婚約者に毒を盛られて追放された第一王子ですが、王妃になった元婚約者の王国を滅ぼしました
「やめてください!その子はあなたの子なんですよ!」
王妃の絶叫が王城の大広間に響いた。
剣を構えた若き王子と、その前に立つ男。
両者の間には鋭い殺気が満ちている。
「……親子で争う気なのですか!」
王妃は必死に叫ぶ。
その瞬間、男は冷たい目で王妃を見た。
「ふざけるな」
低い声が広間に落ちる。
「何が親子だ」
そしてゆっくりと王子を指差した。
「そいつは俺の子でもなければ、国王の子でもない」
広間が凍りついた。
「その男は、お前とお前の護衛騎士の子だろう」
王妃の顔から血の気が消えた。
王子も膝をつく。
「母上……?」
王妃は震えた。
「なぜ……そのことを……」
男は静かに答えた。
「その反応が答えだな」
そして広間を見渡す。
「つまり、こいつは王族ではない」
「この国の王家は終わりだ」
その瞬間、城の外から軍の鬨の声が響いた。
その日、この国は滅んだ。
十数年前。
俺はこの国の第一王子だった。
だが誰からも望まれていなかった。
容姿は平凡。
武も学も弟に劣ると言われた。
弟は第二王子。
美しい容姿で、父王にも母にも愛されていた。
そして俺の婚約者。
公爵令嬢もまた、弟を見ている時だけ目が優しかった。
それでも俺は十年間、婚約者として彼女と過ごした。
だが結婚式の直前。
彼女は俺に毒を盛った。
「……なぜだ」
俺が問うと、彼女は言った。
「あなたは王になる器ではありません」
そして微笑んだ。
「私は王妃になるために生きてきたのです」
俺は死にかけた。
だが奇跡的に助かった。
その時、俺は誓った。
必ずこの国を滅ぼすと。
死ぬはずだった俺を毒から救った者がいたのだ。
その人は、俺のあまりの境遇の酷さに同情をしてくれたのか、解毒をし、さらには国から安全に出してくれた。
その人は、黒いローブをまとった魔法国家プラチナ帝国を統べる大英雄。
大魔導士イオニーア。
しばらく、俺は小さな村の隅で静かに暮らしていた。
そこへ大魔導士イオニーアが訪ねてきた。
「あなたの元婚約者ですが」
彼女は静かに言った。
「あなたの弟である第二王子と婚約をしたみたいですよ」
まあ、そうだろうな。
そのために俺を殺そうとしたんだし。
その後、王国では事件が起きた。
母親である王妃と護衛騎士の姦通。
弟の第二王子は不義の子だった。
王妃と第二王子は毒杯を賜った。
王家の正当な血筋はいなくなった。
父である国王は慌てて俺の捜索を始めたという。
すべて大魔導士イオニーアから聞いた話だ。
「ふん、誰があんな国に戻るもんか」
先日、俺の居所をつかんだ国王の使者を追い返した。
すると今度は元婚約者の公爵令嬢がやってきたのだ。
「毒殺するようなやつとは怖くて一緒にいられないな」
そう言って追い返した。
後日、大魔導士イオニーアがやってきて、
「あなたの元婚約者が、面白い計画を立てていますよ」
俺は眉をひそめた。
「眠り薬であなたを眠らせ」
「媚薬を使ってあなたの子を身ごもり、そのまま年の離れた国王の元へ嫁ぎ、王妃になる計画です」
俺は吐き気がした。
「どうやら、公爵や国王も公認のようです」
「そんな国は滅ぼした方がいいな」
俺はその時、初めて笑った。
その後、俺の元婚約者は王妃になった。
王の新しい妻として。
王子も無事に生まれたらしい。
そして十数年が経った。
「やめてください!」
王妃は叫ぶ。
「その子はあなたの子なんですよ!」
俺は吐き捨てた。
「お前と子供なんて作っていない」
そして王子を見た。
「顔を見ろ」
「似ているか?」
王子は震えていた。
そこへ国王が現れた。
「その子はお前の子だ」
「王妃はお前と同衾してから嫁いだのだ。どうしてもお前との子が欲しいというてな」
俺は笑った。
「嘘をつくな」
そして静かに言った。
「そいつの父親は王妃の護衛騎士だ」
俺の指摘に周囲の音が消えた。
「な、なぜ、それを・・・・」
王妃が崩れ落ちた。
「あの日、お前が俺の元へやってきて、最後に、と料理を侍女に並べさせた時のことだ。料理に眠り薬を入れ、そして薬で俺の子だねをもらうと見せかけ、お前は本当に愛する護衛騎士と同衾し、孕んで、国王に嫁いだ」
「すべて教えてくれた人がいるんだ」
大魔導士イオニーアの姿が目に浮かぶ。
「おまえは、国王と公爵をもだました最悪の悪女だ!!」
王子も膝をつく。
国王は言葉を失った。
俺は剣を下ろした。
「王族はお前たちだけだ」
「身柄を拘束しろ」
兵が動いた。
その日、王国は滅んだ。
数日後。
護衛騎士は逃亡中に捕まり処刑された。
王国はプラチナ帝国の領土になった。
王と王妃は牢の中で罵り合っていた。
「すべてお前のせいだ!」
「あなたこそ!」
二人は狂ったように叫び続けている。
そこへ看守がやってきた。
「静かにしろ」
看守は吐き捨てる。
「元国王と元王妃が見苦しい」
その言葉に二人は凍りついた。
そして看守は言った。
「処刑は明日だ」
王妃は崩れ落ちた。
「いや……いやよ……」
王は顔面蒼白だった。
だが看守は興味もなさそうに言う。
「安心しろ」
「お前たちの息子も一緒だ」
王妃の絶叫が牢に響いた。
牢の前に一人の女が立っていた。
黒いローブの魔導士。
大魔導士イオニーア。
イオニーアは微笑む。
「残念でしたね」
王妃は震えた。
「あなたの計画」
「最初から全部知っていました」
王妃の顔が絶望に染まる。
あの日毒を盛られた王子はもういない。
いるのは――
国を滅ぼした男だけだ。
この話は、拙著、「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です」シリーズの外伝にあたります。興味が湧けばぜひ、本編もお読みだくさい。




