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感動の再会と元婚約者と教育的指導

そっと、静かに近づいてくる足音。


ミレイアの姿をした私の口から、震える声が零れ落ちた。


「……エリオット」


それは、呼びかけというにはあまりにも頼りない響きだった。けれど、その一言が放たれた瞬間、まるで時が止まったかのように、大広間が静まり返る。


エリオットは、まっすぐに向こうを見つめていた。


彼の目は、強く、真剣で――そして、どこか信じられないものを見ているような、そんな戸惑いを湛えていた。


私には、彼の心情が手に取るようにわかった。目の前の「私」は、彼が愛したミレイアではない。けれど、その声は確かに彼が何度も呼び、何度も守ろうとした人のものだった。

そんな矛盾した光景を、どう受け止めればいいのか、彼自身にもわからなかったのだろう。


私は、ただ見守ることしかできなかった。

彼が言葉を紡ぐまでのほんの数秒が、永遠のように長く感じられた。


そして、ようやくエリオットの唇が震えながら開かれた。


「……お嬢様。」


その声は、低く、掠れていた。

まるで、ずっと押し殺してきた感情が堰を切ったかのように、かすかに震えていた。


彼の目には涙が滲んでいる。

それは、長い間押し殺してきた悔恨の涙。


もう二度と会えないと思っていた人が目の前にいる、その事実に対する、どうしようもないほどの感情の波だった。


エリオットは、一歩、また一歩と近づき――そして、ついに、私の姿をしたミレイアを抱きしめた。


「――っ!」


その瞬間、彼の体が震えているのがわかった。強く、強く、まるで二度と離さないと誓うかのように、彼はミレイアを抱きしめた。


今この瞬間、彼にとっては「ミレイア」が確かにここにいるという事実だけが、何よりの救いだったのだろう。


――良かった。本当に、良かった。


私はそっと微笑んだ。

ずっと願っていた光景だった。

この再会のために、私はここまで来たのだから。


周囲の貴族たちも、最初こそ驚きに目を見開いていたが、次第にその光景を静かに受け入れていくようだった。誰もが、言葉を失いながらも、この劇的な再会に感動していた。


私は、自分の胸の奥に広がる温かな感情を噛み締めた。彼らの再会を、心から祝福する気持ちに満たされながら。


「お嬢様……!無事で……っ、本当によかった……!」


その声には、どれほどの安堵と、後悔と、そして喜びが込められていたのだろう。私はそっと目を伏せた。


良かったね、エリオット。

やっと、大切な人が帰ってきたよ。


――さて。


私はそっと咳払いをし、背筋を伸ばした。

エリオットとミレイアの感動の再会に水を差すのは気が引けるけど、今片付けておかなければならない問題がある。


「レオン。」


私が名前を呼ぶと、その当人はピクリと肩を揺らした。

ちょうど、彼は少し距離を取るように様子を伺っていたが、私の視線を感じた途端、気まずそうに目を逸らす。まあ予想通りの反応だ。


「本物のミレイアが帰ってきたわけだけど」


そう前置きをして、私は微笑む。


「――念の為聞くけど、もう一度彼女に婚約を申し込む?」


その一言で、周囲の空気が一瞬止まった。というか、エリオットが微かに身構えたのを私は見逃さなかった。


「え、えっと……」


レオンは頬を引きつらせ、しどろもどろになりながら口を開く。


「え、えっと、その……」


「その?」


「ミレイアは……その、あんな姿じゃないし……」


「なに?」


つい語尾が鋭くなる。いや、語尾どころか、私の右手がすでに彼の襟を掴んでいる。


「あっ、いや、そ、その、ちょっと……」


「ちょっと?」


私はレオンの襟をぐいっと引き寄せた。


「誤解していた事は謝りたい。でも結婚は……ちょっと?」


ぐいっ。


「ちょっと、とは?」


「いや、その、やっぱり……結婚は、こう……ちゃんと考えて……」


「考えるも何も、前に求婚してたでしょうが!!」


ばしっ!!!


レオンの頭を引っ叩く。


「ぐえっ!!?」


「いいわ、もう一度聞くわよ。ミレイアはここに戻ってきた。あなたが求婚した相手よね?…もう一度婚約したい?」


「そ、それは……」


「それは?」


「……ごめん、やっぱり無理かも……」


その瞬間。私の手が、レオンの襟を掴んだまま、ぐぐぐっと締め上げた。


「無理?????」


「がっ……!? ちょっ、苦しっ……!!」


「何が無理なのか、詳しく説明してもらいましょうか。」


レオンは顔を真っ青にしながら必死に口を開く。


「えっと……その……今のミレイア、ちょっと……なんか……顔が……」


「あ゛ぁ゛???」


さらに締め上げる。


「ちょっととは何だ、私は可愛いだろうが!!!」


「が、ぐ……」


「まんまるで、どんぐりみたいな可愛い瞳!!! 小動物のようなフォルム!!! 美しく整った輪郭!!!」


ばしっ!!!


二発目の拳が炸裂。


「がっ!?!?!?」


「どこをどう見ても最高傑作の造形美!!! 美しすぎてこの世界の水準が追いついていないだけなのに!!! そんなに平べったい顔が嫌なのか!! ちょっと、とは何だ!!???」


ばしっ!!! ばしっ!!!


「い、痛い痛い痛い!!! お、おれが、悪かった、ごめんなさい!!!」


「そういうことは最初から言うなぁぁぁぁ!!!!」


「ひぃぃぃ!!!」


アイゼルは呆れた顔でため息をついていた。


私は気にせず、なおも締め上げ続ける。周囲が呆れたような空気になっているが、そんなことは関係ない。


反省しろ、レオン!!!

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