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不倫の神様  作者: 天狗
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53/69

LOG.53|生きるだけさ|I won't cry








金も何もかも、

無くなった俺は……



地元にも帰る気は無かったので、





いや…正確には、


まだ帰れないので…



地元とは

反対方向の街へ、

一時的に避難した。





俺の片足は、

神経がやられたらしく、

これからはずっと引きずるらしい。





ーーー








知らない街で生きるのは得意だ。




でも今回は別。




アパートも狭く、

何を生きがいにしていいか

全然分からなかった。







仕事は同じ塗装関係の会社。



今回はもちろん、

経営ではなくて雇われ側だ。





しかし、

体が万全では無いので、

簡単な現場の補助しか出来ない。



あんまり期待はされなかった。





次第に

心は削られていった。












社員

「あー、えっと」

「シンさん。」







新卒の若い社員が

ダルそうに近寄ってくる。







シン

「はい」







社員

「もっと綺麗にやって欲しいです」

「少し曲がってます」

「…これ何回目ですか?」








シン

「すみません」







年下の社員にも

偉そうに怒られる始末。








社員

「頼んますよ、ホント」







派遣

「またアイツですか?」







社員

「うん、いつものことだ」

「マジであんな大人になりたくねー」












全部聞こえてる……






でも、

もう…頭にもこない。






イラつく、

負けたくねぇ、

俺が1番だ、

アイツを口説きてぇ、






全部、思わなくなった。



俺は、もう何も望まない。








でも、それは別に悪いことじゃない。



だって、誰も傷つけてないし。









ーーー







俺は毎日ヘトヘトで帰宅していた。







雑に塗られて、

ペンキがダレてるドアを開ける。



ギィとドアが鳴く。




これが、今の俺の家。


団地なのか、

アパートなのか、

廃墟なのか、


全然見分けがつかない…。



ただの、寝るだけの空間。



贅沢病だった俺にとっては、

耐えきれないほどの屈辱だ。




ふざけんじゃねー。



俺のキレイなマンション返しやがれ。



…って最初は思ってたけど、

今はそうでもない。





慣れた。



人間の慣れ、とは

恐ろしいもので…かなり慣れる。


慣れた、は違うかな。


バグった贅沢病が、

元に戻っただけかもしれないな。





荷物を置き、

片足を引きずりながら

弁当箱をシンクにぶち込む。



ため息、ひとつ。




次は風呂を洗う。



しかし、うまくいかず転倒。





贅沢をしないこと、には

すぐに慣れたが


コレばっかりは全然慣れなかった。




体重のかけ方、というか


コツが一切分からない…。



とはいえ、

トライ&エラーの繰り返し。



経営と同じだな!


そのうち、できるようになるだろ!






…ちくしょう。



なんで俺ばっかり、

こんな目に……。



本気で、そう、思った。





めちゃくちゃムカつく。




足首に、

全く力が入らないだけで、

人間、こんなにも弱体化するとは。





ただ…


一つだけ、



どんな思いをしても、

これだけは。と、


心に誓っていることがある。









人生を、巻き戻したい






それだけは、考えないこと。








思ったら、そん時は


俺の、終わりだ。



願うなら、再構築だ。


戻っちゃダメだ。




そう、毎日、言い聞かせていた。







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