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[8]これでも先輩ですから…②



 おっと、また一人。


 やだねー、なんでこんな殺気だつかな。20キロ程歩きゃー外に出られるってのによ。


 目的地にたどり着いた俺が見たのは硬機修練場とその入り口に築かれたバリケード、そしてそれに取り付こうとしている蜂須賀学園の一年坊主たち。20人程がバリケードを挟んで元気に殺り合ってやがる。


 遊びと現実の区別がついてないんじゃないのか、一月も訓練をしたわりには下手くそな射撃だ、明後日の方に弾が飛んでるぞ。土手っ腹に一発ぶち込んでやれば目も覚めるだろうに。


 どうやら蜂須賀の連中がパニックを起こして暴れてるのを内の連中があしらってるようだ。使用している弾は演習用のスタン弾、実弾使やーいいのに。


かなり訓練された動きを見る限り、結構しごかれたみたいだな、まっさすがは我が後輩ってとこかな。


 だけどな我が後輩くんたち、君たちも穴が多い守りだよ、俺をあっさり侵入させるようじゃまだまだだよ。


「おい。そこの一年」


 気配をわざと出して明かりの中に現れた俺に数人の後輩どもが、ギョッとした顔で武器をこちらに向けて……発砲しやがったよ、確認もせずにだぞ。


「う、嘘だろ、鉄砲の弾かわしたぜ」


「化けもんだ」


 何とか全弾かわした俺。呆然とした顔で失礼な台詞を吐いてくる馬鹿どもを一睨みで縛り上げる、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなった後輩たちに近づき、取り敢えず一番近くにいた奴を殴り倒した。


「あぶねーだろうが、せっかく心配して来てやった先輩さまを殺す気か!?コラァ」


 怒鳴り散らして暴れる俺の戦闘衣に薬師の校章を見付けた奴らが俺を止めようと諫めに来るが、体をはって止めようって奴はいなかった。「せ、先輩スンマセンした、だっだから落ち着いてー」もちろん、言葉くらいで俺は止まらない。


 倒れた奴をさらに蹴りまくっていた俺もさすがにやり過ぎかと思いとどまった時には、我が愛すべき後輩くんは血達磨だった。


「ここのリーダーは誰がやってるんだ?」「お、俺です、先輩」


 取り敢えずその血達磨のことは放って置いて、俺はバリケードの指揮者を呼びつける。ちょっと涙目になりながら、バリケードの上に居たヒョロ長の男が降りてきた。


「うちの生徒は全員ここにいるのか?」


「ハイ、教官の指示で全員ここに立て籠もってます。魔素の耐性の弱い子が動けなくなってしまったんで、落ち着くまで動けないんです。」


 ふ~ん、やっぱ動けない奴も出てきたか、まっこんなけ濃度が濃いとな。


 それにしても、こいつ結構おちついてるな。やっぱ今年の一年は結構出来……


「先輩!外は、外はどうなってんですか?」「先輩が来たって事は俺たちすぐ外に出れるんですか」「他の先輩方はどこにいらっしゃるんですか」「どうやって入ってきたんですか?って言うか、どうやってさっきの避けたんですか?」


 良くないかもしんない……


「五月蠅い!ちっと黙ってろ。先に質問すんのはこっちだ。聡美教官は今何処にいる?あと内の連中に死人は出てねぇだろうな?」


「ハヒィ、教官なら硬士甲冑の整備をしてるはずです、それから死人は出てません」


 群がって来た連中を振り払って叫んだ俺にまた脅えたように退きながら周りの連中が答えてきた。


 ふうん、思ったより状況は良いみたいだな、何人かは死んだ奴もいるかと思ったんだが…結構しっかりやってるじゃないか。


 ま~此処に籠もってたからだろうけどよ。脱出するときは被害がまったくでないなんてことは無いだろうな、あの森をこの大人数で突破するのは難しいだろうからな、いくら聡美でも5500人もの数をカバーはできないだろう。


