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赤い空間での邂逅

誰かが息を呑む音がした。


「……そんな、まさか。」


「本当だよ。」


私は静かに頷いた。


「私は確かに見た。彼女がそこで、縛られ、吊るされているのを。」


言葉にして初めて、自分の中に広がるあの光景の異様さが、より鮮明に蘇る。


そこは――地獄の底そのものだった。


空は赤く染まり、まるで止まらぬ出血のようにどろどろとした色が空間全体を覆っている。そこに光はなく、ただぼんやりとした微かな赤の輝きが、あたりを照らしているだけだった。


恐ろしく深い、終わることのない苦痛を孕んだ、血の色。その下で黒く捩じれた木々が、まるで呻くように歪んでいる。


空に浮かぶのは――巨大な目玉と、無数の縄。


まるで蜘蛛の巣のように、張り巡らされたそれは、生きているかのようにゆっくりと揺れ、絡みつき、伸び、縮み、蠢いている。


そして、その縄に繋がれているのは――幽鬼のような影たち。


目を背けたくなる。

けれど、目を背けてはいけない。


縛られた彼女たちは皆、苦痛に歪んだ表情で呻き、静かに泣き、あるいは無表情のまま、ただ宙を彷徨っていた。


何かを訴えようとするかのように口を開く者もいる。だけど、声はない。


誰一人として、叫びも、言葉も発することができない。赤黒い空の下、ただ――吊るされ、揺れ、消耗し、存在だけを擦り減らしていく。


まるで、終わらない拷問だ。


その中で――私は一体の幽鬼と、目が合った。心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。


………ジュリア?


無数の彼女が、無数の縄に縛られ、吊るされていた。


ぼろぼろのドレスは千切れ、髪は乱れ、全身は影に覆われて見えない。


ただ――微かに震えていた。


あれほど高慢で、傲慢で、冷酷だった彼女が。罵倒するでもなく、抵抗するでもなく、ただ――震えていた。


その姿はまるで哀れな虫のようで、私は何も言えなかった。


これが彼女の「罰」なのか?

そうだとしたら、誰がこれを与えたのか?


神か。

悪魔か。

あるいは、彼女自身なのだろうか。


――〇〇〇〇は、〇〇へ行った。


――ジュリアは、地獄へ行った。


「……だから、もう大丈夫だよ。彼女はもう、戻ってこない。」


私の言葉に、騎士たちが顔を見合わせる。


ミレイアも、エリオットも、どこか信じられないような表情を浮かべていた。


でも――これは、紛れもない事実だった。


「……だから、もう行くよ」


私は微笑んだ。

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