LOG.3|犬が欲しいの|The Queen Mika
バーで、
ミカと呑み終えて、
その夜。
代行が運転する車の中で、
俺はずっとスマホを握りしめていた。
『さっきはありがとうございました』
と送った。
既読は、つかない…。
たぶん今日、返信は来ない。
そう思いながら風呂に入り、
ベッドに倒れ込み
気絶するように眠った。
ーーー
翌朝、スマホが震えた。
ミカからのLINEだった。
ミカ
『昨日はありがとうございました!』
『飲みすぎて顔むくむくです笑』
『シンさん…記憶ありますか?』
ゼロ秒既読で返信した。
シン
『あります、あります!』
『俺…緊張しすぎて…』
『すみません…』
嘘!
調子に乗って、
呑みすぎたから記憶無い!
すぐに返事が来た。
ミカ
『いいのいいの〜』
『アタシも酔ってたし』
『それより、お店ってどんな感じ?』
『撮影の前に遊び行きたい!』
来た。
あの軽さがLINEでも炸裂している。
シン
『え、見に来るんですか?』
『全然いいですよ!』
いやホントは、全然、よくない。
今にも心臓が爆発しそうだ。
マスターへの、罪悪感も相まって。
ミカ
『わーい!行きたい行きたい!』
『もちろんお金払うよ?』
『お客さんとして行ってもいい〜?』
シン
『いや無料で大丈夫です!』
『モデルしてくれるんだから…!』
ミカ
『ふ~ん…』
『じゃあ…』
『お客さんとして行くのはナシね?』
『ふふ、じゃあ普通に遊びに行く♡』
……ニヤけてしまった。
ーーー
ミカはLINEのあと、
本当に店に来た。
ミカ
「あぅ~」
「気持ちいい~…」
シン
「めっちゃ固いね。」
「スマホ触りすぎですよ」
最初は整体しながら、
軽い雑談だったのに、
ふいに恋バナへと流れた。
ミカ
「ねぇ、シンさんって…」
「なんで彼女いないの?」
「こんなに優しいのに〜」
シン
「なんで彼女いないの知って、」
「あ…マスターだな…?」
「まぁ……」
「なんでですかね…」
「モテないからですかね」
ミカ
「ふ~ん」
ミカはうつ伏せのまま、
足をパタパタさせながら言った。
パタパタ
ミカ
「アタシさ〜」
「彼氏いらないんだよね〜」
シン
「え、なんで?」
パタパタ
ミカ
「だって彼氏ってさぁ」
「自由が無くなるじゃん。」
「束縛されたり、色々面倒でしょ?」
「形式ばった、あの関係値がイヤなの。」
「だから彼氏になろうとする人は嫌い。」
シン
「まぁ…確かに……」
パタパタ
パタパタ
パタパタ
ミカ
「アタシはね、犬がほしいの!」
シン
「……犬?」
「犬って犬?」
ミカの足が、
うるさくなっていく。
パタパタパタパタパタパタ
ミカ
「犬!わんちゃん!」
「ペットじゃなくて人間のわんちゃん!」
「言うことなんでも聞いてくれる…」
「アタシだけのわんちゃん♡」
「束縛しないし。」
「裏切らないし。」
「甘えてくれるし……。」
パタン
足が急に止まった。
ミカ
「そんな、わんちゃんと暮らしたいの。」
シン
「そ、そうなんだ……?」
ミカ、お前まだ酔っ払ってんのか?
何言ってるか、
全然ワケ分かんねーぞ…。
ミカ
「ミカのわんちゃん……」
「どっかにいないかなぁ〜♡」
わざとらしく言う。
その言い方はどこか寂しげで、
でも期待してるようにも聞こえた。
ーーー
施術が終わると、
ミカは立ち上がって、
気持ちよさそうに伸びをした。
ミカ
「めっちゃ肩スッキリした〜!」
「ありがとうシンさん〜!」
シン
「い、いえ……!」
ミカ…
背が小さいのに、
手と脚は長いんだな。
さすがモデル。
ミカ
「またLINEするね?」
「無視しないでよ?」
「すぐ返信してね?」
シン
「うん、すぐに返すよ」
ミカ
「……違うでしょ?」
急に不安そうな顔を見せるミカ。
シン
「え?」
ミカ
「“わん” は?♡」
目が無くなるくらい、
満面の笑みで聞いてくる。
ミカの八重歯が可愛い。
でもな…
そんな甘くねーぞ俺は。
ガキが…舐めんじゃねーぞ…!
大の男が5個年下の小娘に
”わん”なんて言うもんか!
女にペコペコするぐれーなら
死んだ方がマシだ…!
俺様は絶対に、”わん” なんて、
シン
「わん」
成人男性、人生初の ”わん”
ミカ
「わぁ、可愛い♡ 」
「よしよし♡」
満足そうに、
俺を撫でるミカ。
出口へ振り返ってドアの方へ向かう。
クソ…
2人きりだと、
ミカのペースに、のまれちまう。
俺が、
スタッフでも雇ってりゃ、
何か変わったかもな。
そんな事を考えていたら、
ドアの前で、
ふいにミカが、
またこちらへ振り返った。
ミカ
「……あっ!」
シン
「えっ」
なにかを思い出したように、
目を丸くして、
てててっと小走りで戻ってきた。
そのまま俺の胸にふわっと抱きつく。
シン
「…っ!」
ミカ
「胸板もふもふ〜♡」
「…これ、好き〜」
ベンチプレスばっかやってるから
胸板だけは自慢の胸板だ。
と、いうか…!
やっぱ、ミカって…!
いい匂い…!
”ミカの香り”
で柔軟剤 販売してほしい…!
メーカー希望小売価格、2億でも買う!
ミカ
「落ち着く……」
数秒だけ抱きついて、
満足したように離れる。
ミカ
「じゃ、またLINEするね。」
「わんちゃん、すぐ返してね?」
シン
「うん。」
「あ、わん…。」
ミカ
「よし♡」
「またね〜」
ミカが
ドアを開けて出ていく瞬間、
寂しさを感じた。
その日から、
俺の理性と性癖は確実に壊れ始めた。
モテない成人男性に
ちょっと侵入するなんて、
ミカ様にとっては、
簡単な戦いなのかもしれない。




