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可愛くってごめんね

「……」


私はただ、ミレイアをしっかりと抱きしめたまま、引き上げられる感覚に身を任せていた。


そして――光が差し込む。


「……異世界の方!!」


最初に聞こえたのは、エリオットの声だった。その響きには、安堵と喜びが滲んでいる。


「よかった……本当に、帰って来られたのですね……!」


私たちの姿が大広間へと引き上げられると、周囲が一斉に歓声を上げた。

使用人たちのほっとした息遣いが聞こえ、カトリーヌは胸を押さえてほうっと息をつく。

アッシュフォード夫妻も静かに頷き、司祭は跪いて神に祈りを捧げている。


――引き上げられる間、私はすでに理解していた。


私がミレイアの姿なら、ミレイアは私の姿に変化するはずだ。


だから彼女がゴミ箱から出た時も、特に驚くことはなかった。


けれど、周囲の人々は違ったようで――


「な、な……?」


「誰……?」


「ど、どこかの異国の……?」


「いや、でも……あのゴミ箱から出てきた……」


「というか、顔が……」


「平たい……?」


「すごく、平べったい……」


「鼻も低い……?」


「全体的に丸い……」


「まるで潰れたパンのような……?」


「……」


やめろ。

貴族たちが戸惑いに満ちた目でじっと観察する中、彼らの口から飛び出す言葉が、どうにもこうにも聞き捨てならない。


平たい顔? 鼻が低い?

え、ちょっと待って、やめて?

異国の珍獣を見るみたいな視線やめて??


……いやまあ、日本人を見たことがない彼らにとっては驚きなのだろうけど。

でも、ここまでしげしげと眺められると、さすがに居心地が悪い。


私はゆっくりと立ち上がり、目の前の”私”――ミレイアが入っている私の身体――を見つめる。


そして、満足げに頷いた。


「……ふむ。」


――なかなか、良いではないか。


どんぐりのように丸くてつぶらな瞳。

全体的に柔らかみのある輪郭。

すべすべとした白い肌。

控えめながらも、しっかりと主張する黒髪の艶。


「なるほど……やはり私の身体は完璧だ……!」


つい、じんわりと感動してしまう。


想像以上の可愛らしさ。


「うむ……!」


「え、な、なにを納得されているのですか……?」


エリオットが、若干困惑した声を上げる。


「いや、見てごらんなさいエリオット。つるんとして、可愛い丸顔だ。」


「……?」


「このどんぐりのような瞳、愛嬌たっぷりではないか。 そしてこの丸みを帯びたフォルム! 健康的な肉付き! 控えめながら整った鼻梁! 繊細ながら確かに存在するまつ毛のカーブ!」


「???」


「つまり、だ。」


私はぐっと拳を握る。


「この身体……非常に可愛い!」


「?????」


「文句のつけようがない! いや、あったとしても! そんなものはこのフォルムの愛らしさの前では塵も同然!」


「…………」


――ミレイアの精神が入っていようとも、私の身体の可愛さに揺るぎはない。


そう、これはむしろ再確認の機会である。

第三者視点で見ることが叶わなかったこの身体を、今こうして冷静に客観視し、私は確信した。


「私の身体……大変優秀ですね。」


「い、異世界の方……?」


エリオットが本格的に困惑の色を濃くする。だが、そんなことは気にしない。

いやあ、こうして客観的に見ると、ますます自信が湧いてくるな。


私はまるで美術館で名画を鑑賞するかのごとく、うっとりと”私”を眺めた。


「うん……やはり日本人は、平たさこそが美徳……!」


「えっと……?」


「すばらしい。」


「…………」


周囲の空気が何とも言えない沈黙で満ちていた。

まあいい、気にしない。

今重要なのは、ミレイアを無事に連れ戻せたこと。


――問題は、このままでは逆に私の姿のミレイアが”異邦人”になってしまっているということだが。


……さて、どうしたものか。

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