[6]こんな世界で生きてます③
「……行っちゃったわね」
慶磁を乗せたヘリが夕闇の中に消えていくのを見詰めながらマリーがぽつりと呟いた。
「なんだよ、偉く弱気じゃないか?学園でも間違いなくトップクラスのアイツが信じられないのかよ」
「違うわよ!信用はしてるわ。でも、でもねさっきのアイツ見たでしょ……信じてはいるけど心配になるわ」
「ええ、僕も感じました。先輩の変幻はハッキリいって不安定すぎます。先輩が出した申告書によれば、先輩の戦闘中のバイオリズムは高揚型です、恍惚型と言ってもいいくらい強烈なエゴをもった性格に変わられるんです。でもさっきの先輩はいつも以上に落ち着いていました。普通なら、能力を解放すればあんなに自制を保てるはず無いのに…」
その言葉には伝馬も深く頷いた。
「確かに、戦闘中に慶磁が大人しくしているときなんて大体ろくでもないこと考えてる時だからなぁ~」
「そんな呑気なことを!今回の人事は絶対納得できませんよ、会長。たしかに慶磁先輩ならどんなことが起きていようと収拾は出来ます。
でも先輩はホルダーだし…」
「欄丸、そいつは言うんじゃねぇ!………それに高濃度の魔素の中で一番動ける奴って言ったらヤッパ慶磁しかいねぇんだよ。だからあんまマリーを責めんじゃねーぞ」
沈んだ空気の中。痛みを噛み締めるような表情で俯いたマリーに変わって伝馬が言いさす。
「ぼっ僕は責めてるわけじゃ……」
「ああ、解ってるって心配してんだろ、慶磁のこと。確かにアイツが堕ちたら誰も止めてやれねぇーだろうからな、でも大丈夫だよ、アイツは堕ちたりしない」
ハッキリ言いきる伝馬にマリーと欄丸がどうして?と言うような顔を向けた。
「決まってるだろ!惚れた女がいるってのにあの慶磁が壊れるわけないだろう?」
自信満々で言ってくる伝馬にちょっと呆れた顔をした二人だが、この男なりの不器用な励ましだろうと
「…そう、ですね」「そうね」
と、同意した。
「うん、ほんとそうよね。ケイを信じてあげられないようじゃいったい誰を信じて生徒会なんてやってられるってのよねぇ」
っと無理矢理言ってるようなところに、伝馬が、あっ信じてないなって顔をした。
「ほんとだって!慶磁だって惚れた相手のピンチだってんだぜ。普段とちょっと反応が違ったっておかしかねぇだろ!」
そう言う伝馬にまだ言うかって顔で二人が言ってくる。
「あんたね~っ励ましてくれるのは有り難いけど、ケイがそんなに女の子にのめり込むなんて話、とーてい信じらんないわよ。噂広めた私が言うのもなんなんだけどね、つくんならもっとマシな嘘ついてよっ」
呆れた視線を向けるマリー、それに追従して欄丸がまったくです。っと言っている。
「嘘じゃねぇって、信じらんねぇーだろうけどよ、アイツ。入学式で噂の子に会ってから、他の女と寝てねぇもん。あの来る者拒まずのアイツがだぜ!!」
その言葉に二人はポカンと間抜けに口を開けたまま固まった……が。
「ウソー!!あのスケコマシが!?」
「信じられません!千人切りを素のままで成功させるんじゃないかって噂の先輩が!?」
突然マシンガンのように喋り初め、慶磁の女癖の悪さを並べ始めた。
友人に対する余りの物言いに頬をヒクつかせながらも伝馬は言った。
「まっまあ今回はそんくらい本気ってことだ」