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異世界の勇者伝説、誕生

「……本当はここに残って、のんびり暮らしたいよ。」


ミレイアとエリオットの必死の引き止めに、私は深く息を吐いて肩を落とした。


玄関ホールには、見送りのため皆が勢揃いしている。二人はもちろん、アルフレッドや屋敷のメイドたち、使用人たち、さらには護衛としてグリフィーネ家とアッシュフォード家から派遣された騎士たちまで。

彼らは真剣な顔で、私の出発を止めようと説得していた。


「でも、それは出来ない。」


私はわざと声のトーンを落とし、少し深刻な表情を作る。

ここで簡単に説得されるようなら、きっと彼らは私をこのまま屋敷に押し込めてしまうだろう。

優しさがある分、なおさら厄介だ。


――ならば、ここはちょっとした冗談で場を和ませるべきでは?


「私には、帰らないといけない理由が……あるのです!」


ほんの少しだけ間を置く。

そして、芝居がかった声色で続けた。


「――私の城で鍛刀した剣の化身たちと共に、歴史を修正しようとする敵と戦ったり、別世界では英霊を召喚して、白紙のようになってしまった世界を…元に戻す使命が待っているのだから!!」


さらりと嘘をついた。

いや、嘘というよりは、私が大好きなソシャゲの設定そのままだが。こうでも言わないと、皆がいつまでも私を引き止め続ける気がしたので。


「な、なんと……!」


突如、ミレイアとエリオットが膝をついた。


「そんな大事な使命があったのですね……!」


「異世界の方……あなたは救世の旅に戻られるのですね……っ!……あなた様こそ真の勇者です!!!!」


エリオットの顔が真剣すぎて、思わずこちらが引きつりそうになる。

しまった、そんな壮大な話じゃないから!

ゲームのストーリーだから!!

私はただ普通に会社に戻って、山のような仕事と戦うだけだから!!!


「あなたの旅路に、神の加護があらんことを……!」


「どうか、ご無事で……!」


騎士たちまで揃って敬礼し、アルフレッドやメイドたちは神妙な顔をして私を見つめている。

ミレイアの目は潤み、エリオットは固く拳を握りしめ、まるで私が国の英雄にでもなったかのような雰囲気になっていた。


……いや、違うのよ。


「……」


訂正しようとした。でも、彼らのあまりにも真剣な顔を見ていると、なんだか言い出しづらい…。


今ここで「ごめん、それゲームの話なんだよね!」と言ったら、どれだけの人が絶望するのだろうか。


――こうなったら、このまま行くしかない。


私は微笑みながら、手を軽く振り上げた。


「…じゃあ、行ってくるわね。世界を救いに…!」


そう言ってしまえば、彼らはより一層真剣な眼差しで私を見つめてくる。


ああああ……私は一体、彼らの中でどんな偉人になったんだろう。嘘ついて、本当にごめんなさい……。

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