ログ・No.64
チリリチリリ、チリリチリリ。
金属質で耳障りな音が鳴り響く。
なんだよもう、本当に...
「うるさいなあ」
あら、先に言われた。じゃなくて。目的を思い出し、しゃっきりと目が覚めた。
「もう4時半だ。明るくならないうちに出ないと間に合わないよ」
二段ベッドの下では、兄がまだむにゃむにゃとアラームと僕に文句を言っているのが聞こえる。彼の布団を半ば無理やりにはぎ取り、身支度を済ませ、昨日の晩のうちに用意しておいたリュックサックを背負う。
「何で...こんな...時間に」
「兄さんが見たいって言ったんじゃないか」
山道を歩きながら、行動食をもぐもぐとやる合間にまで文句を挟む兄に僕はあきれて言う。
僕らの極端な早起きの理由は、その目的地にあった。僕らは樹を見に行くのだ。それも巨大な杉の樹だ。写真で見た樹は、岩と呼ぶにふさわしいほどごつごつとした肌をもち、僕と兄を1ダース用意したって、囲むことは難しそうなほどに太かった。なんでも樹齢は数千年だとかで、自分の生まれた年ですら大昔のような気がする僕には、正直想像もつかない。
道中、驚くような大樹は何本もあった。僕と兄はそのような気が見つかるたびにこれが目的の樹ではないかと声を上げたが、手に持った地図と打ち立てられた標識はそのたびに僕らを否定した。
何時間歩いただろう。僕らはようやく樹の下にたどり着いた。先を歩く兄の背中がいきなり止まって、僕は危うく彼のリュックサックに顔をぶつけそうになった。
「あれだ」
兄は指さす方向に樹は在った。
大地からそのまま湧き上がってきたみたいだ。
独特の模様を持つ幹はところどころに巨岩のようなコブをこしらえ、その先端は幾筋にも分かれている。
兄はその大きさに圧倒されていたようだった。まともに口も利かず、ただぽかんと樹を見上げている。僕も彼に倣って樹を見上げた。
林冠が空に作った網目模様から覗く木漏れ日を目で追う。自分の立つ地面に目を向けると、樹の根が僕と兄の足元にまでびっしりと張り巡らされているのを発見した。妙な表現ではあるが、樹の手のひらの上にのせられたような気分になった。
その場からほとんど動かないまま、僕らは杉を眺めた。時間にして1時間ほどだろうか。どちらから声をかけるでもなく、元来た道を歩き始めた。
歩き始めて数分は黙りこくったままだったぼくたちも、樹との距離に比例して、口数は自然と増え始めた。感想を言い合ったが、まともなものは出てこない。樹の大きさだの、太さだの。
宿についた時にはもう夕方になっていた。くたくたになった僕は風呂と夕飯も早々に寝床に崩れ落ちた。一方まだ余裕綽々といった感じの兄は、マットレスの上に力尽きた僕を見て笑った。
朝はあんなに眠いだなんだとぼやいていたくせに。半ば恨めし気に兄をねめつけようと思ったが、この睡魔に負けようとしている半開きの目では、到底無理なことだった。あえなく僕の視界はブラックアウトした。