるなら、付き合ってもいいかなと思う。変かな?やっぱり」


「ううん。そんな事は無いよ。人それぞれ、価値観は違うんだし」


「伊藤先輩には、ものすごい勢いで止められたんだよね。『お前、生贄に成る気か?!』ってちょっと幾ら何でも、春奈さんに悪いよね」


橘が、春奈の事を名前で呼んだ事で、本当に付き合っているんだなと実感した。せりかの事は一度として名前で呼んでくれた事は無かった。


「橘君が良いなら、春奈先輩は素敵な人だし、いいと思う。私は何を言われても、自分が悪いんだし、気にしないから。それから本当に色々ごめんなさい。細かい事は今は言うべきでは無いから、ただ謝って変に思われちゃうかもしれないけど、本当にごめんなさい」


「もしかして、俺が椎名さんに振られて、春奈さんみたいに自棄になって付き合いに応じたと思われてる?」


「そんな事思わないわ!ただ、橘君が相変わらず人が良過ぎて、自分が傷付く事をして欲しく無いとは思ってしまうけど」


「驚いた!椎名さんに随分良い人認定されてるんだね。俺は結構利己的だよ。君達が相思相愛なのが分かっていたのに、君と付き合う事を止めなかった。あの時、教えてあげていれば、椎名さんが俺に悪いと謝る事も無かったし、辛い思いもさせなかった。誤解してるみたいだけど、俺は俺の為にしか動かない。誰かの為に何かをしてあげた様に例え見えたにしても、それは俺がそうしたいと思ったから、動いただけで、人助けをしている訳では無いから」


「やっぱり本庄君の事、分かってたのね。私は最近言われて驚いたけど、結局私のしつこさに絆されてしまったのよね。片思いだから別に構わないだろうなんて甘い考え、橘君に色々教えて貰った後だったらしなかったかもしれないけど、今更よね」


「それは、状況的に別に今更では無いと思うよ。本庄は更科さんと別れてるし、更科さんは玲人とうまくいってる。椎名さんも俺とは友達に戻ったんだし、本庄に応えても問題無いと思う」


「問題は無くても、それは時が経って、周りの人達が変わったからだわ!私の罪が消える訳じゃないのよ」


「周囲がこうやって変化して行くのに、椎名さんはそうやって自分が悪いって蹲ってるつもりなの?そんなの誰の得にも成らないし、罪だと君が思っている事は、おそらく誰も咎めていないよ。皆が仕方が無かったと思うところに納得しないのは、潔癖過ぎるよ。友人としてでは無く、君の元、恋人として言わせて貰うけど、俺に悪いと少しでも思わないでくれ。俺は椎名さんに自分と同じ位には幸せになって貰いたいと思ってる。だから、自分だけ時を止めて後悔している様な君は見たくないんだよ。赦しが必要なのなら、俺が全て赦すから、もう自由になってよ」


「分かった。私が悩んでも後悔しても、周りが迷惑するだけだって、よく分かったから橘君が言ってくれた事は、考えてみる」


「そう。良かった!これから周りが騒がしくなっても、もう俺が守れない。今も実害が行っているのを、本庄が、かわしてるのは分かってる。それを拒絶しないで受け入れてよ。本庄の事、今でも好きなんでしょう?」


「うん…」


「じゃあ、今の録音したから、本庄に聞かせても良い?誕生日プレゼントにしようかな。椎名さんも貰ってたし、何か、あげるんでしょう?」


「ちょっと待って!録音なんて困るわ!嘘でしょう?」


「相手が一番喜ぶものをただでゲット出来る機会なんだよ?本当は録りたかったけど、流石に許可なくはしないよ。冗談だから、本人に言ってあげれば?」


「もう、心臓に悪い冗談言わないで!」


「ごめん。ちょっとだけ困らせてみたくなっちゃった。何か罰を受けたがっているみたいだったしね?」


そう言って綺麗に微笑む彼は、見た目は天使の様だが、中身は、あまり油断出来ない人だった。


そう思うと、無理矢理付き合わせる事はあっても、逆は無さそうなので、春奈の事は、こちらが心配しなくてもいい事なのかもしれない。


せりかも口には出す事は出来なかったが、橘がせりかの幸せを願ってくれるのと同じ位、彼に対しても、そう思っていた。どうか、橘にとって春奈との付き合いが幸せなものになりますように…。彼に赦されたせりかは、親友の橘の幸せを祈る事も自分で赦してしまった。周りは動いている。立ち止まっていてはいけない。彼がせりかを赦してくれたのだから、これからは、自分が、自分自身を赦して歩き出そう。




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