表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
112/128

112

「忍が直接、勧誘に行ったんだってな?!サッカー部で同じクラスの奴も同情してたぞ!なんでまた、やる気も無い、その富田っていうのが良かったんだ?」


「それは…一年生で良く知ってる子って居ないに等しいし、サッカー部は不可だから、いくら良い子を橘君や玲人の知り合いが見繕って連れて来てくれたにしても、部活以外の子になると、声掛ける時点での正確な能力って中々わかりづらいでしょう?だから一応、順位表しか測る所が無いから今迄おおまかにチェックは、してたの。彼はその時点で既に一番候補だったのよ。本当は女の子が良いんだけど、そうなると自動的に次期副会長になってしまうから、まだ今の時点では声は掛けられないし、それは涼君と富田君が良いと思った子にした方が良いだろうと思うのね。一緒に運営して行く仲間になる訳だし。…それで富田君を引きいれたかった理由は、彼が同好会申請して来た時の書類が、それは見事に作成されていたの。文句の付けようが無い位にね!活動場所とかも今使用されていない部室を調べたみたいで、その中で一番良い場所をちゃっかり指定して居たし、運営も活動内容を細かく書いて、如何に意義のある活動を目指すかというのがしっかり示されてて、とても漫画だけ買って読むという遊ぶ様な活動はしないし、自分達も創作したり、皆にも読んで貰いたい作品のお薦めレビューを月間で発行して掲示したりするとかね、まあ、よく此処迄作り込んで来たなぁって感心する出来だったのよ。もうそれだけで入会して欲しいと思った位なのに、あの本庄君相手に交渉でも随分頑張って、こちらの痛い所を突いてくるしで、もう絶対この子が良いなって思っちゃったのよ」


「せりは思い込み激しいもんな!涼の時も部活ごっこに可愛い後輩が足りないからって勝手に入れたんだろう?」


「みんなに悪いなぁとは思うけど、そこは一応副会長の特権を利用させて貰ってるの。橘君は部活が忙しいから、今のところは会長権限も私に渡してくれてるしね」


「すげー横暴な副会長だな…本庄と沙耶が大人で良かったな…」


「何も考えて無い訳じゃ無いし、相談もするし、それに最終的に富田君を連れて来たのは、橘君なんだから、会長の意思でもあるのよ。涼君だって橘君の弟子だし」


「涼の事は確かに本人も嫌がってた訳じゃねーし、生徒会が早くから後ろ盾に付いたから、部活もうまく行ったところも有るから、せりが良く考えての事だって言うのは判るけど、富田は出来る奴でも本人にやる気が無かったのをほぼ無理矢理だろう?せりも忍も自分達の都合だけで酷いんじゃないのか?」


「それは、悪いと思ってるから、どうしても嫌なら、助っ人で忙しい時期で向こうが予定が合えば涼君の助けになってくれたらいいなって思ってるの。元々実力が有るのに、かなり爪を隠しているみたいだから、それこそ生徒会が後押しするから、押し付けるつもりは無いけど自然と変われるんじゃ無いかって思ってるの。親しくならないと理由は判らないけど、彼、わざと野暮ったくしてるし成績も押さえ目の点数で調整してるのよ」


「わざとって何でせりが分かるんだよ?」


「この間会った時、そう思ったの!女の勘って案外、外れないのよ。本庄君に言ったら、それは実は勘だと思っているだけで女の人は、細かい情報まで瞬時に見えるから、実は無意識に分析してる結果を勘だと思ってるだけだって言われたわ。だから、的は外さないらしいわよ」


「うわー!本庄らしい御高説だな。勘だって言ってるのに、そんなに説明されたら俺だったらギブだな!勘弁してくれ~って絶対なる!」


「そう?玲人って意外と神経質だったのね」


「いや、むしろそれは逆だろう!」


「私は雑学的には、そういう捉え方もあるんだなって思うと、面白いと思ったわよ」


「せりは本庄の言う事は前から無条件に受け入れられるから、そう思うんだよ。沙耶も居たんだろう?何て言ってた?」


「そう言えば、若干引きつってた様な気がしないでも無いかも…私は慣れが来てるけど、沙耶ちゃんとか玲人は免疫無いからかしらね。当然真綾さんや橘君は全然慣れてるから問題無いし、一緒に感心してるわよ」


