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[12]これでも先輩ですから…⑥



(もう、だめだ……)


 断続的に続く着弾に体が跳ね上がる。


「ガハッ」


 内蔵を痛めたのか口から血が滴り落ちた、呼吸し辛いはずだ。


 体もあちこち出血している。


 もう、この鎧も全く反応を返してくれない。


 ボロボロになった四肢にどんなに力を込めても鎧はピクリとも動かない、関節部分がつぶされたのか、駆動系そのものが死んだのか、モニターは最初の方の衝撃で死んでいる。鎧のマスクを外し目視しているが、見えるのは死を約束する大砲の筒だけだ。逆転できる要因は見あたらない。今となっては鎧が逆にこちらの動きを規制している、鎧から脱出することすら出来ない。


 頭部に着弾、頭部のどこかが切れたのか目に血が入ってくる。


『センサーなんか実戦じゃ役にたたないわよ、もっと体全体で回りの空気を読みなさい』(ああ、そのとうりですね。確かにあなたの言うとおりだ、ちゃんと練習しておけば良かったな)


『電子兵装だけに頼ると、それが壊れた時怖いわよ。あなたが其れで良いと言うならそれはそれであなたの自由だけど、その欠点が味方の危機を招いた時は許さないわよ』


(あなたは、いつも僕たちに優しくない。同姓に見せてあげる優しさの一片でも見せてくれれば僕らのやる気も出ただろうに、だれもが貴女見たいに完璧じゃないんですよ。僕には貴女のようにみんなを纏めるだけの力が…守れるだけの力がなかったみたいです) 


「ああ、でも…


『じゃ、留守番お願いするわ、……帰ってきたらここが無くなってたなんてことの無いようにね』



(初めて貴女が僕たちに頼んでくれたんだ、守り抜きたかった……ごめんみんな)」


 ここで防ぎきれなければ、奴はこのまま暴れ回りギリギリ守っているこの施設の防衛線も崩れてしまうだろう。


(せっかく、脱出のメドがたったってゆうのに、ここで、僕のミスで終わってしまうなんて………ちくしょう…ちくしょう、化け物め!あの人さえ居ればお前なんかの侵入を許しはしなかったのにっ)


 最後の意地だ、死ぬ瞬間まで睨み付けてやる。悲鳴などあげてやらない、お前の喜ぶことなど絶対してやるものか!


 砲塔が射角を修正している、狙いは僕の頭のようだ、遊ぶのにも飽きたのだろう…最期だ。


 筒の奥に砲弾が装填されるのが見える、態と見せていると言うならかなり良い性格だと思う。


 すまない、みんな。


次の瞬間には砲声と共にそれに続く死の世界が僕の視界に映ること


 『バシュュウウッッ』


 は、なかった。今まで見えていた地獄の穴でも無ければ、死後の世界でもないもの。


 もう見ることはできないと感じていた物の一つ。


 空が見えていた。


 その瞬間、首筋に凄い力を受け直後に爆音を至近距離で聞いた、一瞬のブラックアウトの後に見えた物は打ち抜かれたデランの残骸だった。間違いなくさっきまで自分の乗っていた機体だ。


「生きているか?」


真後ろからの声にハッとする。


 地面に座り込むように倒れていた僕は、横を向こうとしたがどこかが折れたのか体が言うことを聞かない、もどかしくげに僕は倒れ込むようにして声の主を確認する。


 後方から照れされるライトで影になってよく見えい、光に透けて輝く紅色の髪と整った輪郭、そして闇の中でもハッキリと解る赤い瞳、それだけが見える。


 線の細い体をしていたが、声から男性だと解る。


「あっあなたは?」


 彼が小さく笑ったのが解った、僕の意識があったことに安心したのだろうか


「お前たちの先輩さ」


 そう言って安心させるようにまた笑ってくれた。


「荒っぽい助け方だったがまあ勘弁してくれ」


 その言葉を聞いて、初めて自分が助かったワケがわかった。


 さっき聞こえたのが砲声ではなく後背部強制排出装置の作動音だったのだ、あの最期と覚悟を決めた瞬間にこの人が鎧から僕を排出し砲弾の一撃から救ってくれたのだ。首に感じた衝撃は襟首をつかんで後ろに飛んだ時のものだろう。


 漆黒のコートを羽織ったその姿に見覚えはなかったが、首筋の校章は薬師の物だった、しかしそんな物より彼から聞こえる暖かみのある声は僕を無条件に引き込み味方だと信じさせた。


