『丸太小屋』
「ジャック」
ジャックを出迎えた大男は、大きく分厚い、木製と思しきの門の前に立つと、振り返らないままにジャックに声をかけた。
「今日からここは、お前さんの家になる。お前さんがどんなにこの在り方がいやになって、逃げだしたくなって、死んだ方がましだって思うことになったとしてもだ」
ジャックは表情を動かさないまま、黙ってローレルの話を聞いていた。
「『樵』になるってのは、外で生きるっていうのは、そういうことだ。たとえお前たちが俺たちを遠ざけようとしても、『樹』がそれを許しちゃくれない。お前が「中」で暮らしていたときに出会ったどんな人間よりも、『樹』の方がお前の身近な存在になるんだ、連中を全部切り倒してしまうまではな。月並みな言い方になるが、その覚悟はできているか?」
二人の男の前に立つ重厚な扉は、ローレルが手を触れると、見た目にたがわず重々しい音を立ててひとりでに開いていった。
「…っていい」
「なんだって?」
大男は振り返った。相も変わらずジャックの表情はサボタージュをおこしたように微動だにしなかったが、
「どこだっていいんです、あの夢を見なくて済むんなら、どこだっていい」
「その悪夢が日常になったとしてもか?」
「手に武器があるのだとしたら、いくらでも伐りようがあるはずです。あなたも、親父もおふくろも、そうしてきたはずだ」
少年の視線が一瞬、下を向いた。
「口汚く罵って終わりなんてのは、もうこりごりだ」
同時に、瞳に怒りが宿った。その瞬間を、大男は見逃さなかった。
「お前、本当にハウリーのガキかと疑っていたんだがな」
「『悪くない』。『丸太小屋』はお前さんを歓迎するぜ、ジャック。俺はローレルだ。『丸太小屋』2代目の管理官(Adiministrator)を務めている」
ローレルと名乗った大男は少年に大きな手のひらを差し出し破顔した。
「ありがとう、ローレル管理官」
口元だけを器用に動かして、ジャックは目の前の大男に感謝の意を伝えた。
「ローレルでいい。敬語もいらん。まぁ強制はしないが。何しろここに入った以上、お前は俺の息子みたいなもんだからな。管理官(Ad)じゃどうも味気ないからな、お父さん(Dad)って呼んでくれてもいいんだぞ?なんてな、しかしその不愛想なのだけはどうにかしろよ」
わっはっは、と大笑しながらずんずん先に進むローレルの背中をながめ、ジャックは
「少々面倒な人だ」
と正直な感想を抱いた。それと同時に、ローレルが口にした言葉が思い出された。
「悪くない」
「お前さんを歓迎するぜ」
「悪くない、ね」
「あんたの言葉にふさわしいぐらいの働きはできるよう努力するよ。管理官(Ad)」




