[3]であったふたり③
俺が頭にハテナマークを浮かべながら颯爽と外に出ていく彼女の後ろ姿を見つめていると
「フ~ム、あの女お前の知り合いか ?」
「いや、全く覚えがないな。一回でも見たら忘れないような子だから間違いない…………なんでそんなこと聞く?」
「決まっている!女の扱いに達者すぎる程達者なお前が素の表情を曝していたからな、初めて女を見たような顔だったぞ、まあ平たく言えば惚れたからか」
「なっ そっそんなことねぇよ!」
激しく否定してやったのだが聡美の奴は「わかっている」といった表情でうなずいてやがる。こ・い・つ・はー!!
「フム、これで隻腕の魔女にもやっとパートナーができるかもしれんな」
「馬鹿言ってねーでサッサと消えるぞ入学式の邪魔だ」
「そうか、さっきからそんな厳粛な雰囲気ではないぞ、あの立ち回りの話で異様な盛り上がりだ。ほれ、見てみろ吉田教授が顔色を変えて入るぞ。おお、虹色変化とはこのことか!」 面白がっている聡美の隣で俺の顔が引きつる。やべぇーこのままじゃ単位が…。
そうだ!
「聡美!頼む。あれやってくれ、あれ」
「あれ、あれとはあれのことか、しかしここでやると被害が……」
「かまうか!つーか今はそれが望ましい。お前のあれならこの現実をヒックリ返せる」
「ホゥしかしこれをやるならば、さっきの借りは……」
「そんなもんかまわねぇよ。早く頼むぜ」
それを聞いた聡美はすごく嬉しそうに見えた。そんなに俺への貸しがこわかったのか?「ならば任せておけい!ゆくぞ」
そう言った瞬間、聡美の筋肉がピクピクと緊張し始める。俺は急いで耳を塞いだ。
「1・2・3・ダァー!!」
その瞬間、聡美を中心に気合いが炸裂する。聡美がマッスルファイアーと名付けたこの技は本人を中心に半径一〇〇メートル程の雑魚を金縛り状態にする便利な技だ。ちなみに掛け声にまったく意味は無い、本人いはく「あの御方の姿を真似るだけで力が沸いてくる」らしい。(あの御方ってのは昔のスーパーマン のことらしい)
聡美のお陰で五月蠅い連中が一掃された。ついでに吉田を筆頭に数人の教授、助教授、教諭が一緒に痺れているがまあこっちはどうでもいい。さっきからの騒ぎの中でもまったくマイペースに演説を続けていた校長さえ無事ならOKだ。(うちの校長はこれでも戦士としては現役なんだ!嘘じゃないぞ)
生意気にも動ける奴が数人いる(聡美は嬉しそうにそいつらの名前をメモ帳に書き込んでいる)がそいつらはこっちに文句を抜かす前に俺の悲壮感漂う眼光で黙らせる。
「よーし。とりあえずOK」
「どこがOKなのよ。ケイ」
稟とした空気を纏って現れたのは校長の孫にして現生徒会会長閣下、堂真・フォン・マリアンヌ嬢だ。
「この入学式の会場の何処がOKなのかしらね」
そう言いながら会場の端の方に顎を癪って、俺たちを誘った。
「そう言うが今だかつてまともだった試しがあったのか、この四国で」
珍しく旨い切り返しをした聡美の言葉に俺はニヤリと笑いながら追従した。
「そうだぜ。マリーこの永遠の放課後に格式なんぞ求めるべきじゃないとおもうぜ。第一去年は入学式場が半壊するほどの事件になって執行部が出張ったじゃないか。それに比べりゃ今年は物も壊れなかったし、重傷者もでてない。万々歳じゃないか」
「うう、それを言われると辛いわね。確かに今回の入学式に死人はでなかったから…でも騒ぎが起きたのは事実。ペナルティーは負ってもらうわよ」
そりゃ無いだろ、俺は俺に出来る最善を尽くしたって言うのに、俺の悲しみを判ってくれたのか聡美が俺を弁護してくれたがそれも
「ああ、聡美、君にもペナルティーは負ってもらうよ。A級エージェントの君がこの体たらくじゃ他に示しがつかないからね」
