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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
103/128

103

「良かったよ。忍がサッカー部に残ってくれる事になって!」


「そうね。橘君も本当は続けたいけど伊藤先輩達見ていたら、迷惑掛けちゃうかもって、懸念してだったんなら良かったわよね。伊藤先輩の言う事だったらそんなにあっさり聞いちゃうんだったら、早く相談して良かったわね」


「それは、先輩の命令とかじゃ無くて経験者の言葉の重みが違うんだよ。伊藤先輩は続けたかったけど諦めた側の人間だから、余計に響くし、先の後継者の事とかも考えて育てろって言われたら、忍だって流石に考え直すよ。いつもの頑固さが嘘みたいに素直だったもんな」


「そうね。橘君って普段はああ見えて割合頑固だもんね。私も玲人から聞いた時は玲人には悪いけど、橘君は考えは基本的には変えないんじゃ無いかと思ったわ。何らかの譲歩を引き出せればいいかなって位にしか思わなかったもの」


「せりだって忍がサッカー辞めないでくれて良かっただろう?」


「…そうね。本当に良かったと思うわ」


「せりが本庄が何とかするんじゃないかって言うの、話し半分で聞いてたけど、あいつ段取り付けて、伊藤先輩まで懐柔して本当にすごいんだな。実が伴ってるから買い被りじゃ無いってせりが言う意味が今回の事で分った気がするよ」


「玲人は真綾さんの事もあって、性悪小舅っていうけど、私の事も付き合いが浅い内から、相談に乗ってくれて色々助けられたりしたのよ。そういう意味では基本、面倒見の良い人なんだと思うのよ」


「ああいう出来の良い奴と一緒にいると、少しコンプレックスが刺激はされるかな。忍もそういうところ有るけど、何と無く弟気質で可愛気があって、今迄あまり気に成らなかったけど、伊藤先輩にも忍に頼り過ぎるなって釘刺されたしなぁ!」


「橘君ってそういう所、世渡り上手よね。女子には完璧に頼りになるお兄さんなのに、男子の中に入るとちゃっかりしてる次男坊っていう雰囲気醸し出してるものね。おうちの時と同じだから本人はもしかして無意識で、そっちが素なのかもしれないけどね」


「せりが、あの二人に失望されたく無いって言うのって、結局、尊敬とか憧憬の裏返しなのかなって思ったよ」


「それは落ち着いて考えれば、もうそういう事だって私も判ってはいるけどね。でもやっぱり二人にとっての私って普通に考えられない誤解を受けてるから、そこは怒りの感情があって、逆にそれを保って居ないと私自身が耐えられそうに無いのよ!」


「そうだな。せりはこれ以上、もう頑張らなくて良い。あいつ等の為に背伸びする必要は無いよ」


玲人は今迄の事を詫びたかったが、そうしたら今迄の頑張り迄否定してしまう事になる。だからそれは出来なかった。


せりかは、玲人の言葉に気分が上向いた様で「無理が祟ったって事ね…」と少しだけ笑みを見せて「橘君と別れたら、もう背伸びは止めるわ。自分以上に見せようとする必要が無くなるしね」と、きっぱりと言った。別れを止めるつもりはもう玲人には無かったが、やっぱり無理なのかという思いになったのは、友の悲しい顔を見たくなかったからかもしれない。


今回の事をせりかは、面倒見が良いという見方をしているが本庄がせりかの為だと言ったのを聞いたらどんな反応をするのだろうか?


今のせりかに言っても、追い詰めるだけだと思ったので言わないでおいたが、伊藤があの場にいたのだから、あっさり言われそうな気もしたが、玲人から聞くのと伊藤から聞くのでは捉え方が多分変わってくるだろうと思った。


本庄が言った事は、全部本当では無いのは、玲人にも分ってはいても、臆面も無くせりかが心配してたから、問題解決に尽力したと言えるのは、玲人に宣言した通り、本気で橘と別れたら、せりかを奪うつもりなのだろう。しかし、せりかの話振りからみても、橘とほぼ同列に並べて話す様子から、悪いが本庄と付き合える位なら橘と別れたりしないだろうと思える。


でも、絶対に無理だとせりかも思っていたという、橘のサッカー部の残留をあっさり成し遂げられると、せりかの事もどうにかされてしまいそうで不安になった。相手は今回の事よりも本気で攻略して来るつもりなのは玲人は、はっきりと本庄から怖いやる気を告白されている。本庄のやる気を侮れないが、橘と別れた後、どうやってせりかの心を取り戻すつもりなのか甚だ疑問である。


