[1]であったふたり①
「新入生の皆さん、あなたたちは来るべき未来をになう勇敢なる……」
校長の催眠言波に耐えることすでに30分、未来を担うべき奴らの三分の二が撃沈していた。
こいつらを責めるのは酷と言うものだろう、なぜならこいつらはらはつい一時間ほど前までとてつもなくデンジャラスな入学試験?成るものを受けた後なのだからな。
はっきり言うが、ありゃ地獄だぞ。
いくら腕の立つエージェントがたくさんいるっつっても普通世界出身の中学でにゃー(普通はそうだ)とんでもない思い出となったことだろう、俺も入試の時は本気で死を覚悟したからな。
ぶっ倒れている連中にデジャブを見ちまいそうだ、まあその可愛い後輩の中にも可愛くない奴はいるんだが……
浮遊大陸『四国』にあるいくつかの高校は一風変わった奨学制度を持つ、自分の所属する学園のある行事に参加する生徒には入額金が無料に成る他、学業成績その他によって生活費まで支給されるのだ。
ここ四国は世界中から人を集めてもみ合わせることで優勝な人材を育成しようと言う目的で設立された学園都市であった。当初その目的は達成され気をよくした世界政府は四国の自治権を学園生徒に委任した。
しかし、完全な自由は暴走を生む。
自治委任状、譲渡より半年、有り余る予算を使い化学部部長、風祭凶士朗(通称マッドウインド)を中心とした、電脳部、霊能部、イーエスピー同好会による合同プロジェクト、[死国の扉]により世界ではじめての異界とのファーストコンタクトに成功する、異界への第一回探索(もちろんオートマンを使った)では人に類似した生物が大昔に存在した痕跡を残す幾つかの遺跡と地球とは構成成分の異なる物質を発見したが人類の脅威と成るものはこれ以降の探索でも発見されなかった。
しかも異界に存在する物質はそのほとんどが莫大なエネルギーをその内に含んでいた。
そこにきて、統合学園生徒会はその事実を全世界に発表するに至る。
全世界がこの発表に驚愕し、次にそのプロジェクトを一時凍結し仔細に調べようと世界中から研究チームを派遣しようとした時、プロジェクトの凍結に憤慨したマッドウインドは新たな爆弾を世界に投げ込んだ。
その時に彼が言ったのはこうだ。「ここは永遠の無法の放課後だ。よそ者の踏み込める場所じゃない」その直後、爆発音が起こり異界のゲート制御装置は完全に破壊された。その直後、四国は激震と共に島全体が浮き上がり始めた。
ゲートは完全に固定され制御装置の復旧は不可能となった。(マッドウインド以下のものたちに治す気は当然ない)
ここに来て世界は共通の認識を持つにいたる、もはや四国を、四国に在籍する学生をコントロールすることは不可能だということに。
これにより、しかたなくではあるが、全世界は異界の管理を学園生徒に任せることとなった、これはつまり四国という不可認の学園王国の誕生であった。
四国は異界という金脈により独立国家という色合いを半年ほどの間にますます強めていくのだがその頃より妙な噂が流れ始めた。ゲート、付近の植物が冬だと言うのに咲き乱れたというものから、三つ目の猫を見たとか、果ては山が動いたなどと言うとんでもないない話まで出て来る始末、普通なら噂好きの生徒の悪戯として処理されることではあるが、園芸部が六つ葉のクローバーの大量発生を、生物工学研究部が通常の十倍のサイズの蝿が試験管の中で生まれたと言う報告を生徒会に報告していたし、しかもその二つの部がある高校はゲートから二十キロと程近い所に存在していたのである。
怪異の起こる範囲は少しずつではあるが確実に広がっていた。
二つの平行世界が一つに成ろうとしていることに人は少しずつ気ずかされていった。
「いい加減にしやがれ!いつまでくだんねーことクッチャベッテル気だ、こっちは丸三日寝てねーんだぞっ」
おっと始まったか、ほーまだ怒鳴る元気が有るとは今年のルーキーは伝馬の言うとうり有望かもな。ギャーギャーと喚き始めた一団をのほほんと眺める俺にイヤな視線が突き刺さる英文学講師の吉田のヤローが早くあの馬鹿どもを黙らせろってな具合の意味を込めて俺を睨み付けてきやがった!
こいつは俺がほとんど出席していない(こいつが嫌いだからだ)英語の単位を盾に時たま学校行事を強制的に参加させやがる、これで単位を寄越さなかったら俺は絶対こいつをエデンの奥地に放り出してやる。
その状況を思い浮かべて忍び笑いをしている間に、文句をたれる奴が増えてきたそろそろ止めんと面倒なことになるなーどうしたもんか?
「なあ、こんなクダンネーところにいないでどっか遊びに行こうぜっなぁいいだろー」
「それいーねー君らも行こうよ、退屈させないからさー」
「…………」
どうやらさっきの集団が女生徒に絡み始めたらしい、俺の中の黙らせ方が決定した、腕に風紀委員の腕章(もちろん臨時だ)を着けて壁に寄り添っていた俺はスタンガンを懐から取り出しその集団にスルスルと近寄っていった。
気ずかれずに集団の背後にまわった俺が一番目立つデブに電撃をくれてやろうとした時「うざい!」
その一言とともにデブが気持ちの悪い絶叫をあげて白目を剥いて倒れた、股間を押さえている事から恐らく……蹴られたんだな、あそこを。
それを想像してしまい背中に悪寒が走った、いったいどんな娘がやったんだ!?
集団の中心部を覗き込んだ先にはとんでもない美少女がいた、おもわず見惚れずにはいられない、夜の闇を閉じ込めたような長い髪に白磁の肌、隆くバランスのよい鼻、生き生きと輝く瞳、淡紅色の薄い唇それらすべてが網膜に一瞬で妬き付いた、今の状況を忘れて彼女に見惚れその唇から零れる声が聞きたいと強く思った。
そのとき天に祈りが通じたのか彼女の唇が開いた。
「デブが潰れたヒキガエルになったか、みっともないね!ああ、こんな男ばっかりかと思うと嫌に成る。もう少し女性の扱いを勉強するんだね」
可憐な声とセリフとの余りのギャップに再び固まった俺の目の前で彼女は痙攣しているデブに止めを刺すべく右足を振りかぶった。