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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
109/128

109

『本庄がせりかの事を好き?』そんな事信じられる筈が無い。あれ程せりかが彼に思いを寄せて居た頃にだって、彼の優しい拒絶しか感じなかった。


今更、真綾が去ったからなのだろうか?しかし、真綾と本庄には従兄妹としての関係しか結局無かったと真綾は言っていた。


いつから?!本当に?!本気で?!


せりかの中で湧きあがる疑問は、本人にぶつけても、本庄は本当の事は言わない様な気がした。でも彼は何の為にせりかへの好意を匂わせる発言をしたのだろうか?何ひとつ良い事なんて無い。橘とだって真綾とだって気まずくなりはしないのか心配になる。そう考えたら、せりか自身と一番気まずくなるのでは無いかと思い到った。


今日はもう本庄とは話せない。誰に相談していいのか判らない。しかし、自分だけで抱え込むには、橘の事がようやく終結した今はどうにも重過ぎた。


橘はもしかしたら、付き合い始めから知って居たのではないかという気持ちが強くなってきた。札幌の公園で急に別れを切り出されたが、あの時の唐突さはずっと付き合って来た彼の誠実さを思えば、今から考えるとかなり不自然だった。彼があの日、急に昼間と態度を翻したのは本庄の事が関わっているのでは無いかという仮説を立ててみると、全てあの時の事に納得が行く。


橘は、せりかと付き合い始める事には、せりかを望んでくれて居たのは確かだ。あの時はお互いの為の練習にと言ったが、後からは「練習は好きな子としたいよね」とさらりと騙した訳では無いけど、言わなかっただけとせりかと本当の恋人になってから白状した。


せりかが無理な要求を吞んでしまった為に、付き合いを続けてくれていたと思っていたので、あの時は安堵したが、そんな気持ちでいてくれた橘の一日で別れようとした理由は、何て言われたのか思い出してみると「本庄を想うせりかと付き合うのはやっぱり辛くなった」と言われたと思う。彼が嘘を吐いたのはこの間の別れの理由だけだ。しかも一年の時にせりかに振られているのに、玲人に無理に頼んで付き合う様になったというのは割合本当の事だ。違うのは部活で放って置いて振られたという所だけだ。本当はせりかが橘の彼女でいる為の背伸びが、本人にもそう誤解を与えている事実にせりかが耐えられなくなっただけだ。


橘の嘘にはやはり本当の事がかなり含まれている。あの時の事も全てでは無くとも本当の事だとしたら、本庄の気持ちが既にあの時せりかにある事に気が付いて、本庄を想うせりかの前から身を引こうとした可能性は高い。


橘の気持ちが今はもう痛くて苦しかった。憶測だが、それ以外どう考えれば良いのか分からない位、確かに思えた。あの時、彼がどんな思いで別れようと言ってくれたのだろう?それを遮ってしまったのは自分だった。橘との付き合いに後悔は無いと思っていたが、相手の気持ちが大体分かってしまった今は後悔で一杯だった。どうしたら良いのか分からないが、橘に酷い事をしてしまった事だけは分かる。最初の最初から、彼は「別れても親友に戻るだけだから」と言い続けた。せりかは涙が滲んで来た。今瞬きをすれば、確実に水分が頬をつたってしまう。慌ててハンカチに水分を含ませた。授業中に泣きだしてしまっては、せっかく橘が作り上げてくれた嘘の効果も無くなってしまう。橘の為に泣いてはいけない!!


結局誰にも話せないまま、放課後になり、橘から「悪いんだけど同好会の許可申請があったから、処理お願いしても良い?初っ端からごめんね」と言って来たので、こんな事でも彼の力になれる事があるのだと仄暗い喜びを覚えた。せめて何でも良いから何かしたいと思っていたせりかは喜んでその申し出を受けた。


顧問である担任から許可申請書類を受け取って、生徒会室に向かおうとすると沙耶と本庄がせりかを追って来た。


「橘から、申請の是否を三人で検討してくれって頼まれた。場所も仮予算も妥当かどうか皆で見てみてくれって」


本庄がそう言うのを断る術は無い。せりか一人の判断では備品や予算等の色々な面から、申請許可を出すのは難しい。一回許可したものは、撤回は出来ないから慎重に成る必要があった。