「はあ~。なんかそれ慣れないといけないのかぁ~!試合終わったら考えてみるけど、ちょっとキツイよなぁ」


「玲人には元々そういう話、今迄もして無いんでしょう?ちゃんと人見て話してるんじゃないかしら?沙耶ちゃんは多分そのうち慣れると思ってるのよ」


「何だかそれはそれでむかつくんだけど」


「もう我儘だなぁ。良いじゃない、その人の関心の無さそうな事を話さないのは、人間観察が趣味みたいな本庄君からすれば当たり前の事なんじゃ無いの?」


「それで本庄とは、もう気まずく無いのか?」


「それね!あれだけ動揺しちゃって切羽詰まって玲人に言ったのに玲人ここの所いつも眠そうだったから、それ以上何も言えなかったけど、生徒会で一緒に仕事して行かなくちゃ成らないし、今回みたいな事もあったら、気に成らなくは無いけど、気にして居られないのよ。周りにも迷惑掛かるしね。唯でさえ橘君の事で、クラスの子も気を遣ってくれてたし、これ以上本庄君と微妙な空気にでもなったら、来年も同じクラスなんだし、洒落に成らないでしょう?」


「おっ!せりも大人になって来たって事か」


「玲人にも迷惑かけてごめんね。今迄は掛けられた迷惑でトントンかなって思って居たけど、最近は一方的にオンブ状態でしょう?流石に悪いかもって思っているのよ」


「今もこうやって毎日予習復習、レクチャー受けて俺が忙しいのフォローしてくれてるのに?」


「そんな事は当たり前じゃ無い!成績落とさないでよね!同じ大学に行ける位の所はキープして貰わないと、こっちも困るでしょ。勿論同じ所に行きたいの~なんて理由じゃ無いわよ。あくまでもレベルの話で大学は流石に違う所にしようと思ってるから」


「えー?!俺は同じ所に行こうと思ってたのに!学部は違っても良いから、同じ場所だと便利じゃん?俺、車の免許取って送り迎えしてやるよ」


「は?馬鹿ね!玲人は彼女でも無い私を毎日送迎しようと思っているの?!真綾さんはどうするのよ?」


「真綾も一緒の所に行けたら、場所によっては、途中で拾って三人で行けると真綾も喜ぶし、良くないか?」


「玲人は変わらないわね。うーん、説明はしないけど、もう少し大人になって欲しいわね。それと間違っても今の話、真綾さんにはしないでよ。何でとか聞かないでね。玲人も分かる時が来るから」


「…とりあえず分かった。真綾にも言わないでおくよ」


「それが良いわ。今日はもう帰る?まだ居るなら、お茶でも取ってくるけど」


「いや、もう遅いから戻るよ。今日もありがとな!じゃあ、おやすみ」


「うん。おやすみ。また明日も早いんでしょう?試合も、もう直ぐだし怪我だけは気をつけてね」


「俺が怪我したら、涼が出てくるだけだけどな。でも気を付けるよ。先輩達が頑張ってくれて出場できる全国大会なんだからな」


そう言って玲人が帰ってしまうと急に静かになってしまって寂しくなって来てしまった。そうすると考えるのを放棄していた事がどうしても頭に浮かんで来てしまう。


先程、玲人に聞かれた本庄の事については、気にしてはいるけど、それを態度に出した場合の弊害を言ったが、それでも平気な振りをしているだけだ。


一年生の時に、本庄を好きになって、絶対に気持ちが返ってこない片思いに少し酔っていたかもしれないと思う。しかも相手は、せりかに対して理解があって特別優しくしてくれる……此処迄思い起こすと嫌な結論に行きつきそうだった。今は玲人と微笑ましい位仲が良い真綾だが、橘と初デートに行く服を貸してくれた時は、ずっと幼い頃から婚約者である本庄の事が好きだった筈だ。本人もそう言っていたと思う。だから本庄からの付き合いの申し出に悔しいと言いながらもYESと答えたと言っていた。


二人が別れたのは真綾の心変わりで本庄が気の毒だと思っていたが、付き合っていても従兄妹の関係でしかなかった二人の間で、本庄は本当に真綾に対して恋愛感情を一瞬でも抱いた事があったのだろうか?


もしも、もしも本庄の感情がせりかに有る事に真綾が気が付いたら、その時に真綾はどうするのだろうか……。


ここ迄考えていたら、目の前が真っ暗になった。


想像の域を出ないが、真綾の性格なら、せりかに当たったり、恨んだりはしないだろう。そしてきっと彼と別れてしまうだろう。


せりかの所為で二人が別れたのかもしれないと今迄一度も考えなかったのは、玲人の存在があったからだ。


玲人と真綾が付き合い始めたのは、あの忘れたくても忘れられないくらい強烈な両家族イベントのバーベキューで、橘を見たいと母達が強力に言った事で来て貰う事になった時に、真綾が自分も行きたいと言い出して橘と二人で来てくれたのだった。既に気の置けない友人関係にあった玲人との関係を問われて、本庄と付き合っているにも関わらず、玲人に気が有る様な事を言って玲人の母を喜ばせた。不可解な事に、玲人は真綾に対して少し戸惑っていたと思う。その時の冗談で終わるのかと思っていた二人は付き合い始めてしまって現在に至る。