この言葉で固まっちまった。撃たれ弱いやつだ。
「マリィ~ッ俺の単位は?」
「それは採らしてあげるわよ、ケイが留年じゃそれこそ、他校の笑いものだわ」
俺は心の中でガッツポーズをとって喝采をあげた!が、そんなことはおくびにも出さずに渋い顔をして見せる。
「だけどマリーそのペナルティーがどんな物かは知らないがもうすぐ新月だぜ、今、執行部の犬になってる暇は無いんだが、な?」
俺が言葉に含みを持たせると
「もちろん、報酬も出るわよ。一応、執行部からの依頼とゆう形にするから」
よっしゃ!だから頭のいい女は好きなんだよ、特に俺に惚れ無い女はな。おっと他意はないんだぜ。
「依頼の内容については後日、通知します」
そう言ってくる彼女はこの学園の支配者に相応しい厳粛な雰囲気を纏っていた…そうこの時まではな。
「で、さっきのあれ!なんなのよ、なんなのよ、なんなのよ~君が女性相手にたじろいでるところなんて初めて見たわ!演劇部の花形役者、惚れさした女は数知れずの君が女の子相手に呑まれるなんて、ああファンの子がこのことを知ったらどんなに驚くかしら?…フフッ反応が楽しみだわねえ、そう思うでしょ!思うわよね。ね、ね、ね~聡美」
ああ始まっちまった。こうなっちまたらマリーが満足するまでだれもこいつをとめられない。
副会長と書記長が必死で包み隠しているこの女の悪癖が、これだ。
マリーは学内ゴシップに異常な関心を寄せている。副会長たちは出来るだけこういったネタを彼女の耳に触れないようにしているがマリーにも彼女独自の情報ソースを持っておりその努力は報われていない。
ちなみにその有力な情報源のひとつが俺だったりするので、副会長はともかくマリーの信奉者にして書記長であられる佐久間蘭丸くんには顔を逢わすたびに文句を言われる。
まっマリーと一緒でなかなか刺激的な会話を楽しめる相手なので嫌いな奴ってわけじゃないがな、おちょくると面白いし。
「ほう、やはりお前もそう思ったか、あの女を見てからの慶慈は変だったな」
「鈍い聡美が気づいたってことはいよいよ本物ね。みんなにも早く教えてあげなくちゃ」 聡美も加わっていよいよ盛り上がっちまった二人は俺の存在など忘れたように喋り続けている、もう勝手にやってくれ。
単位からくる安心と二人の戯言からくる諦観が俺の意気を沈めていく。
微かに聞こえる校長の演説が頭の中を右から左に抜けていく。
ピクリとも動かない(動けない)新入生たちを眺めると道化芝居を見ているようで苛つく。
全く今日の俺はどうかしてるぜ、たかだかルーキーの喧嘩くらいで気疲れするなんてっ。あの騒ぎの元になった馬鹿どもは全員、聡美か応援団に引き渡してやる。やつらの根性を叩き直すにはちょうどいい場所だろう。それとあの子だ!あんな馬鹿どもくらいサラッとかわせってんだ。あの子があんなに暴れ回らなきゃこんなにハラハラすることもなかったんだ。まったく心配させんなよ、どんなけ喧嘩慣れしてたって何が起こるか解んねーのがここ四国なんだぞ。
……おいおい心配ってなんだよ、俺があの子を心配してるってのか?初対面のはずの俺に妙に慣れなれしい女に。
はっまさかな、俺に限ってそんなことはねぇぜそれこそ彼女に一目惚れでもしない限りって惚れる?惚れるって俺があの子に?5歳も年の離れた子に惚れたってのか……違うな、あの子の戦闘センスにちょっと感心しただけ、そうに決まってる………取り敢えずそういうことにしておこう。
思考の袋小路にはまった俺は入学式が終わったことにも自分の顔が赤くなってきたことにも、そして俺の顔を見てニヤニヤしている二人にも気づかなかった。