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【カトリーナ視点】疑念とゴミ箱

窓の外に見えるブランフォード家の馬車は、まるで何事もなかったかのようにゆっくりと邸宅の門を抜けていった。豪華な装飾が陽の光を反射し、きらりと鈍い輝きを放つ。その静かな佇まいが、私の胸にさざ波ではなく、鋭い棘を立てていく。


――どうして?どうしてこんなに苛立たせるの?


「何なのよ、あの女は……!」


思わず唇から漏れた言葉に、部屋の空気が一瞬張り詰めた。


――完璧に仕立てた私の舞台に、どうしてあんな女が堂々と上がって、主役の顔をするのよ。


耳に届くのは、ミレイアが持参したお菓子を楽しむ令嬢たちの声。


「このチョコレート、まるで溶けるような甘さ……!」

「包装紙もこんなに綺麗……!」


彼女たちは夢中でお菓子を味わい、余った包装紙を手元で丸めては、ゴミ箱の前に落とす。ゴミ箱は「ピッ」という音とともに優雅な動きで吸い込み、そのたびに小さな歓声が上がった。


――その音が、まるで嘲笑に聞こえる。


私は視線をゴミ箱に向けた。


――忌々しい!異物であるはずの“ゴミ箱”が、部屋に馴染んでいるなんて…………何かがおかしい……。


「カトリーナ様、どうかなさいましたか?」


取り巻きたちが、不安そうに私を見つめている。その視線が疎ましくて仕方がない。


「……。」


私は扇子を指先で軽く叩きながら、ゆっくりと深呼吸した。


――いつもなら、ミレイアは控えめに後ろに居て、ただ私の影で笑顔を浮かべているだけだった。善人ぶって人に褒められるのが大好きな“いけすかない女”のはずよ。


なのに――。


私の脳裏に浮かぶのは、今日のミレイアの姿だ。堂々とした物言い、ふてぶてしい態度、そしてあの自信に満ちた微笑み。


「……違う……。」


私は小さな声で呟いた。


取り巻きたちは不思議そうに顔を見合わせている。私が言葉を飲み込むなんて、珍しいことだから。


――この違和感の正体を突き止めなければならない。


そして、その答えは――ゴミ箱の中にある気がしてならない。


「カトリーナ様?」


不安そうに声をかけてくる取り巻きを無視して、私はゴミ箱を指差した。


「……開けなさい。」


「え……?」


「そのロックとやらを外して、蓋を開けるのよ。」


「……ですが……」


取り巻きたちは口々に困惑の声を上げる。しかし私は振り返らず、ただゴミ箱の無機質な銀色を見つめ続けた。


「怖いなら、私が開けてあげるわ。」


私はゆっくりと歩み寄り、右から2番目のボタンを押し、ゴミ箱の蓋に手を置いた。その冷たい感触が指先から心臓にまで届き、微かな震えを呼び覚ます。


――分かっているわよ、ミレイア。


「……そうよね。」


――小賢しいあなたのことだから、この中に“自分の使用人”を隠して、私たちの会話を全部聞かせるつもりなのでしょう?


私は小さく笑った。


「そうはさせないわ!」


小声で毒づくと、取り巻きたちが息を飲むのを感じた。


――私は負けない。この場を支配するのは、私――カトリーナ・ド・グリフィーネなのだから。


そして、私はゴミ箱の蓋をゆっくりと開いた――。

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