 考えをまとめ終えた俺はさっきの質問に一息で答え、聡美を捜しに整備室にずんずん歩いていった。 


 整備室に着くまでの間、明らかに教官でも一年にも見えない俺をジロジロと無遠慮に見てくる奴が大勢いたが全部無視した。演劇部所属の俺だからな見られるのは慣れてんだが、なんか偉く期待のこもった視線を向けられるとさすがにちょとな。いくら俺でもこの状況を一人ですぐに改善するなんてこと出来ない。


「よう、聡美!」


 整備場に並べられた硬士甲冑デランの整備を進めていく連中が結構いたが馬鹿でかい聡美を見付けるのは簡単だった。デランの魔力結晶を覗きこんでいるでかい影に向かって俺は声をかけた。しかし、一月ぶりに会った俺にアイツはぞんざいに「来たか」っと唯一言。しかも、顔を上げもしやがらない。


 俺がすごく気にいらんという表情をしていると、周りの連中が畏まりながら聞いてきた。


「あの~教官、この人がさっきおっしゃってたA級エージェントの方ですか?」


おずおずと声をかけてきたのは聡美と共にデランを整備していた女性徒だった。小さい子だな、150センチってとこかな。聡美と並ぶと余計に小さくみえる。しかも目が子犬みたいにクルクルと光っている。


「うむ、彼が学園にも100人もおらんA級エージェントの一人なのだ」


「おい、そっちだけで喋んなよ。それに一体なんの話しだ?」


 そう言った俺にやっと顔を挙げた聡美は隣りにいた女生徒を紹介してきた。


「慶磁、こいつは尾海由加、今うちの連中を纏め役をしてくれてるやつらの一人だ。聞きたいことはこいつに聞いてくれ。夜明けまでにこいつらを全部、可動可能に仕上げておきたいんでな。今は、手を離せそうにないんで・なっ!!」


 語尾に力を込めながら聡美が電磁ボルトを素手で締め上げていく。


 ……道具を使えよ、道具を。


「始めまして祇桜先輩、高等部一年、尾海由加です。今の話しはさっき高台の方で先輩が使われた力を感じ取れた子たちが何人かいたんですけど、その子たちが騒ぎだしたので教官が説明したんですよ」呆れた視線を向ける俺に笑いを含んだ顔で尾海が言ってきた。


「へ~よく俺だって解ったな。他にもここに入ってきてる腕利きはいるだろうに?」


 そう言うと、ちょっと言いにくそうに尾海が


「教官がおっしゃるには、隠れて潜入しておきながら、あんなに大っぴらに力を使うのは先輩くらいだっとのことでした」


 その言葉にキッと聡美を睨み付ける。


「でっでもこんな魔素の濃いところであんな強力な力が使えるなんて凄いって」


 俺の表情に何を感じたのか尾海ちゃんは急いでそう付け足した。






 一生懸命になってフォローを入れている尾海ちゃん、そんなに怒ってないんでけどね。


 過剰に顔に出てるのか?それに高々一年に魔力の気配に気づかれたってことは自分で思ってるよりも来てるのか。


(そういや、出てくる時も妙な顔してたもんなアイツ等、そんな心配しなくても大丈夫だっての)



 俺が出発時に見せたマリーたち三人の顔を思い出していると。  


「先輩?どうしたんですか??」


 考えこんでいた俺に恐る恐るといった感じで尾海が話しかけてきた。彼女には凄く怖がられてるみたいだな……そんなに酷い表情してたのかぁ?ハァ~ッ戦闘前の俺って情緒不安定によく見られるもんな。こんなもん、目の悪い連中が遠く見るときに目を凝らした時の表情で喧嘩売ってるとかって言われるのと同じだと思うんだけどね。