「一年にしてはなかなかの健闘だったぞ、ただどうせ、銃撃させるなら先に外部センサーを潰させるべきだ、そうすればお前でも十分倒せる相手だよ」


 事態を把握しようと必死で考えを纏めている僕を後目にその人はゆっくりと戦車に近づいていく、まるで食後に散歩に出るようなそんな気軽さだった。


 出血で朦朧とする意識をなんとか奮い立たせ、彼の背を目で追う僕。


 恐れる様子もなく悠然と戦車に近づく彼の姿になぜか肌が浮き立った。


 それからの光景は僕には忘れられないだろう。


 無防備に近づく彼を次の標的と定めたのか、狂戦車がその場からガトリングを彼に向けて、弾丸をはき出し始めた。


「先輩!!」


 思わず叫んだ。周りからも悲鳴が漏れる。盾になる物も魔力の発動も無かった。


 ガトリングの音は死の旋律となる…はずだった。


 だが現実には弾は彼の体に一筋の傷を付けることも出来なかった、逆に彼の両手に突如として現れた2丁のコルトパイソンが戦車のセンサーとガトリングガンのシリンダーの回転部分を破壊していた。


 自分の見間違いでなければ、弾が自ら彼を避けていったように見えた。実際には流れるように前に出ながら全弾かわしたのだろうが、そのくらい無造作でゆっくりとした動きだったのだ。


 戦車にとっても予想外の動きだったのだろう、上下左右どちらに避けても直ぐさま対応出来ただろうが、そのまま直進してきた相手の行動は奴の優秀な戦術コンピューターの予測にも無かった動きだったのだろう。コンピューターに寄生した奴の戦闘レベルは誕生したての化け物にしてはかなり高かった、だが裏を返せばコンピューターだよりの戦闘だマニュアルにない動きには対応できない、処理落ちが生じてその動きが一瞬止まる。


 その一瞬の停止時間にピンポイントで目標を打ち抜いていた。


 信じられない攻撃方法、鉄砲を撃ってくる相手にカウンターを用いたのだ。


 確かにあれなら、かわされるはずのない絶対の一撃を放てる道理だが、それを実行するにはとんでもない目とハートが必要だ。


 だれも真似できない戦闘法、芸術的だった。


コートの裾が翻り、それがまるで漆黒の翼のようだった。


 センサーを破壊された狂戦車は僕の時のような直線的な動きではなく、複雑な軌道を取りながら先輩に迫った。


 手強い敵と認識したのだ。


 精密な狙いが付かなくなった主砲を一発撃ちはなってきた。弾丸は先輩から外れて着弾。したが、そのせいで再び土煙が立ち上り視界をふさがれてしまった先輩と奴の姿が見えなくなってしまった。


 さっきの戦闘でこれを学習したのだろう、自立型の戦術コンピューターは戦闘を経験すればするほどその性能を上げていく。


 狙いは明白だ、至近距離からの主砲の一撃、土煙の中を車体をぶつける気で突撃しながら撃ち放つ。それなら狙いなどつける必要はない。


 煙の向こうでキャタピラのブレーキ音とそれに重なるように砲声が響く、それに一瞬遅れて砲弾の衝撃で土煙が吹き飛ばされ視界が戻ってきた。


「先輩!」


 思わず叫ぶ、いない!?まさか吹き飛ばされたのか!そんな……


 晴れた視界に映るのは穴の空いた地面と戦車だけだった。


 絶望が再び僕らを縛る、そんな僕らに対し無慈悲な死神のように戦車の砲塔が動き始めた。弾が尽きるまで撃ちまくる気だろうか。


 しかし、射角がおかしい、それじゃ僕らの頭の上に当たるぞ。それに何だ?後退しようとしてる!?僕の疑問に答えるように夜の闇を裂くような銃声が響く。


 キャタピラのインジェクターが小さな爆発と共に千切れ飛ぶ。


 真上からの攻撃、先輩だ!爆発の衝撃を利用して上に飛んだのだろうか、闇の中から現れ漆黒の翼と真紅の髪を靡かせながら戦車の上に舞い降りた先輩は伝説の戦女神を彷彿とさせた。戦車が狂ったように暴れて先輩を振り落とそうとするがキャタピラが破壊されているので殆ど動けないでいる。戦車はその構造上横からの攻撃には強く作られているが上からの攻撃には弱い。と言うか陸戦用兵器は上空からの攻撃など考慮して設計されていないのだ。



「終わりだなっ無に帰れ」



 響いたのは一発の銃声だけだった。それに続いて戦車のエンジン音が止まる。


 絶望に包まれていたいた僕らはこの一瞬の逆転劇に呆気に取られ次いで歓声を上げた。実際には先輩は傷一つ受けておらず、全く危なげなくなかったんですけどね。


 でもその時の僕らにはまるで目の前にいる人が奇跡を起こしたようにみえたんですよ。


 リーダー、いえっ竜胆さん。



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