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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
111/128

111

110、111二話連続投稿です。

翌日の放課後、生徒会室でせりか達は『富田真也』を待ちかまえていた。


予想通り抗議が来たのだ。担任である顧問から話が来た時は、予想通り過ぎて皆で目を見合わせてしまった。本庄からすれば完璧に資料も活動内容も出して居たのだから、彼らがこちらが却下したのに不服を申し立てるのは、一年生とはいえ当たり前の事だろうと言う。


せりかは同好会の申請の件は本庄に任せたので、富田真也という人間を見極めたいという思いが強かったので二人男子が来た時には、どちらが富田だろうかとまじまじと見比べてしまった。


はきはきと「失礼します」と一礼してから入ってきたほうが、荻野洸おぎのこうと名乗った。隣で一応付き添いという雰囲気で来たのが、目当ての富田だった。玲人から情報を集めては居たが、前髪も長く野暮ったい黒ぶち眼鏡を掛けていて、いかにも見た目はおたくとクラスメイトに評されても仕方が無い風体だった。対して荻野は茶色に染めた髪に割合女子受けしそうな外見で、ここの生徒にしては軽い印象を持った。別に髪くらい染めても普通だろうが、せりか達のクラスは特進クラスな為か見慣れていなかった。ほかのクラスにはチラホラとは居るが、時流の所為と校風の所為か黒髪が女子も男子も主流なので、少々異端に映った。この見た目チャラ男が漫画研究って、それは単におこづかい浮かせの為なのでは無いかと偏見を持つのも仕方が無かった。おまけに耳にピアスの穴が見えた。ここに来る前にきっと外して来たんだろう。一年生で茶髪ピアスってサッカー部では有り得無さそうで、なんだか橘が居なくて良かったとせりかは思ってしまった。


茶髪ピアスが…荻野が枠通りの抗議の言葉を言う。至極御尤もな事ばかりで、せりかは危うく頷きそうになるが、本庄は厳しい口調で荻野に問うた。


「次の顧問の先生が見つからなかったら、どうするつもりなの?来年の三月迄の数ヶ月しか活動しないつもりで最初から居るんじゃ無いかと此方は判断して却下にしたんだけど、打開策はあるの?」


「そ、それは、その時に新任の先生とかも来るかもしれないし、その時に死ぬ気で見つけます!!」


ちょっとっ!新任の先生に頼もうなんて他から断られたって言ってる様なものなんだけどと、せりかは心の中で突っ込む。本庄も苦笑しそうになるのを堪えて話を進めて行く。


「顧問って責任者になるっていうのは、分かるよね?しかも公立高校の顧問なんてボランティアみたいなものだし、この引き受けてくれた吉永先生だって次の先生の事には触れられてなかったの?もしかして今言った事と同じ事言って、拝み倒したのかな?」


二人は図星だった様で、ぐっと黙りこんだ。しかし即座に立ち直った富田が急に饒舌に説明をし始めた。やっぱり思った通りこっちが本丸かと皆で頷く。


「確かに顧問の先生を見つけるのは大変だと思いますが、それは僕らがまだ活動して居ない未知な同好会だからで、三月までに問題なく、活動実績も出来れば今いらっしゃる先生の中にも引き受けて下さる方は出て来ると思うんです。勿論見つからなければその時に解散する事になるとは思いますが、その時は潔く諦めます。今は要件を満たしている筈です。認められないのは不当だと思います」


「うん。そうだね。今の時点で認められるか如何かは、意見の別れる所だから、不当と見える面も有るかもしれない。だけど、もう少し早く提出してくれれば、前生徒会が担当になった筈だから、君の言う不当な目に合わなかったかもしれない。でも残念ながら現生徒会は、これには不可と回答した。少なくとも三年以上続けてくれる顧問の先生を見つけて来るのが絶対条件だ。君達の刹那的な考えは要件を満たして居ると、現生徒会は考えていない。悪いけど、条件を満たしてまた申請して来てくれるかな?」


「それは漫画研究会に偏見を持っているからでは無いと言い切れるんですか?例えば手芸部の様な部活が言って来たら同じ条件でも許可されたんじゃ有りませんか?」


「じゃあ、富田君は、何故漫画研究会が偏見を持たれてると思う訳?」


「そ、それは普通思う事だと思います。誤解を受け易いというのは、誰が見ても判る事です!」


「じゃあ俺達が誤解したから、承認されないと考えてるなら考え違いだよ。その前に断られている先生方の誤解を解いて、面倒みても良いと思われないと駄目だと思うよ。他の同好会申請者達だって実績見て貰ってから成って貰う訳じゃ無いんだよ。言っている事判るよね?誤解を受けそうな同好会だから実績見るっていうのは、依怙贔屓になると思う。他の部でも同好会でも、現時点で三年面倒みてくれようっていう気持ちになってくれる先生が付かない限りは、現生徒会では受け付けない」


