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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
102/128

102

せりか側と忍側で多少の見解の相違があります。

彼女の様子がおかしい。自分との間にあった大切な何かが壊れて繋がっていた筈の絆が切れてしまっている事に橘は気付いていた。


しかし分っていても橘は修復の道を選ばなかった、いや選べなかった。今迄、せりかの仮初の彼氏だと自分でも戒めて来た。本庄が好きだったせりかを無理矢理こちらに向かせたのだから(ひず)みがいつか出て来るのは予想出来た事だったし、むしろこのまませりかが自分の恋人で居続けてくれる想像は出来ない位いつも別れの予感はあった。


優しい彼女は橘を慮っていつもの彼女を演じるが、曲りなりにも彼氏である橘に僅かな違和感から始まった彼女への疑念は直ぐに確信に変わった。自分がせりかに向ける気持ちと彼女が自分に向ける気持ちが違うのは分っていた。せりかは橘と玲人に向ける感情との違いに恋愛感情だと判断したのだと思うが同じ気持ちを持って居ないからこそ見える違いは明らかに違う種類のものであった。それでも彼女はあまりにも無防備で一途でそして無知だった。付き合う事になったのは棚ボタの様なものだったとしても彼女のこれから先の事を思ってしまい、玲人と他の男の差を教えたくなった。


綺麗事では無く優しい彼女がこれから幸せになれる様にと思った。自分でも嗤ってしまうくらい馬鹿みたいな献身さで、求められても居ない愛情だとは思ったが自己満足でも構わないくらいせりかの事が好きだった。


自分はもう恋など出来ないと思っていたのに、せりかと出遭い、玲人に向ける様な親しげな眼差しで自分を見て貰いたいと思った時はもう彼女に恋していたのだと思う。玲人と同じ様なと思ったのがいけなかった訳では無いだろうが、自分を見る彼女の親しい人物に向ける柔らかい微笑みは友人の域を出なかった。それでも嬉しくてそれ以上、玲人以上の存在になりたいと欲が出た。そうして告白して断られてしまったが、彼女は親友という位置を自分に与えた。振った男に対して彼女らしい無防備さで優しく残酷な仕打ちだったが橘自身は満足だった。しかし、これから甘い彼女がこんな事を繰り返して自分の様に痛い目をみないか心配になった。男の自分でさえ刃物を持って向かって来た女性に恐怖したのに、か弱い女性の彼女が逆恨みをこの優しさゆえに受ける確立はとても高いと思ったら彼女が傷つくのが怖くなった。自分は男だから如何にか対処出来る。以前の様な子供でも無いし、その為に体も鍛えた。せりかと一緒にいる様になってからは、せりかの周りの優しい友人達に囲まれて過ごすうちに女性への嫌悪感も段々と薄れて行った。その優しい時間は自分の傷を徐々に癒してくれているのが分った。


彼女は色々な大切な気持ちを橘にくれた。人を好きに成る事。相手の笑顔に嬉しく成る事。恋愛なんてもう無理だと思った橘をあっさりと壊してくれた何処までも優しい彼女は、多分今悩んでいるだろう。


彼女に言う時間が無いと言い訳しながら引き延ばしてしまったが、玲人に別れを伝えれば良い事は判っていた。玲人は彼女から話をおそらく聞いているだろう。その証拠に橘と玲人の会話の中に不自然な程せりかの話題が出てこない。玲人は、きっと橘とせりかが会う時間が無いからだと思っているだろうが、会う時間を無理に作らないだけだ。しかし玲人は毎日家で会っているのだから、本来なら会えない橘にせりかの事を話し捲るのが普通の事だ。なのにそれをしないという事は明らかにその話題を避けているからだ。


文化祭が終わったら等と思っていたが、サッカー部の退部について玲人が話して来た時に、彼女との別れを告げよう。人づてに別れを言うなんてどうかと思うが、玲人に伝えて貰うのは多分彼女にも自分にも一番ダメージが少ない気がした。勿論落ち着いたら、彼女と直接話はするだろう。




本庄からメールが来た。大分久しぶりだが、文章が意味深だった。『次期生徒会長様。サッカー部の練習が終わったら生徒会室まで来て下さい。遅くなっても待っています』とあった。


生徒会の仕事を本庄に押し付けてしまっている自覚は大アリだが、織り込み済みな事なのでそれは事前に言ってある。ましてそれを本庄が不満を持つとは到底思えない。他の事だとせりかの事だが、それも玲人ならともかく本庄が引導を渡すような真似は絶対にしないだろう。理由が分らな過ぎて、なんだか不気味だった。そう思うと今迄本庄からこんな訳の分らないメールが来た事も初めてな事に気付くとなんだか嫌な予感がしたが、遅くなっても待つという以上行かない訳に行かないだろう。