本庄に動揺した様子は見られないが、せりかの動揺は見抜かれている。橘から頼まれたというのは、断ろうとするせりかを黙らせるには、一番有効な手段だった。


三人で生徒会室で書類に目を通し、申請場所の教室や、顧問の教諭の他の部活や同好会と被りが無いか、確認する。


「漫画研究会って漫画を予算の中から買ったりする為に、友達同士で始めようとしているんじゃ無いかしら?生徒会が変わった途端の申請も先輩達に比べれば、新人で甘いって思われて居るんじゃない?」


「でも、この申請書は結構しっかり書いて来てるよ。書類には全く不備も無いし、顧問も許可して付くなら、予算の使い道の限定とか、領収書は勿論出させるけど、細かい詳細の義務を求めるとか、こちらから指導を入れる形での承認が良い様に想うけど」


せりかと本庄で意見を言って、沙耶の方を見た。


「私もせりかちゃんの意見に近いわ。同好会でこちらが出す費用は少ないけど、それで漫画を買ったりされたら、周りが羨ましがって、入部者が増えて部に昇格を求めて来ると思うの。これを作成した子が、とても上手に申請要件を満たす書き方をしているのが気になるわ」


「一年生だけど曲者っぽいわね」


「こちらも断るからには理由が居るけど、漫画も一既に否定出来ないんじゃ無いのかな?一応今は文化扱いされているし、他校で漫画研究会は存在しているからね」


「この中で責任者じゃ無いけど、富田真也とみたしんやという子がいるでしょう?この子が黒幕だと思うわ」


「「どうして?!」」


本庄と沙耶は不思議そうに一瞬するが、本庄は直ぐに理由に気付いた様だった。


「もしかして、来年の生徒会指名者の選定の中に入ってるの?」


「そうなのよ。成績表も毎回見に行ってるんだけど、必ず5番以内をキープしてるわ。うちは橘君が毎回トップだから、そういう人が居るんじゃ無いかと思っていたけど、案外バラツキが有るのよね。今迄で一番成績が安定して良いのは、その富田君で、部活とかにも所属して無いのは確認していて、どんな子だか確認して居ないけど、良さそうだったら、涼君に確認して連れて来て貰おうと思ってたのよ。多分来年は、涼君もその子も一組になるから、無理矢理仲良くなって貰おうかと画策してたの」


「それは、流石に難しく無い?高坂じゃ有るまいし、誰とでも仲良く出来ないでしょう?相性も有るんだから!」


「そうよね。でも表面的にで良いからっていう橘君の教えは着実に実行出来ているみたいだから、イケる様ならナンパして来て貰おうかとって…ゴメンなさい、つい本心が!えっと大丈夫ならでいいけど連れて来て欲しい人のリストに入れるつもりだったの」


「せりかちゃん。思考が駄々漏れよ。大丈夫?…それで、その賢い子が上手く都合良く、仲間との遊び場所と道具を手に入れようかとしてるかもしれないって事よね?」


「この件保留扱いにしたら?文句を付けて来るんだったら、その富田っていうのが絶対付いてくるんじゃ無いかと思うから、人柄見るいい機会じゃ無いの?」


「そうね。それにこの顧問の先生って来年勇退されるのが決まっているわよね。その点で攻めてはどうかなって思ってるの」


「次も見つけて来いって事か。とりあえず、それで申請却下して様子を見よう」


「玲人にメール打って、涼君と一年生に何気なく聞いて貰っとくわ。今日中に!」


「橘に言った方が良くない?流石に高坂は無関係だし」


「あの橘君がどんな子か聞いたら、涼君だけなら良いけど、他の子に言ったら噂になっちゃうわ!玲人なら気まぐれっぽいし、聞かれた方も身構えないわ」


「そういえば橘って部活の時、結構怖そうな事、高坂も言ってたよね。この際、高坂に任せるか」


「玲人君には悪いけど、せりかちゃんの頼みだったら聞いてくれるわよね」


「じゃあメール打って置くから、この件は申請却下で行きましょう」


「もしも抗議に来たら、俺に任せて貰っても良い?」


「そうね。橘君からは私に一任されてるから、本庄君に会長権限をこの件では委譲します」


「最初の案件から結構面白いね!」


「本庄君が居れば言い負かされる事は無さそうだよね」


沙耶がにっこりと言うと本庄も薄く笑う。なんだか悪代官の屋敷みたいだなとせりかは思うが、橘が加わったら、更にパワーアップするだけだ。涼が一服の清涼剤になってくれるといいのだが。


帰りは沙耶がバスで方向が違う為、本庄と二人だ!今迄気が付かない程、生徒会の仕事に没頭していた。帰ろうかと言った所で、本庄にメールの着信が有った「ごめんっ。切って無くて」本庄は慌てるが、友人達三人の会議で、せりかだって切っては居ない。沙耶も「気にしないで。特別な時以外は切らなくても良いと思うけど」と言った。