「あのな尾海、ああ尾海って呼ぶぞ。……尾海そんなにビクビクすんな、なんか話しずらいくなるから」



 そう言うと尾海がすまなさそうしながら謝ってきた。


「すっすいません。……A級の方なんてなんか雲の上の存在みたいな存在なんですもん、なんか緊張しちゃって、それに……」


 ん~ん、なんか偉く持ち上げてくれるなーどうでもいい肩書きだが、こういう時はとっといてよかったと思う。


「なんといっても万葉さまのパートナーなんですからね。なんか必要以上に気を遣っちゃうみたいで」


ってなんか違うし。


 ズッコケそうになりながらも気になる名前に俺は敏感に反応した。


「ちょっと待て!万場さまのパートナーってどう言うことだ」


そう言うと彼女、尾海がしまったって顔をして、タジタジになりながらも急に現在の状況について詳しく語り始めた。


 今もっとも欲しい情報ではあるが、そんなエサで俺が許してやるわけもなかった。


「尾海くん、どういうことなんだい?んん?」


 俺がしつこく質問するのへ


「そっそれは……」


「それは?」


 アウーとかいって唸っている尾海に詰め寄る俺は逃げ道を与えない笑顔で詰問する。


「うう……教えます。教えますけど秘密にしといてくださいよ。万葉さまに口止めされてますから…」


 俺は適当に解ったと相槌を打って話を促した。


「えっと、ことの始まりは奨学生組の入学式の万葉さまが活躍されたでしょう、その時の活躍が口コミで広がったんですよね、それで一気に有名になっちゃたんですよね。


 それで、万葉さまの容姿を知った連中が群がってきたんです、……一日に十人くらいに告白されてたかな?


 もちろん万葉さまは断ってたんですけど、入学式に先輩に見せた雰囲気が先にみんなに広まっちゃってたんで……だれにでもいい顔する女って感じにも見られてたみたいなんですよね。もちろん、そんなのみんなの勝手な思いこみですよ!


 それで告白した男の子たちがみんなふられたんでみんながなんでだろって噂し始めたんですよね、その時に万葉さまが入学式の時の相手が特別なのって言ったんです」


 俺はその言葉を聞いて自分の心拍音が高鳴るのを感じた。心音が聡美と尾海に聞こえているんじゃないかと、ドキドキしたね。


「それで今度は万葉さまのお相手、つまり先輩の事が噂になってんですけど、その事については万葉さま全然話してくれなかったんですけど、教官が……結構色々な事を話してくれて……」


 すまなさそうに聡美を見ながら言って来る尾海、全然すまなさそうにする必要無いぞ尾海くん、俺は心の中からそう思いながら、こちらの話しが聞こえているだろうにまったく悪びれていない聡美の顔を睨み付けた。


 どうせ、俺もあの子に惚れてるとか、なんだ、それじゃ二人は両思いじゃないか。とかって絶対言ってそうだな、こいつは。


「あのっ先輩、このこと絶対秘密にしといてくださいよ。万葉さまに嫌われたら……」


 世界の終わりのような顔をしている尾海にもう一度俺は約束してやった。


「ところで、……なんで同期なのに【さま】なんだ?」


 俺がさっきからの抱いていた疑問をぶつけてみると


「そんなの当然です!私なんかとは存在からして違うじゃないですか。匂いたつようなようなあの容姿、キリリとした立ち姿、ハキハキとしたあの言動!ハ~ッホント完璧~」


 急に夢見る乙女のようになった彼女は、万葉さまのおれがすばらしい、これが神秘的だと讃え始めた。


 余りの彼女の変容に思わず退いてしまう俺。


 こっこれはもしや女子校とかで突発的に起こると言われている特異現象、宝塚シンドローム!?…共学のうちでなんでこんな現象が!? ???


 夢見るように語りつづける尾海を虚ろに見詰める俺、この事態を引き起こした本人、竜胆万葉、彼女はいったい何やったんだ?入学一ヶ月でここまでメロメロなやつが出てくるってどうよっ。


「だって万葉さま以上に格好良くて紳士的な男なんていないんですもん」


 だと…。もうちょっとがんばれよ男ども。



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