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幼馴染の親友  作者: 世羅
1章
11/128

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橘君のお母さんが、昼ごはんを一緒にと言ってくれるのを、固辞して橘家を後にした。帰りは送ってくれるという橘に、駅までならと譲歩して送って行って貰う事にした。そのまま一人で帰ってしまっては、彼のお家での立場も微妙だろうと考えたからだ。何か、駅前でファーストフードでも食べていかないかというお誘いも、お母さんが五目ごはん作ってくれてるよね?と先程の誘いの時にでた話を持ち出して断った。


ここまで、いろいろお断りすると、仮にも、お試しでも、お付き合いをする前提で、遊びにいく約束をした相手にするべき仕打ちでは無い気がするが、結局は、お母さんの昼食のお誘いを断った時点で、その他の事は必然的に断るしかなくなる。やんわりとそれを告げて、決して迷惑とかの理由での拒絶ではないと言うと、橘は安心した顔を見せた。やはり、関係がはっきりとしないうちに御家族の方と懇意になってしまう事に躊躇いがある事も一緒に付け加えた。


橘は、納得してくれた様で、駅で電車が来るまで、一緒にホームで待ってくれながら今度の出掛ける事について話し始めた。時間はあまり無かったが、その他に、打ち上げは、木曜日になりそうだという話もされた。本庄の親戚が、バーを経営しているらしく、場所を提供してくれるらしい。食べ物と飲み物は持ち込んで、片づけをしていけば、三時間位、貸してくれるという話だった。流石、どこぞの御曹司は顔が広いとは思ったが、ワルツ同様有り難い。今迄なら多分、本庄もそういう協力をしない少し冷めた感じの人だという印象だったが、いい方に変化が出て来ているように感じる。この短い時間に出来る限りの必要事項を話し合って電車が来たので、橘と別れた。一本電車を遅らせても良かったのだが、そうすると家で直ぐに帰ってくると思っているお母さんに多分、冷やかされてしまうだろうと思った。彼のお母さんに、お友達はよく遊びに来るのだが、女の子は珍しいから是非とも一緒にご飯を食べたいと言われた事でそう感じた。そうすると、お兄さんもあまり、彼女とかはお家に呼んではいないという事になるんだよなぁと思うと今回のお呼ばれは、結構レアな事では無いかと今更ながら、どうしようも無いが、どうしよう!という気持ちになってしまう。


ひとり、帰りの電車で赤くなったり、青くなったりしたが、彼が困るだろうだけで、直接せりかに被害が来る訳ではない。しかし、最初の玄関での親子の攻防を思うと橘は、やはりせりかを呼んでしまった為に、いらぬ苦労を強いられたような気がする。


実際は、計画的にでは無いが、お兄さんに貰ったシーパラの券でデートする事になったり、お母さんに会ったりお部屋に入ったりした所為で、せりかの橘に対する認識が友人+αになったのだから、橘の作戦勝ちと言える結果なのだが、せりかにはそれは微塵も考えられない事だった。本庄に、夜に報告の連絡を入れた時には、『橘はやっぱり、少し黒いから、ちょっとだけお嬢の認識を改めてね?』と優しく諭されたが、具体的な事は言わない思わせぶりな口調なので、渋々頷いたが、今日の何処に少し黒い所があったかは、せりかには欠片も思い当たる事がなかった。




帰ってきて昼食を食べた後、玲人に帰って来た事を伝えようかと思ったが、今日は、友達と遊びに行くと言っていたから、まだまだ帰っては来ないだろう。今の状況を玲人に話した方がいいのか悩む。しかし、橘は、玲人とも友人関係にある。これが全然関係ないか、もう少し、遠い関係の人だったら間違いなく相談したが、相手である橘のプライバシーも関わってくる。しかも、相手に告白されてその返事を保留させてもらっている立場だ。逆だったら相談など、共通の友人にされてはたまらない。特に、玲人は過保護も過ぎるので、もう一人誘って、ダブルデートにしようとか言って、どうにかついて来そうな気配がプンプンする。記憶の彼方に近い事が、たしかあった様な気がする。そうなる事は、やはり玲人に話した事が橘にも伝わる訳だから、あまり気分のいいものでは無いだろうと思う。せりかは、この事に関しては玲人には相談しない事に決めた。






代休日が終わった火曜日、学校に行くと皆がカチューシャをしていて笑ってしまった。せりかも実は茶色のをしている。普段していなかったが、柔らかい素材のものであまり違和感が無いし、髪が下を向いても落ちて来ないので、結構便利である。


クラスで木曜の打ち上げの出欠表が早くも回っていた。どうやら幹事さんはもう決まっていて、買い出し係とかも決定しているらしい。せりかは、自分と橘でやらなくては成らないのかと思っていた為とても驚いた。元々、優勝しなくても打ち上げの予定は有って、それに幹事の名乗りを上げてくれる女子が数人いて、そこに本庄と数人の男子が力仕事も有るだろうからと加わったという話だ。話が纏まったのが、ダンスの練習中だった事もあって、踊りの仲間が多い。その中には、本庄と共に先生をしてくれた、更科真綾さらしなまあやもいた。本庄とは元からの知り合いの様で、主に二人で役割分担を決めていた。貸して下さるお店のオーナーさんとも真綾は知り合いの様で、勝手知ったると言った雰囲気だった。今迄、あまり二人は親しい素振りが見えなかったので少し意外だった。