「そんな要件、書いて無かったのに厳しいんですね!」


「法律と一緒で書いてある事だけが全てじゃないよ。文脈からの解釈は幾通りもある。だから俺達に決定権が委ねられているし運営に責任もあるんだからね」


本庄がそう言うと富田は「出直してきます。次回またお手数お掛けしますが、その時はお願いします」と言って頭を下げた。


不満が有りそうな茶髪くんを引っ張って「失礼しました」とさっさと出て行ってしまった。




「引き際わきまえてるね…」


本庄がそう言ってにやりと人の悪い笑みを見せた。


沙耶が「本庄君悪代官っぽくてよかったよ!桜が散ってたよ」とボケて見せたので、せりかが「桜散らしてる人は悪代官じゃないでしょ!!」と突っ込むと沙耶は「だって~どっちの要素もあって中々見ごたえあったじゃ無い?」と返す。本庄は「一件落着と言うところは一応一緒かもしれないけどね」と苦笑気味だった。


「それにしても富田君って結構出来るわね。裏方志向なのかもしれないけど、何も会長や副会長に成らなくてもいいんだし、仕事が出来るなら書記とかで入って貰うのも有りかもね。会長は涼君がやれば良いし、実務向きな人獲得して置くのも悪く無いと思うのよね」


「せりかちゃん、富田君の生徒会入り諦めて無かったの?!」


「漫画研究会の事、生徒会手伝うならうちの顧問に頼んであげようかなぁ、なんて思う訳よ」


「お嬢さん、それは酷いよ!そんな交換条件付きの餌で釣り上げようとしてる訳?それに、結構気に入ったって事?富田の事」


「せりかちゃんが気に入る様な子だったかしら?涼君とはタイプが全然違うじゃ無い?」


「最初、茶髪君が言った抗議の内容は、結構良かったじゃない?正統派で此方も頷きそうになる位、よく練り込まれてたと思うわ。考えたのはおそらく富田君でしょう?それを感じさせない位あの茶髪く…じゃなくて荻野君にうまく喋らせていたし、ああいう偏見持たれそうな外見の子を代表にする事で、却って他の事を正当に見なくちゃいけないって思わせる辺り、中々良く考えてるじゃ無い?それに今回の文化祭で思ったんだけど、涼君は華もあるし性格も良い子で会長向きでは有るけど、サッカー部なのは痛いのよね!橘君と二人で抜けられるとどうしても本庄君頼みに成っちゃうじゃ無い?実践力有ってバリバリ働いてくれるサッカー部以外の子がこれから必要だと思うの。他の子でも勿論良いかもしれないけど、本庄君相手にあれだけ善戦出来る子を見つけて来るのは中々難しいと思うのよ」


「そう思うと一理あるけど、学級委員も嫌がってるみたいなのよ?生徒会なんて絶対嫌なんじゃないかしら?」


「何も今直ぐって訳じゃ無いし、元々が同好会立ち上げようっていう位のやる気は有るし、何よりこっちには餌もあるのよ。同好会諦めて無いみたいだったし、交渉でうまく運ばなければ、最悪お手伝い要員位で手を打ってもいいし、一応持ちかけて見るだけでも良いと思うの」


「じゃあラスボスに出て来て貰おうか?」


「本庄君、橘君の事そんな風に思ってたの?!」沙耶が少し咎める様に言うと、本庄は笑って昨日の事を話し出した。


「昨日橘に電話して状況話して、橘ならどう処理するか聞いたんだけど、奴なら、速攻で叩き返すって言ってた。新生徒会だからって舐められてる様だから、相当手厳しくやり込めそうだった。ラスボス評価は妥当だと思うよ。本人さえも自分が居たら、次に申請出し辛くなる状況を招きそうだったから、今回居なくて良かったって言ってた位だから。多分本格的に会長の仕事始めたら、俺の想像も超えそうな位厳しいね」


「それは、驚くわね!でも、せりかちゃんも前は魔王様って言ってた位だものね」


「私は今の会話に混じって無いからね!魔王様は過去の事だし!」


「椎名さん、橘には絶対言わないから、脅え無くても…・…・…」


「絶対よ!それにしても即、突き返すか~。橘君は流石厳しいわ~!そういう事出来る人がここでも部活でも居ないと駄目なんだろうけどね」


「俺も、ビックリはしたけど、俺達に無いバッサリやれるところは、流石あの若宮さんから会長襲名しただけは有るなって思ったよ」


せりかが「襲名にラスボスなんて橘君にはとても聞かせられないわね」と両腕をさするポーズを見せたので沙耶と本庄は笑ってしまった。




数日後、橘が直々に一年三組の教室まで出向き、そのクラス中の女子に騒がれながら生徒会のお手伝いにスカウトして、退路を断たれた富田から了承を取り付けてきた。会長様は餌等無くても目的達成出来る実力に仲間のせりか達も富田への同情を禁じ得なかった。


しかし後日、色々な厳しい条件の元、せりか達の担任が顧問となり、漫画研究会が発足した時には、せりかもほっとした。それを盾にしようとした自分も大概だとは思うが、見返り無しに富田に働いて貰うのは、希望では無い以上悪過ぎると思っていたので、罪悪感が大分薄まって気が楽になった。せりかだけの考えで決めてしまった様で、なんだか他のメンバーに悪いと橘に言うと、橘も今の涼と自分が抜ける状態から考えて、だれか助っ人を入れたいと考えて居た様で、富田は能力的に申し分無く、橘からすると飛んで火に入る夏の虫だったらしい。せめて橘も渡りに舟くらいの例えで言ってくれたらいいのにと、自分が招いた事とは言え富田にとても申し訳無い気持ちになってしまったが、引き受けてしまったからには、気の毒な面は否めないが、気分を変えて生徒会の皆とも打ち解けられたらいいなとせりかは思った。



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