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[9]これでも先輩ですから…③



「先ほどから聞いているのだが、だんだん話しが本筋を逸れているいるようにい聞こえるのは我の気のせいだはなかろう、そろそろ仕事の話しをした方が良いのではないのか慶磁?」


 いつの間にか、デランの前頸部装甲から降りてきた聡美が真面目な顔で言ってきた。どうやら、整備が一区切りついたらしい。


 止まらない尾海の万葉褒めを、止めるタイミングを取れずにいた俺は内心ホッとしながら


「……そうだな。話しを戻そう。」


 俺も真面目な顔で向き合う。


「フム。戻すも何も最初から逸れていた気がするが、まあ良い。現在、こちらで解っていることを伝えよう。」


 痛いところを突かれたような気がしたが、俺は気にせず頷いた。突然始まった、真面目な雰囲気にトリップしていた尾海も正気に戻り、慌てたように胸に組んでいた手を崩し、姿勢を正した。


「さて、いったい何から話せばいいのか……」


「出来れば現在の薬師の状況から初めてもらいたい。ついで、この仙遊ガ原に居る。他の勢力についても聞きたい、そして事の起こりもな」


 俺はバリケードを越えてここに来る間に気付いたことも有り、ここの状況から聞きたかった。


「なら言うぞ。……現在、ここに立て籠もっているのはほぼ全員の薬師生徒と我、それに佐保富先輩だけだ」


 苦虫を噛み潰したような顔をで呟く聡美と俯く尾海。


 ここに有った違和感に今さらのように気づいた、そうだ俺はまだ見ていない、当然いるべき存在。


 生徒を導く者、教官、外の世界から来た教育のプロ、四国に存在する生徒という生き物とは違った種族である教育者。


 聡美の言葉の指す意味は一つだ。


「生徒ほっぽって逃げやがったってわけかっ」


 吐き捨てるように言い捨てる俺。


「教官方は……その、外部と連絡を早く取る必要が有るからって」


 尾海がそれでも教官を弁護しようとする、つい1ヶ月前まで彼女の通っていた中学校では教師と言う存在は無条件で信頼出来る存在であったに違いない、そんな彼女にはまだ信じられないのだろう。


 教職者の裏切りを。


 外部と連絡を取るのになぜ教官全員が行く必要がある、まずすべきことは生徒の安全を確保することだろうに。



「尾海……いきなりこんな事になっちゃ混乱するのも解るが四国の根幹をなすのは俺たち学園生徒だ。教員って連中に必要以上に依存するな……やつらに頼ってると一人で立てなくなっちまうぞ」


 不安を覚える後輩に言ってやれるのはこんなことだけだ。


 教員の事なかれ主義と責任感の稀薄さ、もう諦観してしまっている俺や聡美と違い彼女のように四国の地を始めた踏んだ者たちには頼れる存在、癒し手が存在が必要だ。


 それに成ってやるのも先輩の重要な役割ってもんだろう。


 聡美教官もそう言ってくれました、尾海が涙ぐみながら言ってくる。聡美は俺以上に後輩に対する気配りってもんが解っている奴だからな。


 良い奴だ。


 こいつがこのセミナーに教官として参加してくれたお陰で彼ら一年生はどれだけ救われたことだろう。


 いや、救われたのは彼らだけじゃない、薬師という学園その物が救われたと言っても良いだろう。聡美がここにいなかったらと思うとゾッとする。


 おそらく、内の生徒も門のところで暴れていた連中のように暴徒と化したことだろう。


 聡美が尾海の言葉にちょっと照れたようにしながら先を続けてきた。



「我々は夜明けと共にここを脱出するつもりだ、この施設に張られた結界内にいられるのもそれくらいが限界だと思われる、森が結界を浸食してきているんでな。森を開くのには硬士甲冑を使う、ここにはデランが250機保有されてるんでたすかったぞ」


 なるほど、確かに厄介なのは森だ。今も育ち続けている緑の悪魔。こいつのお陰で上は月明かりすら見えなくなっているし、下は木の根で歩きにくい、あんなところに不用意に踏み込めば普通の奴は間違いなく迷うだろうし、森が作りだす闇の中に現れるクリーチャーはいつも以上に恐怖を煽る、そしてその恐怖は全員に伝染する。



 集団行動において恐怖ってやつほど厄介なものはないからな。


 しかし、硬士甲冑、あの3メートルを超える大きさと、全身を覆う人工筋肉が増幅してくれる強い膂力、搭乗者の身体能力を2倍にも3倍にもしてくれる人類史上もっとも進んだ鎧、これなら深く根ざした森の木々もわけなく切り払えるだろう。


「動けん連中は戦闘班以外の連中に背負わせるさ、なに、たかだか20キロなんとかなるさ、なぁ!そうだろう、お前たち!」


 聡美が無精髭の生えた顎を撫でながら男臭い笑みを浮かべながら声をあげた。



 その声を聞いた者、その顔を見ていた者たちが緊張と徹夜に疲れた顔に笑みを浮かべている。


 信頼されている、こいつが此処に居てやっぱ良かった。


「でっだ。我が校の命令系統は今、当たり前ではあるが中核を成しておるのは一年どもだ。医療班を纏めておられるのは佐保富先輩いや、教官殿だ。整備班は我が纏めておる。このどちらにも属していない生徒たちは生徒の代表数人に纏めさせておる。この尾海もその一人だ、なかなか有能だぞ」


 聡美が自慢するように尾海の頭をポンっと叩いた。



 聡美の馬鹿力で頭を撫でられた尾海は前に仰け反りながらも照れたように



「そんなっ万葉さまに比べたら私なんて!まだまだですよっ」


 なんでここで彼女が出てくるんだろう?


