第三話 「とりあえず落ち着こうか。」
「───番印?何言ってんだ馬鹿かお前は。」
目の前に急に現れた女。随分と重そうな防具を背負ってる割には、恐らく空気を蹴る事によって疑似的に浮いている目の前の女は、急に意味の分からない事を言い始めた。
見た目は良くある中世ファンタジーの風貌の女騎士で、なろう小説だとかライトノベルに詳しくない彼でさえ知っている典型である事が理解できた。
これで確定した。ここは異世界で、恐らく時代は中世。彼の友達が良く言っていて、またアニメとかでも見た世界観である。
そして、気になる点もあった。
彼の瞳が映し出しているのは女騎士の防具と剣が纏っている奇妙な力だった。
やはり、自分の世界とはまた違う異能の力由来の物がその防具達には纏われている。
「知らばっくれるな。貴様の様な領土侵犯の宣戦布告の体現者の言う事を軽々と信用すると思うなよ蛆虫。」
目の前の彼女は、かなり彼に対して敵意を持っていた。実際に銀色の輝きは彼に向けられていたし、その眼光はドラゴンの物よりも一層鋭い物だった。敵意の瞳だ。
彼はその暴言や物言いに若干の苛つきを感じながらも、自分がすべき事を理解し実行した。
そう、やるべき事。それは────────
「────とりあえず落ち着こう。」
中指を立てつつも、神妙な面持ちでそう言う事だった。
どうせ異世界人にこのハンドサインの意味等解らないのだ。無知は罪と言う言葉の所在はここに在り。自分が剣&魔法の住民である事を恨むが良い。
彼は内心でニヤつきながら、彼女の返答を待った。
「異世界人だから分からないとでも思ったか?斬り捨てるぞ。」
───ザンネン!既に異世界にも「fuck you」の概念は浸透していたらしい。
彼女はむっ、と一層眼光を鋭く光らせ剣をカチャ、と鳴らした。
が、不思議と警戒は解けていた様だ。
「貴様からすれば異世界人だ。分からないとおもったのだろう。番印で無い純粋な転移者だったか。」
やれやれ、と呆れた様な態度で銀色の剣を構えるのを辞め、途端に声色は丸くなる。
これで彼女が抱えた不都合が全て無くなったので、当然と言えば当然なのだが、それは会話相手の彼からすれば不思議な事だった。
「いや、だから番印ってなんだよ。てかお前誰だ。」
彼は対照的に、警戒は未だに解いてはいなかった。左腕の周辺空間は未だに黒く、能力は発動したままだった。
彼は不機嫌な声色でそう問いかける。自身が知らない物を当然と持ち出す輩に吐き気がするし、それとは別に、「無知だと思ってた女が実は知ってて、無知と恥を晒したのが自分になってしまったから」と言う理由もあったのだった。
「あぁ、すまないが、それに答えるのは後になる。貴様の処遇が決まってからに、とは言っても悪い様にはしないと誓おう。」
彼女は彼の疑問と不機嫌をさっぱり斬り捨てる様な明るく良く通る声でそう言い張った。
現状、彼は不正密入国者扱いなのだから、彼女の職務上しょっ引かない訳には行かないのだ。
「───順風満帆とは行かない訳ね。」
彼の瞳は、彼女でも何でもない、空を見え透いていた。それは彼が何を考えているか悟られたくない時の技術とでも言えば良いのか。約1年間の試行錯誤が生み出したちょい便利な技術だ。
「色々とすまない。此方としても心苦しいよ。」
剣を鞘へと収めて、そう発言する。剣はやはり、西洋剣なだけあって結構な大きさがあったのだが、なるほど、鞘も同じくらい大きく、その鞘だけでも戦えそうな程だった。
さて、此処にして、二人は初めて同時に発言した。
「「───とりあえずそろそろ地面に降りないか?」」
二人は、ドラゴンの死体が打ち付けられていた地面へと降り立った。
3作目…!!!