ゴミ箱と厚化粧
「あはは!もうこんな人のこと、どうでも良いじゃないですか。」
聞き慣れない高笑いが耳を刺すように響く。声の主は、レオン――私にダメ出しをしてきた元婚約者――の隣で、まるで自分の存在を誇示するかのように腕を絡ませている派手な女性だ。
彼女のドレスは体のラインを強調するデザインで、宝石がこれでもかというほど散りばめられていた。ウェーブのかかった派手な金髪で、薄い水色の瞳。ただ、その顔には厚化粧が施されていて、遠目から見ても塗装の厚さが伝わる。正直、少し怖い。
「ジュリア…。きちんと言ってやらないと、ミレイアには分からないだろう?」
「こんな暗くて鬱陶しい人より、私の方がよっぽどレオン様に相応しいですわ。」
厚化粧女性こと、ジュリアと呼ばれる彼女は、視線をこちらに向け、薄笑いを浮かべながら話を続ける。
「あらあら、何ですかその変な箱。え、ゴミ箱?…ぷっ!森でひとり、その安っぽいゴミ箱に入って遊んでたんですか?」
……変?安っぽいゴミ箱?
瞬間、私の中で何かが弾けた音がした。黙ってやり過ごすつもりだったが、ゴミ箱だけは許せない。あれは、私の汗と涙と不眠の結晶だ。開発部門の誇りだ。誰かに文句を言われる筋合いはない。
「……あのさ。」
声が低くなるのが自分でも分かった。
「何様?」
ジュリアの顔に一瞬だけ驚きが浮かぶが、すぐに冷笑へと戻る。
「あら、何かおっしゃいました?」
「何様だって聞いてるの。だいたい、ゴミ箱の何が分かるわけ?アンタみたいな厚化粧のブスに、うちのゴミ箱の良さなんて一生理解できないわよ。」
その言葉が出た瞬間、空気が凍りついた。彼女だけではない。隣の男性や周囲にいた全員が息を飲んだのが分かる。それでも私は止まらなかった。
「こっちはね、このゴミ箱を作るためにどれだけの努力をしたと思ってるの?アンタみたいに顔にペタペタ塗るだけで済むような話じゃないのよ。ゴミ箱の完成度は機能性とデザインの融合、その両立が大事なの。アンタも少しはそういう努力を――いや、無理か。顔だけじゃなくて性格もどうしようもないみたいだし。」
ジュリアの顔が赤くなっていくのを見て、私はようやく口を閉じた。元婚約者が目を見開いて私を見ているが、そんなものは気にしない。
自走式ゴミ箱は、そんな場の空気を気にすることもなく、相変わらず静かに動き回っていた。その姿を見て、私は満足感すら覚える。
「ほら、見てみなさいよ。この完璧な働きっぷり。ゴミ箱だって役割を果たしてるのに、アンタはただの置きもの以下じゃない。」
ジュリアの顔がますます赤くなり、元婚約者が私を呆れたように見ているのが分かる。それでも私は満足だった。
ゴミ箱は私の誇りであり、唯一の味方。誰が何を言おうと、それだけは絶対に譲れないのだから。