誤解と贈り物
「さて。改めて言いますが、私の目的は――」
私は一度、周囲の令嬢たちをゆっくりと見渡し、自然な笑顔を浮かべた。
「誤解を解いて、皆さまと仲良くなること。それだけですのよ。」
部屋中が静まり返る。全員が信じられないものを見るような目を私に向けている。カトリーナも眉を少し吊り上げているが、私はその視線に怯まなかった。
――驚くのはまだ早いわよ。
「どうぞ――ささやかな贈り物です。」
私は優雅な仕草でエリオットに合図を送る。彼は恭しく頷き、使用人たちが準備した箱を各テーブルに配り始めた。
純白と金色のリボンが巻かれたとっておきの贈り物が、各テーブルに並べられていく。そのたびに、小さなざわめきが広がる。
「これは……!」
一人の令嬢が箱を開け、その中身に感嘆の声を上げる。
「まあ……なんて素敵な香り!」
開いた瞬間、華やかで濃厚な甘い香りが広がり、部屋中に満ちた。中に詰められていたのは、金色の包み紙の高級チョコレートや、花のように包まれたボンボン、蝶の羽根のような紙に包まれたスミレや金木犀の砂糖漬け。他にも金粉がふりかけられたトリュフチョコや、貴族の間でも滅多に手に入らない香辛料と蜂蜜のクッキーが詰まっている。
「まぁ……見たこともないお菓子ですわ……!」
他の令嬢たちも口元に手を添え、目を輝かせている。
「どうぞご自由に召し上がってください。」
私は優雅に手を広げ、言葉を続けた。
――お菓子は社交の潤滑油。そしてこれが今回の秘策への、……鍵!
カトリーナが目を細め、わずかに眉をひそめて私を睨んでいるのが分かった。しかし、彼女は声を上げず、周囲の空気をじっと見極めている。
――そして、本当の驚きはここから。
「ところで皆さま――」
私は声のトーンを少し落とし、全員の注目を引き寄せた。
「私は今日、この場で特別な“もの”をご覧いただきたく参りました。」
そう言って、私はゆっくりと立ち上がり、壁の端に置かれた大きな箱へ歩み寄った。赤いリボンが結ばれた箱は、この豪奢な部屋の中であっても堂々とその存在を主張している。
「これは――世界に一つしかない、素晴らしいものです!」
私はリボンを丁寧にほどき、箱の蓋を両手でゆっくりと持ち上げた。
――よいしょっ……丁寧に、丁寧に。
部屋中が息を飲む。
蓋を開けると、中からふかふかの羽毛布団が姿を現した。高級な絹のような光沢を放つその布団は、異国の品のような優雅さを漂わせている。
「まあ……布団?」
誰かが小さな声でつぶやく。
「そう。最高級のクッションでしっかり包んでおかないとね。」
私は布団を一枚ずつ箱の横と後に置き、そして――ついに、その姿が現れる。
「……な、何……あれは?」
誰かが小さく呟いた。
――現れたのは、銀色の大きな箱。
そのサイズは膝を抱えた大人が一人すっぽり入るほどの大きさで、滑らかな曲線は光を反射し、磨き抜かれた表面はまるで鏡のように輝いている。
「皆さまにご紹介いたします。」
私は静かに箱の中からその銀色の機体を押し出し、優雅に手を添えた。
「これは――自走式掃除機能付きゴミ箱です!」
私の声が響き渡り、部屋全体が一瞬凍りついたように静まり返る。
「……掃除……するゴミ箱……?」
令嬢の一人が呆然とつぶやき、別の令嬢が「そんなものが存在するの?」と不思議そうな声で問いかける。
「その通りです。」
私は堂々とゴミ箱の蓋を撫でた。
「このゴミ箱はただの“入れ物”ではありません。自ら動き、ゴミを吸い込み、部屋を綺麗にしてくれる“掃除の名手”ですのよ。」
言葉を聞いた令嬢たちは困惑と驚きの入り混じった顔をしていたが、目を逸らす者はいなかった。
――彼女たちは気づいていない。今、この瞬間、この部屋の“主導権”は私が握ったのだと。
「掃除の行き届いた場所では、秘密や悪意も隠れられないものです。」
私はほのかに漂う紅茶の香りを吸い込み、ゴミ箱に手を添えた。
その時、ゴミ箱は静かに「ピッ」と音を立てた。まるで、この場を清めるための序章が始まったことを告げるように。
この部屋に“ゴミ”が溜まっているなら、きれいに掃除しなくちゃ――それが私の役目だから。




