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証言の場

「もういい!」


アッシュフォード伯爵の声が広間に響く。怒りと苛立ちが混じった、重く冷たい声。


――あら、ずいぶんと余裕がなくなってきたわね。


「で、では、証人の方々に証言をお願いしましょう。」


弁護人の冷静な声が、静まり返った大広間に響き渡る。


この瞬間を、私はずっと待っていた。


――さあ、始めましょうか。


私は静かに視線を巡らせる。そこには、カトリーナを筆頭に、選ばれた令嬢たちが並んでいる。いずれも名家の娘たちだ。社交界において、それなりの発言力を持つ彼女たちの言葉は、決して軽視できるものではない。


「どうか、ミレイア様と私が、どういう人間なのか――同じ貴族の令嬢たちからの証言を聞いてください!」


ジュリアはそう訴えながら、周囲に視線を向ける。今にも涙を流しそうな顔。儚げな表情を作りながら、声を震わせる。


――自分に有利な証言が出ると思っているのでしょうね。


それはそうだろう。ジュリアは彼女たちと社交の場を共にし、取り入ることで築き上げてきた「交友関係」がある。少なくとも、彼女はそう信じて疑っていない。


アッシュフォード伯爵も同じだった。彼の冷ややかな目は、「さあ、ミレイア。貴様の罪がここで明らかになるぞ」と言わんばかりだ。


――でも、あなたたちは決定的に間違えている。


この場の空気を支配しているのは、もはやあなたたちではないのよ。


私は何も言わずに、ただゆったりと微笑んでみせた。


「まず、カトリーナ・ド・グリフィーネ公爵令嬢、証言をお願いします。」


弁護人が促すと、カトリーナが立ち上がる。彼女の動きは優雅で、周囲の令嬢たちが彼女を尊敬の眼差しで見つめているのが良く分かった。


ジュリアの顔が明るくなる。彼女は信じているのだ。「カトリーナは自分の味方だ」と。


――本当に?


「ミレイア様について、証言させていただきます。」


カトリーナが冷静に、落ち着いた声で発言すると、ジュリアの目は期待に輝いた。


――それが、次の瞬間に打ち砕かれるとも知らずに。


「彼女は、ジュリア様を虐めるような人間ではありません。」


大広間に、張り詰めた沈黙が落ちる。


ジュリアの笑みが、完璧に固まるのを私は見た。


伯爵も同様だった。


「……な……何を……?」


ジュリアの声が震える。


「どういうことだ?」


伯爵が低く問いかける。カトリーナは変わらず落ち着いた表情で続ける。


「私が知る限り、ミレイア様は決して他者を虐げるような方ではありません。彼女は、誰に対しても公平で、優しくあろうとするお方です。少なくとも、ジュリア様が主張するようなことをするような人間では決してないと、私は断言できます。」


――さあ、ここからが本番よ。


カトリーナの証言が終わるや否や、次の令嬢が呼ばれる。


「私も、ミレイア様が誰かを貶めるような場面を見たことがありません。むしろ、ジュリア様が……」


「パーティーで、田舎の令嬢が母親の手作りドレスを着てきた際のことですが、周囲が彼女を笑う中、ミレイア様だけはそのドレスを『素敵ですね』と褒めていらっしゃいました。」


「以前、召使いが紅茶を濃く淹れてしまったとき、ミレイア様は『ミルクを足せば美味しいミルクティーになるわ』と優しくフォローしておりました。」


「お茶会でジュリア様が、ミレイア様の悪口を言いふらしていました……」


次々と続く証言。


ジュリアと伯爵は、次第に表情を失っていく。


「……ちょ、ちょっと待って!」


ジュリアが声を上げるが、もう遅い。


これは、私が準備した「勝つための舞台」。

証人を揃え、証拠を揃え、ここで全てを明らかにするために。


ジュリアの希望だったカトリーナが、彼女を裏切った。


それが何を意味するのか。

彼女はまだ、理解しきれていないようだった。


――だけど、私にはもう見えている。ここで、あなたは終わるのよ。

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