相変わらず、時間の取れない橘の為に皆が寄って来てくれる稽古に、申し訳ないと思うが、皆時間が限られている所為かとても真剣だ。橘も皆の期待に応えられる源氏の君を演じたい。そう思うとお互い熱が入った練習になってしまう。結局忙しさに紛れて、練習も新しいフォーメーションに皆が必死に喰らい付くのを橘も最後かもしれないという思いで今迄に無く真剣に副部長からのパスに合わせられるように頑張ったが、走った所に落ちて来る伊藤からのパスに慣れてしまっていたので、頑張りが直ぐに結果に結び付く程甘く無い事を実感した。ここの連携が今のところ一番うまく行って居ない為か、皆の視線が集まってる様に感じる。やはり決勝戦までにものに成るのか皆心配してるのだろうと思った。


練習を終えて生徒会室に向かうと、話し声が聞こえる。まだ本庄以外にもこんなに遅く残っているのかと扉を開けると何故かさっき別れたばかりの玲人と、それから伊藤がいた。伊藤は生徒会にいてもおかしくは無いが、何故玲人がいるんだろう。問いかける様に本庄の顔を見ると、嫌味な位穏やかな笑みを浮かべて「急に来て貰って悪かったね」と謝罪の言葉から話を始めた。


「何故、玲人がここに?さっき帰り際、俺は用事があるから生徒会室に行くって言ったのに何も言わなかったのに」


「高坂も俺が来て貰ったんだよ。橘には内緒にしてっていったから言わなかっただけだから」


「何のサプライズな訳?本庄らしくない要点を欠いたメールに内緒で玲人と伊藤先輩を呼んで誰かのバースデーとかでも無いだろう?」


「そういうのだったら、こんなむさ苦しいメンバーな訳ないよ。大体予想付いてるんでしょう?」


「何で本庄が言って来るのかは意味不明だけど、サッカー部の退部の事で玲人と揉めたのを仲直りでもさせようとしてるの?それこそ本庄らしくも無い。もう揉めてないよ。玲人も怒ってない」


「高坂には関係無いだろうって言われそうなのを承知で話しを聞いたら、『忍の友達だから』って揉めてる理由話してくれたのに本人の方が意外と冷たいね」


「忍は自分の考えが甘かったって言って伊藤先輩だってそう思ってるって言うから、直接伊藤先輩に聞いた方が忍も引退時期とか参考になるかと思って先輩に残って貰ったんだよ」


「っ!すみません。受験前の大事な時なのに、こんな事で遅くまで残って頂くなんて……」


「いや、構わないよ。生徒会の仕事をする様になったから、待ったって程じゃ無いし、誤解されてるみたいだけど、俺は実はギリギリまでは負ける迄、続けるつもりでいたんだ」


「決勝前に降りたのは純粋にみんなの為ですか?伊藤先輩だけでも続けて下さっていたらって、今日の練習で何度も思ったんです。大丈夫なら戻って頂けませんか?!」


「橘からそんなに慕われていたなんて思わなかったよ。お前を引き留める会で、俺を引き戻そうとするなんてよっぽど曽我と息が合わないのか?」


「……今迄走った先にボールが来るのが当たり前と迄は思ってませんでしたが、出して欲しい所に来ないし副部長が行って欲しい所に俺も走れて無いんですよ」


「俺の実力今更判ったって訳~!なんだか寂しいなぁ!」


「伊藤先輩の実力が抜けていたのは、学校中誰もが知っていますよ!唯、本当にやってみると先輩のポジションは替わりが利かない位、ボールのコントロールと相手の動きの予想が絶妙だったって判ったんです」


「曽我に失礼じゃ無いの?合わせられないのはキミの方でしょう?」


「それはとっても失礼だとは思うんですけど、伊藤先輩と比べてしまうんです。勿論俺の実力不足が一番大きいのは自覚してます!」


「橘は相変わらず自己評価低いな。言った事を真に受けないで。今日練習見てたけど、お前の方が良く合わせてるよ。曽我は慣れてないからお前の居る所にパス出しするけど、あれじゃ敵にカットしてくれって言ってる様なものだ。曽我とポジション入れ換わってやってみろ。俺から言ってやるから曽我にも恥はかかせない様に話す。本人も橘の方がボール出しに向いてるって今日の練習で気付いてるし、やり辛いポジションに断れなくて悩んでると思うんだ。曽我って責任感強い奴だろう?お互いの為にさっさと交替した方が良い。時間が余計に無くなる。それから俺が戻るのは無理だから!折角言ってくれるのは有り難いけど、緑川と成田と歩調を合わせない訳に行かない。個人競技ならまだしもチームプレイでそういう事は出来ない。逆に二人はもう少し早く引退したかったかもしれないのに俺に合わせてくれた可能性だってある。俺はもっと続けたかったけど、二人に合わせた。橘だって早く身を引こうとしてるみたいだけど、そうしたらほかの普通入試の奴も辞めてしまうかもな。黒田とかは多分普通入試組だろう?」