あの頃、橘と付き合いだしたせりかは、橘と友人である玲人に、あまり付き合いについて話さなかった。恥しいのはあったが、橘に悪いと思ってしまったのだ。替わりにと言っては何だが、真綾と玲人の付き合いについても殆んど聞く事をしなかった。だからどういう経緯で二人が想い合う関係になったのか分からなかった。しかも幼馴染とはいえプライバシーはある。あちらが話さない限りは真綾の事をどう思っているのかについて不思議に思う事はあったが、言及しなかった。


本庄がせりかに好意を持ったから、真綾が別れを切り出したとしてもせりかの所為では無いと言い切れない。


何故なら、叶わない想いなのをいい事に、本庄に好意を隠さなかった。むしろ告白してきちんと振って欲しいとまで頼んでしまった。彼が最初からせりかに好意があったのなら、おそらく真綾と付き合っていないだろう。


そうすると真綾と付き合っているうちに、せりかのアプローチにより心が動いたという事になる。真綾からしたら気持ちの上での浮気だ。本当に好きだったのなら耐えられないし苦しかった筈だ。


せりかが本庄への好意を顕わにした為に、相手からの好意を得てしまったと、本庄がせりかに絆されてしまったと考えるのが妥当だ。


しかし、真綾はせりかが本庄を好きな事を知らなかった筈だ。今更、「貴女の元婚約者の事が好きだったけど、諦めたの」と懺悔したところで真綾はどう思うのだろう。しかも、こちらは悲劇のヒロインの様に叶わない恋に泣いていた。そして気持ちをぶつけた。それを思うとせりかは自分の罪をはっきりと自覚した。


自分に絆されてしまった本庄を責める事は出来ない。実際そうなる事を望んで居なかった訳じゃ無い。


……………しかし、何もかもが今更過ぎて、謝るべき人は、はっきりしているが、今の真綾に謝罪は迷惑以外何物でも無い。玲人にも失礼だし、玲人の彼女に対してとしての真綾にも、かなり失礼な話だと思う。今は従兄でしか無い彼の気持ちを、こちらに向けてしまってごめんなさいっていう、馬鹿みたいな事を言い出す事はとても出来はしない。


本庄が聖女だと言ったせりかは、咎人だった。やはり聖女なんかになれやしない。おそらく真綾からはもう既に赦されている。彼はせりかを赦しの聖女だと言ったが、その言葉に合うのは、真綾の方だろう。せりかや本庄を赦し、玲人を幸せにしている。いや、玲人と共に自らの力で幸せを掴んでいる。あれ程望んだ本庄の隣を手放した真綾を、一瞬でも憎んでしまった事が申し訳なく思った。


せりかの心の中でかちりと何かが引っ掛かった。今自分は、真綾を一瞬憎んだと、そう思う事がその時の自分が許される立場にそもそもあったのか、考えて、二重の罪人であったのだと悟った。せりかは橘と付き合い出した時でさえ本庄への想いを断ち切れていなかった。付き合いを始める時は、練習だと言われたし、実際橘を好きで付き合いに応じたつもりは無かった。しかし札幌の夜、別れたいと言った橘に好きだから別れたく無いと言ってしまった。嘘をついた訳では無いが、彼が自分を想うような気持ちを返す事が出来なかったのだから、彼をちゃんと好きだったと言えないだろう。まして付き合いを始めたばかりの頃でさえ、許されない気持ちを持った。


橘はそれに気が付いていた様に思う。せりかと付き合って居た頃の彼は何処か影があったが、別れてからの方が、さっぱりした表情をする様になった。


結局橘は本庄の気持ちに気が付いて別れようとしたのだろうが、せりかの断ち切れない想いを分かって居なければ、別れを言い出したりしなかった筈だ。せりかの気持ちがしっかり橘にあると自覚出来たら彼が本庄だけの気持ちを尊重するというのは、考えにくかった。


それでもあの時別れないで居てくれた橘は、本当にせりかの事を好きで居てくれていたのだろう。彼はずっと言っていた。たとえ別れる事になっても親友だからと。


実際にそうしてくれている橘は、せりかの憧れてやまない理想の姿だった。人間としての品格の違いを思い知ると同時に、彼がせりかの事を誤解しているのだろうとでも思わない限り彼が自分を好きだと思う根拠が見つからなかった。しかし、今はみつからない根拠が自分の自信の無さからだけでなく、橘への気持ちにも自信が持てないから返される想いに居心地の悪さを覚えたのかもとも思う。本当に彼を愛していたならば、彼が自分を思ってくれるのは、此方が想っているからだと思えたのではないかと思う。


本庄がせりかを思ってくれている事を、信じられなかったが、事実だと分かった今は、彼が自分の何処を見て好きだと思うのだろうかとは思わない。彼はせりかに愛されていたから、それに気持ちが応えてくれたからだと納得する事が出来る。彼はせりかが聖女では無い罪人だったと分かっても、せりかの事を愛してくれるのだろう。


何故ならせりかが彼を無条件で愛しているのだから……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご投票くださる方は下のタグをクリックお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