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決戦前夜

夜の帳が降り、屋敷の窓から漏れる灯りが庭の芝生に柔らかな輝きを落としている。その光景はいつもと変わらないけれど、今この広間に漂う空気は普段とまるで違った。


緊張感と静かな熱意が満ちている。目の前に広がるのは、私の家――ブランフォード家を支える大切な人々だ。老執事アルフレッド、忠実な従者エリオット、そしてメイドや庭師、料理人、馬車の御者まで。


私は広間の中央に立ち、全ての視線を受け止めていた。


「皆、集まってくれてありがとう。」


声が静かに響くと、自然とざわついていた人々が動きを止め、私に注目した。


「明日はいよいよ、決戦の日です。」


その一言で場の空気が変わるのを感じた。全員が息を飲み、ただ私の次の言葉を待っている。


「ジュリアが撒き散らした嘘、それによって傷つけられた私とブランフォード家の名誉を取り戻すための戦いが、明日行われます。」


言葉を重ねるたび、私の声に含まれる熱が広間全体に広がっていくようだった。


「この社交パーティーは、私たちが全てを覆し、勝利を掴むための場でもあります。」


私の視線は一人ひとりの顔を捉えた。真剣な目、決意を秘めた表情。皆の覚悟がその顔に刻まれている。


「そのために、私は三つの準備を整えました。」


まず一つ目。


「ジュリアの嘘を暴くための証人を確保しました。」


その言葉に、幾人かが微かに息を呑む音が聞こえた。


「グリフィーネ公爵令嬢を始め、アッシュフォード夫人、その他の令嬢たち。彼女たちはジュリアの本性を知っています。そして、明日、私のために証言することを約束してくれました。」


エリオットが静かに頷く。


二つ目。


「次に、書類での証拠です。」


私は手元にあった厚い封筒を持ち上げてみせた。その中には、アッシュフォード夫人から託された資料や、ジュリアの虚偽を示す出納帳の記録が収められている。


「ジュリアがアッシュフォード家でどれほど浪費をしていたか、傍若無人な振る舞いだったか。そして、ブランフォード家で無給でこき使われていた、という嘘がどれほど根拠のないものか――これら全てが、この書類に記されています。」


言葉に力を込めると、アルフレッドが静かに「完璧ですね」と呟いた。


そして、三つ目。


「最後に――私が嘘をつくような人間ではないと証明するために、外部の証人を呼びます。」


この一言に、広間が少しざわついた。全員の視線が再び私に集中する。


「それは……『私』が寄付をしていた孤児院の院長や教会の司祭などです。」


その言葉に、使用人たちは一瞬驚いたような表情を浮かべた。


「それは頼もしい!」

「司祭様のお言葉でしたら説得力があります……!」


小さな歓声が上がる中、私は静かに微笑み、続けた。


「彼らは私がどのような人間かを証言してくれます。ジュリアの嘘に対抗するためには、私自身の行動と人柄を知る、外部の信頼できる人物の証言が必要だと考えました。」


言葉を終えると、広間は静まり返った。ただ、全員の表情には明確な決意が宿っていた。それを確認しながら、私は改めて声を張った。


「明日、私たちは必ず勝ちます。この家の名誉を取り戻すために、皆さんの力を貸してください。」


その言葉に応えるように、エリオットが力強く胸を叩いた。


「もちろんです!」


続いて、アルフレッドが静かに顔を上げる。その目には深い覚悟が宿っていた。


「ブランフォード家のために、全力を尽くしましょう!」


他の使用人たちも一人、また一人と「我らがブランフォード家のために!」「お嬢様のために!」と声を上げる。


広間に響くその声は、間違いなく結束の証だった。


私は静かに頷きながら、隣に置かれたゴミ箱に目をやった。その静かで無機質な佇まいが、どこか「自分もやれる」と語りかけているように見えた。


――これで士気は十分。


「さあ、明日に備えましょう。」


そう言い切った瞬間、私は深く息を吸い込んだ。その呼吸の中に、自分自身の覚悟と決意が込められていることを確信しながら。

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