かといって邪魔をする理由は有る様で無い。せりかが納得するなら、いくら理解出来ないおかしな事でも、玲人は受け入れるつもりだからだ。強いていえば橘の事は気になるが、橘は元々、本庄との事を気にしながらせりかと付き合いを続けていた。本当のせりかの許容量がオーバーした理由は、本庄にも同じ事が言えるのだという事迄、分るかどうかは、今の所は不明だ。しかも本庄が「橘と別れないなら諦める」とせりかの事を一番に考えて、玲人を味方に付けた様に、おそらく橘も本庄をせりかが選んでも当然の事だと捉えるだろう。周囲はどう思うかは別だが……。


誤解でも、まやかしでも、せりかは、あの二人から、自分とで無くても幸せを望まれている。その位、相手の愛情が深いということだ。二人の精神性が、この年齢にしては奇妙に映る程、大人だと思うが、それぞれがそう成るべくしてなった理由は玲人も聞いた範囲では分らなくも無い。それ程思われる価値がせりかに有るのかは玲人には、当然の様にある為、他人にとってそうなのかは、正直よく分らない。しかもせりかのいう通り、二人は少し背伸びしたせりかを更に美化して見ている様に玲人からも映る。


だから其処まで思ってくれてるんだから自信を持てなどとは、とても言えない。せりか自身は可愛いし優しいと思うが、玲人に対してはそれが格別だし、こちらの欲目もあるので正確さと公平さは、橘達よりも怪しい。違うのは実体をよく知る分、幻想の様な理想を押し付けない事だけだろう。そう考えて此処からどうなるかは、心配しても答えは出ないし、仮にせりかに相談されても答えられない。せりかは玲人に対して今以上の介入は望んでいない気がする。きっと寄りそうだけで良いのだ。自分が悩んだ所で仕方が無い。自分は本庄にせりかが奪われたらと思うと、橘に同情してしまっているだけなのだ。しかし当の橘は玲人が本庄の邪魔をする事など、一番始めから望んでなど居なかった。なんだか大人な考えを持つ二人の間で友人と幼馴染の事とあって一人思い悩んでしまったが、結局要らぬお世話なのだろうという事は玲人にも分っていた。


元々、悩むのは性に合わない事もあって、ここまでぐずぐずと考えたのが無意味だと悟ると馬鹿馬鹿しくなった。今は性悪小舅改め真綾の従兄は、思わぬ活躍で橘をサッカー部に引き留めてくれた事だけを喜んで、礼でも言って置くか、という気になった。




「昨日はありがとな。お前のお蔭で助かったよ」


「いや、伊藤先輩の力が殆んどでしょう?俺は皆に集まってくれる様に言っただけだしね。昨日のラーメンのお礼今日会ったら言わないとな」


「昨日言ったので充分だろう?」


「普通翌日あった時にもう一度礼を言うのが礼儀だって、夏休みに行った会社研修で言われたんだけど?」


「それは社会人の常識!それに昨日も先輩が誘ってくれて奢るって言われたら、断ったら駄目だ。大人数の場合は元々奢るとかって言わないから、普通に払えばいいけど、あれぐらいの人数の時は断る本庄のが礼義知らずになるんだからな!」


「運動部の暗黙の掟って感じだね。勉強になるよ。ついでに聞きたいけど何で今日お礼言っちゃ駄目なの?」


「それは~、周りに奢ってもらって無い奴がいる可能性が高いから、言われると先輩が迷惑するんだよ。お前の場合はせりとか沙耶とかが一緒の時だろう?こっそり言うにしても、たいした金額のものは元々こっちも奢って貰ったりはしないから、二回言うのは執くなるの!分かった?」


「成程ね。確かにそうだね!よく分かった。ありがとう」


普段賢く隙の無い本庄に教えてやる立場になるのは気分が良かった。本庄も「今迄注意してくれるのって橘位だったから高坂も気になる事あったら、悪いけど言ってくれる?」と言って来た。こちらが敵視しなければ本庄は特別鼻持ち成らない性格はしていない。今回の事で結構いい奴だと思い、認識を改めて友人として付き合う事にするかと玲人は思った。


伊藤が昨日の内から動いてくれたらしく、副部長の曽我から、顧問にポジションの変更を申し出ていて、橘は以前断ったのを詫びて、今日の朝から交替したが、伊藤の読み通りに見違える様にうまく行く様になった。元々二人とも実力があるのだから、ハマればうまく機能するのは当たり前なのだが、皆も顧問も、勿論本人達もホッとした。これで決勝はなんとか勝てるのでは無いかと思われた。