「真綾がまだ残ってるから、一緒に帰りたいけど何時に終わるのかって言って来てる。椎名さん、真綾が一緒でも良い?」


渡りに舟だ。「勿論、いいわよ」と答えると、メールを打って門の所で待ち合わせになった。


「サッカー部の練習を見ていたの」


そう言って嬉しそうに微笑む真綾は、玲人の事が本当に好きなんだなと感じてせりかも嬉しくなる。


「ファンの子は大丈夫だったの?」


「最近、文化祭の劇の練習で絡みが多い子がいて、仲良くなって誘われたの。三年生が居なくなっているから、案外もう大丈夫そうなの。近くで高坂君のシュートが見れて楽しかったわ。大丈夫そうだったらまた見に行きたいわ。せりかさんも今度一緒に行かない?」


「流石に、橘君を振った女の応援は許されないと思うけどね。生徒会の窓から見えるから、それで結構楽しいしね」


「えー!近い方が面白いのに。でも生徒会からは全体が見えそうね。私も今度行っても良い?」


「特に行事前とかじゃ無ければ、多分大丈夫よ。玲人ファンの子達とよく仲良くなったわね!」


「お互い北川君に絞られてたから、愚痴りあってるうちに高坂君の話も出る様になったの。彼女は、結構良い子で、高坂君の事も真剣に応援しているのを聞いてたら、私も少し見てみたいって言ったら、行こうよって軽く誘ってくれたの。応援に行ってみたら、みんな本当に真剣なんで、付き合ってるのは、絶対に分からないようにしないとその子達全員に悪いって思っちゃったわ」


「玲人もみんなに愛想を振りまくから、応援のしがいが有りそうね。真綾さんも程々にね」


「そうするわ。高坂君が困ってもいけないしね」


玲人の気にし無さ加減だと、やっぱり困るのは真綾になりそうだが、それでも応援はやはり、止めた方が良い様にせりかは思う。


女子二人で姦しく話すのをにこやかに聞く本庄は、本当に出来た人だと思う。しかし、今日は真綾がいてくれて、とても助けられた。まだ、自分の中でも咀嚼されて居ない段階で、本庄と二人で話したら、とんでも無い事を、絶対に後から後悔しそうな事を沢山言ってしまいそうだった。




「富田君の情報手に入った?」


いつもの様に勉強を終えてから切り出すと、玲人は「ああ。同じクラスの奴がいたから」と話し始めた。


「成績がトップクラスなのは、分かってると思うけど、一年三組で委員長とかは特にして無い」


「どういう事?大抵そのクラスのトップ通過の人に来る筈で、どう見ても学年でも圧倒的では無いにしてもトップなのよ」


「受験の時にトップに成らない様にしたんだろうな。そう思うとかなり計算高い。大抵は上の奴だって楽々受かる訳じゃ無くて、入ってみたら一番だったっていうのに」


「もしかして今の状態も操作して一位に成らない様にしてるんじゃないかしら?」


「その可能性はある。うちの部の奴は運動会系だから、富田は少しおたくっぽく映るらしい。でも試験前とか結構助けてくれていい奴だって言ってたけど」


「割合大人し目で、面倒見が良くておたくね。漫画研究会を作ろうとしてるくらいだから、そう見えてもおかしくは無いわね」


「何をそんなに気にしてるんだ?」


「頭の良い子イコール良い子では無いでしょう?でも生徒会は有る程度は成績も視野に入れるから、来年度涼君と気が合うなら連れて来て貰おうと思ったのよ。漫画研究会の申請書類も完璧に造り込んできたし、使えるようなら考えようって話と、同好会申請却下するから、どういう子か聞きたかったけど、生徒会の方は本人がクラス委員も避ける様じゃ難しいわね」


「漫画研究会、駄目なのか?」


「羨ましく成らない?同好会費で漫画買って、溜まり場で読みふけるの」


「うーん。サッカーやってる方が楽しいけどな!でも羨ましいと思う奴も出て来そうだな。それで新生徒会は却下の結論を出したという事か」


「顧問が直ぐに勇退される方を選んでるんで、それを理由にしてるけど、実際は却下理由がなくて困っているところよ」


「涼は、全然知らないらしい。同じクラスか部活が一緒とかでなければ、関わりが無いらしい」


「涼君は中学迄フランスだもの。同中の子が他クラスにいる訳でも無いから、知ってたらいいなって思ったけど、涼君ってその子とも打ち解けられそう?」


「それは富田って奴が俺にも分からないから、何とも言えないけど、今は涼は一年の奴らともうまくやってるし、忍には傾倒しすぎだけど、それは同学年の奴も似たりよったりの部分があるから、先輩にも可愛がられてるよ」


