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プロローグ

とりあえず頭の中にあるものを文章にしていく予定です。



 「これで最後の一冊にしようね」


 何回言ったかわからない言葉を、苦笑しながら念押すように口に出して、母さんは絵本を開いた。もう一回、もう一回、とせがむ弟は、本当は眠いのがバレバレだ。耳がほんのりと赤くなっている。こうなった弟が本を一冊読み終わるまで起きていたためしがない。


 母さんの手の中にあったのは、「ジャックと豆の樹」だった。


 母親と二人で暮らすジャックという少年がいました。ひょんなことからジャックはジャックは商人から譲り受けた天まで伸びる樹の種をもらいました。ジャックは種から生えてきた樹を伝って、空の上に住む人食い大男の屋敷に迷い込みます。そこで彼は金の卵を産むめんどりや金貨を持ち帰りました。かんかんになって樹を伝って追いかけてきた大男も、ジャックが樹を切り倒してしまったので、落ちて死んでしまいました。ジャックは無事に宝物を持ち帰って、母親と幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。


 その日、弟は珍しく絵本を読み終わっていた後も起きていたので、僕は内心驚いた。弟は眠りに落ちる前、眠そうな声で僕に声をかけてきた。


「にぃに」


「どうしたの?」


 天井から弟の方に視線を向ける。


「もしジャックと豆の木のお話の中からなんでもってかえれるなら、何がいい?」


「何でも、かあ...」


 僕が大男の屋敷にあったお宝を思い出していると、


「ぼく、めんどりがいいな」と弟はいった。理由を尋ねると、


「だって、まいにちおいしい目玉焼きが食べられるんだよ」と答えた。弟は目玉焼きが大好きだった。


 ある時、父さんがその理由を尋ねると、しばらく難しい顔をして考えてから、


「おはようってかんじがするから!」


と答えた。お前らしいな、と父さんが言って、家族みんなが笑ったのをよく覚えている。


 食べられるかどうかわからないぞ、金色の卵なんて、と弟に言おうとしたけれど、弟の返事はすでに静かな寝息にかわっていた。


 僕は天井に向き直った後も、弟の質問がしばらく頭から離れなくて、少しの間眠らずに考えることにした。やっぱりめんどりが一番面白いかな。クラスの皆の人気者になれるかも。金貨を持ち帰ったら、母さんと父さんは喜ぶ?いや、どこから持ってきたのかと怒られちゃいそうだ。それとも...。


 考えているうちにあったかい眠気が僕の意識をそーっと眠りの中に誘い込んでいるのが分かった。身を任せることにした僕は、暗闇に着地する直前、ようやく弟の質問に答えを出した。


 斧だ。弟や母さん、父さんを守ってあげられる斧が欲しい。たとえ人食い大男が、いやもっと恐ろしい何かが襲ってきても簡単に切り倒せるような、大きくて、頑丈で、強い斧が。




 答えに満足したかのように、僕の意識は素直に眠りに落ちた。

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