「慶磁、竜胆はな、さっき言った一年の代表たちのリーダーをやっておるのだ。本人は嫌がっているんだが彼女以上の適任者がいなかったんでな、まあ一時的な事と言って承諾させたのだが我も一年たちも他の者をリーダーに立てる気は全くないな」


 尾海はウンウンと頭を振っているし、周りに集まって話を聞いていた連中もそれを不満に思っていないように見える、どうやら彼女はカリスマな人でもあるらしい、ますます大した娘だと思う。



「仙遊ガ原に居る組織だが、把握できている他の組織の中でも注意しなければならんのは、エルジルフ学園だけだ。あそこも施設を一つ占拠して立て籠もっているんで中の連中が何を考えておるのかまったく解からん。他の学園はすでにパニックを起こして瓦解した。表で暴れている蜂須賀学園のようにな。これらはもう問題にはならんだろう。他は組織とも呼べん少数の者たちだけだ。原住民やらサバイバル同好会などの数種のサークルが山に籠もっていたのを確認しているが、何処の学園に所属しているのかは解らん。これがこの事件を見越して放たれた精鋭部隊でないことを願いたいな」


「……事件の裏に居るのは他の学園かもしれないってのか、それがこっちで出した結論って考えてもいいのか?」


「ああ、感覚的な結論なのだが、たしかにこちらがはから空間に穴を穿つ感じがした。佐保富教官殿も他にも感応力の強い者は全員そう感じたと言う、間違いなかろう」


 佐保富先輩、彼女は俺より6期上の先輩だったが去年から生徒から教員になった人だ、四国出身にしては驚くほどまともな人で彼女が教員になったと聞いたときは、なるほど適任かもなっと思ったほどである。



 彼女もそうだと言うのならそうなのだろう。


 聡美が言うだけならそう簡単に信じなかっただろうが、この辺は彼女とこいつの信用度の違いというやつだ。


「と言うことは、今回の件はコロニーの連中とは関係無いってことかっ」


「……なるほど外の連中が考えることとしては妥当なところだろうな。我から空間に穴を開けるような奴がいるとは信じられんだろうからな、ここに居なかったらとても信じられまい」


 まだ自然に開いた穴じゃないと決まったわけじゃないが、確かに警戒した方がよさそうだな。もし、四国の誰かが今回のことを画策したんだとすれば、仙遊ガ原の外でも何かが起こるかもな、いや、もう起こってるかもしれない。これはもう、救援隊のことは当てにしない方がよさそうだな。このこと以外にも現政権には敵が多い、他校だけでなく学園の中にも敵はいる交通学土委員会なんぞは特にやばい。あそこの委員長閣下が次の選挙で政権交代を狙ってるのは有名だからな。マリーの気苦労も減ることはない。


 聡美にもその事はもう考えの内にあったのだろう、俺の方を見て黙ってしまった。


 このことは口外できないな、ぎりぎり保っている一年たちの精神をこれ以上疲弊させるのは旨くない。


「まあ、外敵勢力はこんなもんだな」


 聡美が不自然にならないくらいの元気よさで俺との間に出来ていたヤバゲな空気をうち払った。誰もそれに違和感を感じていないことに俺はホッとした、もちろん顔には出さなかったが。


「オウッそうだ!言うのを忘れていたが竜胆はな、今ここにはおらん。200人ほど連れて外にでておる」


「なに!?一年だけでか?」


「ウム、そうなのだが、心配はいらんぞ。竜胆は今すぐB級エージェントとして十分通用する実力がある。ここでの成績も目を見張る物だったぞ。それに連れて行った一年は今年の一年の主力だ」


 聡美はいきり立った俺を納めるように手を振った。俺が静まるまで話しを先に進めない気だろう。不承不承黙る俺。


「そんな顔をせずとも大丈夫だ。……必要な物資がまだ幾つかあるのでな、誰かに取りに行かせねばならなかったのだが、まあ竜胆なら安心して任せられるからな」


「略奪しに行かせたって事じゃないか?一年にやらせる仕事じゃないぞ」


「慶磁は泥棒の腕前も一流だと言ってやったらな張り切って出て行ったぞ」


 いやな笑みで笑ってやがる。人聞きの悪い事ばっか言いやがって、俺が得意なのは泥棒じゃなくて潜入工作だってんだ。……ついでに何か頂いて来ることもあるけどよ。



「でっことの起こりなのだが。これははっきりいってまだ何も解ってない、解明よりも脱出が優先だったからな、だが場所は解っている。ここから北に8キロほどいったところだなちょうどここから小山を二つほど越えた辺りだろう。今は解らんだろうが、日が暮れるまではハッキリ魔素の噴出が確認できたから間違いない。ただあの辺りは元から森が深くてな、何年も前から演習には使ってないエリアらしく、あの辺りの地形はもとより、何かの施設が有るのかどうかもわからんのだ」



 聡美は無念そうに言ってくるが、普通研修って言ったら施設内の設備を使って行うもんだ、やっても山道のマラソンとかそんなもんだろう。山伏みたいな訓練を地でやるこいつがおかしい。聡美にとっては1ヶ月も山地に籠もっての訓練だったのに地形すら把握しきれていなかったのおかしいことなのだろう。


 だが、俺にとってその情報は貴重だ。穴に関する正確な情報は全く持っていなかったのでありがたい。場所が解っただけでもめっけもんと言うところか。


「まあ、分かっているのはそんなところだな。俺もそろそろ作業に戻る、他に何か聞きたいことがあれば誰か捕まえて聞いてくれ」


「分かった十分だ。ありがとよ」



 整備作業を待つデランに向かって歩いていく背中に礼を投げる。




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