美久や弘美は初めてのバーでの打ち上げにお酒は飲めないとはいえ、大分興奮気味だった。食べ物や飲み物、カラオケやダーツ、それに商品付きビンゴ大会と全体に高校生主催にしてはやけに豪華な打ち上げだと思う。確か会費は千円だったはずだが…。幹事の二人がオーナーの差し入れと担任の先生の好意だと最初に説明をしていた。少しカンパを取り付けたらしい。ちゃっかりしているというよりも、担任の顔を立たせる為だろうと思われた。これで、少し、クールな担任のイメージは、生徒思いだけど表には出さない押し付けがましく無い先生に塗り替えられただろう。いったい策士とは誰の事だろうと本庄を見ると、こちらに向かって『まあまあ』といった感じに心の声が聞こえたように薄く笑った。


せりかは、明後日の事が気になっている為、いつもよりも大人になったと錯覚して楽しめる余裕などなかった。格好だけはいつもよりも大人っぽいワンピースに海外土産のブランドのバックを合わせたものだった。カチューシャは今回、みんなの中で必須アイテムだったので、橘に貰った真っ青なリボンの付いたものをつけた。洋服に合わせた事も大きいが、皆の前で貰ったのにつけないのは、橘に悪い気がしたのと明後日はつけていかない事に対する免罪符のような気持ちからだった。二人きりで出掛けるのに青いカチューシャをつけていく勇気と気持ちはまだせりかの中には無かった。


橘の姿を探すと、絶対にお兄さんにコーデされてしまったのだろうというあり得ないチャラい大学生風だった。ジャケットを黒くしてるのに中のシャツも黒でボタンを二つあけてシルバー十字架のアクセサリーとドクロの指輪を付けている。それにデニムとブーツを合わせて、ホスト風に成らない計算をされたチャラさだったが、元がいいと何でも似合う。皆にも大好評で写真を撮らせてと言われて必死に断っていた。大体、橘の私服では無い事は一目瞭然なので、皆、『似合うよ~』とニヤニヤするだけで嫌がる事を無理やりするような場を盛り下げる人間は居なかったが、王子様の意外な取り合わせに男女問わず、釘付けで、純粋に普段を知らない人間がみれば唯、唯、カッコいいのだが、橘の不機嫌な態度も後押しして、おかしさと面白さに拍車が掛かっていた。お兄さんナイスなチョイスである。『いい仕事してるよね』と本庄が一樹いつきの存在を知っているのか目の端に涙を浮かべて苦しそうにせりかのところに寄って来た。せりかも同感だった。多分、あの券を譲って貰った恩義で逆らえなかったのだろう。あれは、一人分五千円を超えた招待券だった事を思えば、お兄さんも貰ったとはいっても自分が彼女と行かずに弟の為にあげてしまうのは、随分気前がいいと思う。弟思いだとも思うが、今日のクラス全員へのサービスには頭が下がる。しかし、この飾り甲斐のある弟を持てば一回はやってみたかったのだろう。明後日、出掛ける時に橘から真相が聞けると思うが、一樹さんも人が悪過ぎる。橘が目に入る度に皆、普段とのギャップにウケそうになるのをこらえる。本人も分かっていて、もう笑うならいっそ、笑ってくれた方が楽だと公言しても笑いだせる人間は居なかった。可笑しいのだが、おかしいと思うと、似合うなぁと妙に感心してしまい、笑うところまでこないのだ。しかも『ちゃら男の橘くん』なんて多分この先も、大学生になってもありえない。人間変わって行くものだが、この種の変化はないだろうという事は察せられた。要はみんな超レアで楽しんでいるだけなのだった。




盛り上がりに盛り上がった宴会は、時間切れが来てしまいお開きとなった。せりかは片づけに残ろうとしたが、全員で自分達の周りのごみを纏めて、気が付く子がテーブルを拭くと五分程で片付いた。流石、最優秀賞を取れたクラスの団結力に感心してしまうが、文化祭から皆の意識が変わった事でクラスの雰囲気も良くしていた。行事ってメンドクサイ事だけではなくてこういう副産物もうみ出してくれるのだなとせりかは感慨深い気持ちになった。


帰り際、そっと橘が、「カチューシャ青いのも似合うね」と言って来たので、せりかはお返しに、「一樹さんコーディネートも最高にカッコいいよ」と返すと爽やかな笑みを引っ込めてとたん渋面になった。その変わり様に本庄には何を言ったのか聞こえていないのに分かった様で、わざわざ二人のところに寄ってきて馬鹿ウケしていた。「先生、今日のせっかくの装いが台無しな馬鹿笑い止めた方がいいよ」とせりかに突っ込まれていたが、余計にツボに入ったらしく、橘にもたれて崩れそうになって笑っていた。いつまで笑っている気だろうと思ったが、更科が戸締り等の確認に本庄を呼びにきたので、やっと去って行ってくれた。


楽しかった打ち上げはこうして幕を閉じた。


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