第一話 「暴力的虚構」
「────あ?」
この世界に来て、始めて困るかも知れない事だった。否、それ以上に最大の危機とも言える事だった。
自分の超能力が使えない可能性がでてきたのだ。
いや、使えるには使えるのだが、出力が前の世界に来るよりも格段に威力が落ちているのだ。
この世界でこの威力が通用するか、そんな不安を彼は感じていた。
彼は決して近接戦闘が強い訳でも無いし、筋肉が有るわけでもない。その見た目はまるきり、痩せた高身長の男と言う風な、一番ナメられ易い姿だった。
そんな中で彼が元居た世界で生存できていた要因は、その超能力にあったのだ。
生命線が使えなくなっているのだから、彼が焦るのも無理は無かった。
「────異世界に来てしまったんだよな。全く、どういう原理だよ。」
数十秒にも渡る長いため息を吐いては、誰に宛てるでも無い言葉を虚無に呟いた。
びゅう、と彼の白に近い紫髪を風がなびかせる。
コンクリートジャングルとは違い、平原はよく風が通るらしい。
─────神谷雫。年齢18歳の高校三年生。超能力「虚構摂理」の使い手。今の時代には珍しい暴力系の不良と言うカテゴリに位置し、チンピラ狩りとして恐れられていた。
過去を語るには後12話は必要かも知れない程に濃厚で、その全てが虚無に帰した。
彼はもう一度、自身がなぜここに居るのかを想起して見る事にした。
それは唐突の奇襲だった。いや、実は唐突な訳でも無いのかも知れない。彼は一昨日から少しの違和感を感じていた
だが、彼は見事に奴の奇襲に引っ掛かり心臓を一突き。文字通りにハートを穿かれて死亡した。
彼は神を全く信じない訳では無かったが、殆ど死んだ場合は虚無に行くか、それにしても同じ世界に猫とかになって輪廻転生するものと予想していた。
だが、まさか死んだら「異世界」に行くとは彼も予測が付かなかった。
「死ぬ事自体初めてなのに、それ以降も初めてなのかよクソ、プレステージで強くしてくれる親切仕様は無いのか?」
半ば自棄。半ば現実逃避気味にそう声いっぱいに叫ぶ。大きな声は透き通った群青の彼方へと飛んで消えてしまった。
なんせ、異世界転生にしてももっとやりようはあるだろう。町中に転生させるだとか、もっと情報を取得できる場所に。
だが彼が転生されてしまったのは平原だ。遠くに山が見えるから多分遊牧民とかが住む所の様な場所に飛ばされたのだろうが、人が見当たらない。
恐らく、と言うよりもほぼ確定で、彼は一人で置いてけぼりに転生させられた。
「憂鬱だ...ぼやいても仕方ないんだろうが。」
一人と言うのも寂しい。数時間過ごしているとそう思う。彼は草原を歩いて山へと近寄っていく度に、時間が経過する度に独り言が増えていった。
────その時、彼はこの世界がどの様な物であるかを唐突にして理解させられた。
空に高速で飛来している影が彼を包み込む。鳥の様で、だが余りにも無骨で荒々しい両翼。
トカゲの様な身体構造。鋭い瞳に巨大な体。
間違い無く、見誤り無くそれは暴龍だった。
一作目投稿…!!!