その前に文化祭があるので、玲人も頭の中将役をもう少し真剣に取り組まないと、サッカーに比重を置き過ぎて、セリフは覚えたものの、帝に拝謁する時の所作など、衣裳を着させて貰って橘の様に昼休みにやろうと思った。今迄主役じゃ無いからと橘の様に真剣にやって無かった事を悔やんだが、本庄が丁度帝役なので頼むと、生徒会の方をせりかに断ってくれて、練習に付き合ってくれた。やっぱり思った通り良い奴だ。お辞儀の角度やら、座り方、立ち姿、歩き方など、細かく直される。絡みのある女子生徒とのシーンも見て貰いたいと頼んだら、本庄は、北川を呼んだ。北川とは今迄ほとんど話した事が無かったが、結構厳しかった。北川が荒井も呼んで、それから玲人の特訓が開始されてしまった。どうやら主役よりも今迄放置していた玲人に、演出担当の二人の目が向いてしまった様だが、もうギリギリだし、付きっきりで指導してくれるなら厳しくとも有り難い。今迄、橘と真綾が中心だった練習が、ここに来て玲人中心で、橘も同僚としての役として玲人の所へ出向いて来る有り様だ。橘は元々素養も有って、演出側も、相手役に指導が行きがちだったが、玲人は演劇など門外漢で他より駄目という事は無いが、橘と比べられるとまだまだの様で、玲人にも北川と荒井のあせりが伝わって来たので、今更だが、休み時間や昼休み、せりかと勉強後にと短いながらも必死で周りに助けて貰いながら何とかリハーサルまでには形になって来た。元々、橘の様に自分からやると言わなければ、他はサッカー部のエースの玲人に「練習をもっとして」とは、疲れているのも見えるので言えなかったのだろうと反省しきりだ。


源氏の君は元皇子様で雅に振舞うのは当然で、橘もその辺は少しの手の動き等にも気を配って、優雅で華やかな雰囲気が出る様に、舞台である事も考慮しつつ、少し大きめな動きを見せる。去年も演劇をやっている為かその辺は心得て居る様で、舞台での立ち回りも完璧な橘に、北川も満面の笑顔でオッケーを出す。玲人も本庄から特訓を受け、せりかを付き合わせて付け焼き刃ながら、北川から「高坂も役に合ってるし、橘と比べて皇子様よりちょっと雑位で丁度良い感じで良いよ」と本人的には褒めているんだろうが微妙な言葉を頂戴した。玲人は右大臣の息子役なので、主役の様には優美じゃなくても良いらしいが、玲人からすると精一杯上品に振舞っているつもりなので、褒められても苦笑いだ。女官役の女子との艶事も橘とは数も時間も比べようも無い。内容も少しその様な事を連想させる事をして障子のセットの方に掃ければ良いという、演出だが、その少しでも難しく、せりかと姿見を見ながら特訓して何とかなった。親が部屋にもしも来たらとんでも無い誤解を受けそうな事をしていたのだが、玲人が必死なので、せりかはその点は集中力が切れない様に玲人には言わなかったが、少しだけヒヤヒヤしてしまった。


リハーサルの一日は、決勝を控えているサッカー部を休むのは気が引けたが、今迄クラスの方に迷惑を掛けてしまっている事も部活の皆も知るところだったので、仕方が無いのは良く分ってくれた。しかもこの辺りでは、もう負けてしまっているだろうと思っていて組んだ予定だというのも、言わなくとも皆分かっていた。曽我と橘の連携がうまく行っているので、周りも雰囲気にゆとりが出て来てくれたのも助かった。


あまり気にしない玲人ですら「今日、抜け易くて助かった。伊藤先輩のお蔭だな」としみじみと言った程だ。しばらく伊藤に頭が上がりそうに無い。


大道具、衣裳、小道具、照明、出演者とクラス全員が集まり、本番と同じ様に時間内に収まる様に、戦場の様に場面の切り替えなど、問題無いかどうかチェックする。荒井と北川と、演者と大道具などの移動をしない女子達は等間隔で観客席をパイプ椅子で作った。


最後まで通しが終わると、橘は手ごたえが有った様で、周りと「ヤッター!!」とハイタッチをしているのを玲人は羨ましく見ていると、北川と荒井は、玲人に歩いて来て、二人が拍手を贈ってくれた。玲人の頑張りは二人に届いたらしい。多分不安要素が無くなったというだけで、橘の様に文句の無い出来では無いのは今迄の練習量を比べれば当然だが、それでも及第点が出た様で皆のお蔭で何とかなってホッとした。特訓に付き合ってくれたせりかも本庄も主役の方で無く、玲人に良かったね!と声を掛けて来た。玲人も二人と周りに礼を言った。橘も、玲人良かったよと寄って来たのでクラスの皆の注目を集めてしまって、普段照れたりしない玲人が恥かしがるのを、せりかが奇妙なものを見たかの様な顔をしたのが見えた。


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