「そっか。生徒会では橘君の味方になってしまうのね。少し考えものだわ。今日だって三人で話し合って二対一なのに…」


「お前、悪どい事考えるのやめろよ?会長は忍なんだろう?」


「玲人が部長になったら、なんでも部長の思う通りじゃ無いでしょう?生徒会も一応覇権争いは水面下ではあるのよ。みんなが同じ意見では無いしね」


「じゃあ知りたい事はもう無いよな?俺帰るわ」


「………ちょっと待って!やっぱり玲人にしか相談出来ない。……単刀直入に聞くけど、本庄君って本当に私の事が好きなの?!……って玲人は知らないよね?」


「っ!本庄、このタイミングで告白してきたのか?!忍と別れたばかりだろう?」


「玲人は、もしかして真綾さんから聞いてるの?」


「あ~。うーん。。。真綾からも聞いてるし、本庄本人からも聞いてるかな」


「じゃあ、あれは本当だったのね。告白はされてないわ。だけど距離置こうとしたら、遠まわしに理解出来るかギリギリの事を言われて、でもそんな事とても信じられないし、大体いつからなの?!って思うじゃない?あれだけ、はっきりと振られたのに、今更好きって言われても信じられないと思わない?!」


「本庄は、忍とせりが付き合ってる頃から本気だと思うけど」


何故玲人が気まずいのか、分からない。今迄黙って居たのを責める気持ちに成る筈が無い。橘と付き合っている時に言われたら、もっと困って居たと思う。玲人も橘とせりかの事を考えたら、聞いていても言わないのが道理だろうと思う。


「橘君は知って居るんでしょう?」


「何でせりが!忍と今日話して無いだろう?一日一緒に囲まれたけど、せり寄って来なかったじゃないか」


「その事じゃ無いけど、生徒会の事なら少しは話したわ。やっぱり知って居たんでしょう?それは修学旅行の時じゃ無い?」


玲人は確信を持っていうせりかが、何を根拠に詳しい日時まで確信して言及してくるのか分からないが、それを認めてしまったら、せりかの所為で真綾と本庄が別れたのがバレてしまう。


ここ迄考えて、今玲人と付き合っている真綾を避けたり、その事に罪悪感を感じるかと言ったら、結果的にあまり気に成らないんじゃ無いかと感じた。時の流れと変化で、あの時とは状況が変わっていて、せりかにそんなに隠し通す必要性は薄く成って居る様に思う。しかし、真綾とは問題解決だが、本庄の事を許すのか、自分が別れの原因に成った事を全く気にしないかという点においては、どうなんだろう?と考える。性悪小舅に聞いてみないと判断がつきかねるので、ここは何とか切り抜けるしか無い。


「俺も聞いている事を、全てせりに喋る訳にはいかない。せりから聞いた事だって忍や本庄に話す訳じゃ無い。だから、とりあえず今は勘弁してくれ」


「だって橘君本人に聞く訳にいかないでしょう?」


そう言ってせりかは涙を流す。橘の為に泣くせりかを、何度も見て来たが、滅多に昔から泣いたりしないせりかがこの短期間でこれだけ涙を玲人に見せるのだから、橘に思い入れは随分と有るのだろう。本庄に対してせりかが応えるとは思えないが、なにせ相手がうわて過ぎるので、それは玲人の中でも絶対では無い。


ここで本当の事を語ってしまっては、やはり本庄の恋路を邪魔する事になる。本当は邪魔してやりたいが、彼単体で見れば、サッカー部の事や忍やせりかの事まで気に掛けてくれ、その上何ともならない様な事を解決してしまう超人的な奴で、玲人も助けられたし、真綾の親にも玲人の事を取りなしてくれてもいる。それを思うと恩を仇では返せない。せりかが泣こうとも、本当の事は今はとにかく言えない。それに本当の事を話したらせりかはもっと泣くだろう。


「知って何になるって言うんだ?忍とやり直せるっていうのか?」


少々きつい事を承知で言うと、せりかが「そうだよね。自己満足なだけだよね」と諦めた様にいうので、玲人も辛くなった。とにかく本庄に問い質したいし話し合いたかった。



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