魔術より技術!
私は笑顔を保ちながら、令嬢たちの視線がゴミ箱に釘付けになっているのを確認した。
驚きと疑念、そして少しの好奇心――彼女たちの心の中を、私は手に取るように感じ取っていた。
――いい流れね。
「どなたか、このお菓子の包み紙を試しに捨ててみてくださいませんか?」
私はなるべく柔らかな声で言い、令嬢たちに視線を送った。すると、一人の令嬢――淡いブルーのドレスをまとった金髪の令嬢が、恐る恐る手元の包み紙を持ち上げた。
「こ、こうですの……?」
彼女の手が少しずつ動き、金色の包み紙がひらひらと床に落ちる。
――その瞬間。
「ピッ」という控えめな音が響き、ゴミ箱がゆっくりと動き出した。
「……!」
部屋の空気に緊張が走る。ゴミ箱はまるで狩りをする獣のように、金色の包み紙を狙ってまっすぐ進んだ。吸引口が包み紙を捉え、ふわりと持ち上げるようにして吸い込む。
「すごい……!」
令嬢たちが一斉に息を呑む音が響く。まるで魔法のような光景に、全員の視線がゴミ箱に集中していた。
「魔法…?魔術……?」
誰かが囁いた。その声は恐れと興味を含んだ、純粋な問いだった。
――来たわね、この質問!
私は胸を張り、優雅に立ち上がった。
「いいえ――これは“魔術”ではなく、“技術”です!」
私は声を少し張り、部屋全体に響くように言った。その言葉が広がり、令嬢たちはさらに驚いたように目を見開く。
「技術……?」
「そうです。」
私はゴミ箱の上部を優しく撫でながら続けた。
「このゴミ箱は、異国の技術を駆使して作られた特別な品です。自ら動き、周囲を感知して“ゴミ”を探し出します。そして、ゴミを吸引し、適切に処理する――まるで優れた使用人のように、無駄なく美しく働くのです!」
――いつの間にか、語りが熱を帯びてきている。
私は気づいていた。でも止まらなかった。
「このゴミ箱には、小さな“耳”があります。――もちろん比喩ですわよ?…物音を感知するセンサーが内蔵されていて、周囲の変化を捉え、進むべき場所を判断するんです。そして――」
私は少しだけ身を乗り出した。
「皆様、“風”をご存知でしょう?」
令嬢たちが一斉に頷いた。
「風の力でゴミを押し流すように、このゴミ箱は内部の“吸引の風”を生み出します。そして、その風でゴミを優しく、時に力強く吸い込み、清潔な部屋を保つのです!」
「……吸引の風……?」
誰かがまた小さく呟く。
「風の流れを巧みに操ることで、部屋の隅や家具の間に溜まった“見えないゴミ”も逃さない――それがこのゴミ箱の“技術”です!!」
私は軽くゴミ箱を指先で軽く叩き、微笑んだ。
「魔法で一時的に綺麗にするのではなく、技術の力で“日々の暮らし”を支える――これこそが“進化した家電…じゃなくて道具”の本当の意味なのです!!」
令嬢たちは驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべていた。
「……すごい……でも……そんなもの、本当に……?」
「ええ、これはただの夢物語ではありません。遠く近い未来に“知恵”と“技術”を用いれば、こうしたものを生み出せるのです!!」
私は熱っぽく語り続け、ふと部屋の中を見渡した。
――あ。
全員がぽかんと口を開けて、私を見つめていた。まるで子供が大道芸を見て驚くような表情で。
――しまった。素が出た。
私は小さく息を吐き、わずかに頬を赤らめた。
「……少し、興奮しすぎましたわね。」
私は扇子を開いて軽く風を仰ぎ、優雅に微笑み直した。
――冷静にならなきゃ。ここは貴族のお茶会。商品説明会じゃないんだから。
「ともあれ――皆様、どうぞご観覧ください。このゴミ箱は、部屋を清めるだけでなく、使えない召使いや口うるさい教育係も吸い込んでしまう……かもしれませんわよ?」
そう言ってウィンクを一つ。
令嬢たちが「ふふっ」と笑い、空気が少し柔らかくなったのを感じた。
――これでいい。この場の主導権は私の手に戻った。
「では、続きを楽しみましょうか。」
私は背筋を伸ばし、席に戻った。ゴミ箱は「ピッ」と静かな音を立て、誇らしげに佇んでいた。