「でも途中で司令塔が抜けたらチームの打撃は大きいと思うんです。今回の伊藤先輩の様に」


「俺は、途中で抜けたら裏切り者って言われるかと思ったけど、全然そんな事無かった。成田なんて決勝、俺達無しで勝てないなら全国で恥をかくだけだって言い放って、決勝前の引退を提案してきた。俺も緑川も成田の意見が理屈が通っていたから、身を引く事にしたんだ。橘だって引退時期なんて自分で勝手に決められるなんて考えない方がいい。続けたくてもそうじゃ無くても結局一緒なんだよ」


引退時期は自分で決めるものでは無いという事は、経験者に聞くとストンと胸に落ちた。自分一人で辞められないし、辞めようとしたら他者を巻き込む覚悟でって事かと改めて考えさせられる。


「俺は橘が居たから、自分が抜けた後の心配はして来なかった。お前も涼に後を任せれば良いだろう?今度の大会が終われば流石にレギュラー入り出来るだろう。お前の教育良いから、二年に睨まれる事も無くなったし、一年の奴らともうまくやってるみたいだしな。お前にべったりなのは相変わらずだけど、実力もあるし、それとなく後継者に育てろ。曽我が抜けたら、曽我のポジションに入れれば良い。其処が一番育てやすいからな。貰う方の立場をやれば自ずと欲しい所にボールを出せる様になるだろう?」


「俺の一存でそんなに何もかも出来ませんよ」


「玲人が一応部長やるんだろう?顧問と部長と相談の結果で、顧問の教諭に根回ししておけば軽いだろう?お前のポジションだって俺が部長に頼んでおいたから其処だったんだよ」


「初耳ですけど、そんな気は少ししてました。先輩のお話参考になりました。有難うございます。一回無碍に断ってるんで風当たりは強いでしょうけど、副部長が許して下さる様なら頑張ってみます」


「うん。曽我の事はしこりが残らない様に、最後の御奉公のつもりで何とか俺がしてやるから、他の奴には詫びを入れとけ。先生にもな」


「はい。分りました」


「玲人も一緒に回ってやれ。元々お前らが不甲斐無いから、悪いんだからな!!」


やはり伊藤から見てもそう見えているのかと思うと、自分でも感じた事だが、結構落ち込んでしまう


「玲人は結構凹み易いんですから、あまり責めないで下さい。一応うちのエースストライカーなんですから」


「玲人もあんまり橘に頼りすぎるなよ。お前が部長だって事を忘れるな。生徒会長でなれなかった橘の代わりなんて思われるなよ。副部長の奴にも言っとけ!」


「……という事で一件落着でいいですかね?」と本庄が言うと、橘は少し腹が立って来た。


「お前って思っていたよりお節介だな!なんか今回も裏があるんじゃないのか?」


感謝の気持ちは湧いて来なくも無いが、なんだか釈然としない。


「うーん。何か放って置くと大事に成りそうだったし、椎名さんが心配してたからね」


此処に来てせりかが心配してたからという理由を、平然とのたまう本庄に三人が三様の驚きと呆れを見せた。


何と無く理由は分らなくとも勘の良い伊藤は、話を切り上げるべく、帰りにラーメンを食べて帰ろうと誘った。本庄に「お坊ちゃんの口に合うか心配だけど」と、嫌味だか本気だか分らない軽口を叩く。本庄は嫌な顔一つ見せずに「全然大丈夫ですよ。これでも中学から公立ですから」とにこやかに返した。本当は幼稚園から中学の途中まで超お坊ちゃんお嬢様校に通っていたのだが、言わないで良い事は省いた。そうしていつもサッカー部がよく行くラーメン屋に行き、会計で小さな騒動はあったが「本庄も生徒会の後輩だろう?」と伊藤に言われ、素直に御馳走になった。


伊藤と別れた後、こっそりと本庄が橘に「味噌ラーメンって美味しいんだな」と言ったので、やはりさっき言われた事は外れて無かったのかと可笑しくなった。普段は少し上品かな位にしか思わなかったが、やっぱり本庄は真正のおぼっちゃまなのだ。今日は橘の為等と一言も恩着せがましい事は言わなかったが、本庄がセッティングしてくれて一番利を得たのは間違いなく橘だった。せりかの為等と、おそらく今の状況を察していない筈の無い本庄が、半分は本音であろう事を口にしたので礼は言わないでおく事にした。


長くお待たせしてしまったのに拍手メッセージ下さった方有難うございます。  !(^^)!執筆のエネルギーに成ります♪

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