エピローグ
例の建国パーティーの翌年六月。ある、よく晴れた日のことである。
今日は王となったクロードと、王女クリスティーネの結婚式だ。
「お二人ともとても立派でいらっしゃるわ。この国もやっと安心ね」
「ここまで随分長かったね」
クロードは真っ白な正装に身を包み、国民に向けて堂々と手を振っている。空いた片手では、クリスティーネをしっかり支えていた。彼女は金糸で美しい刺繍の施された、豪華なウェディングドレスを着ている。クリスティーネもまた、笑顔で国民に手を振っており、この国に歓迎されていた。とてもお似合いの二人だ。
クロードは建国祭が終わってすぐ、十一月になる前に立太子した。そして昨日、クロードは王になった。王位継承の儀式が、無事に終わったのだ。
ニコラは当初の約束通り、大公になった。領地で暮らしながら、魔法の研究振興に力を入れていくらしい。彼は長かった前髪も切り、とても雰囲気が変わった。人の目をしっかり見て話すようになったし、どこか吹っ切れたような、清々しさがあった。
ヒロインであったマリアは、償いとして地方を回り、人々を癒している。あれから随分と態度が変わり、人が変わったように大人しくしているらしい。今更になって魔法の才能が開花していっているようだから、もしかしたらニコラとの間に、何かがあったのかもしれない。
ヴァレリーは結局、帝国に見捨てられた。動かぬ証拠もある。結局、この国で終身刑に処されることになった。
ちなみに怪しげな競合店パティスリーエルサには、やはり帝国からの資金が流通していたことが判明した。アデルをおびき寄せて嵌めるための、罠だったようだ。様々な法律に抵触していたようで、無事潰された。
「アデル、体調は大丈夫?」
「大丈夫よ。今は安定期だもの。少しは動いた方が良いわ」
国一番の大聖堂での挙式に参加した後、アデルたちは新王と新王妃のパレードを見ていた。ユリウスが気遣って、ショールを羽織らせてくる。アデルはいま妊娠六ヶ月。妊娠してからと言うもの、ユリウスは随分過保護になっているのだ。
「先月、私たちの結婚式にも参加させちゃったし、無理していないか心配よ」
「エリーゼ、大丈夫よ!ああ、いま、ポコポコ蹴ってる。この子も大丈夫だって言ってるわ」
「ふふふ、可愛いわね!!」
隣で寄り添うエリーゼとアレックスは、先月結婚式を挙げたばかりの新婚だ。今日が終わったら、新婚旅行に行くのだと言う。とても仲良しの二人は、アデルとユリウスにとっても、共通の大切な友人である。
今後は、家族ぐるみの付き合いになるだろう。子供同士が同級生になったりすることも、もしかしたらあるかもしれない。
パティスリーアデルは順調だ。アデルが一時期、悪阻でケーキの焼ける匂いが一切ダメになってしまい、それはもう大変だったが。それ以外は全く問題ない。今月出している季節メニュー、カシスムースとチョコレートガナッシュを合わせたケーキも好評だった。次は色とりどりのマカロンを出そうと思って、試作を重ねているところだ。
アデルは隣に立つユリウスを見た。もう隣にいるのが当たり前になった、美しい人。夜会で偶然会ったあの日が、遠い昔のことのようだ。
「ねえ、ユリウス」
「何?」
「今日は、良い天気で本当に良かったわね」
「ああ、そうだね」
「本当に良かったわ。何もかも、上手くいって……」
「ああ。君のお陰だ、アデル」
隣にいるユリウスに、小さく笑いかけられる。アデルはとびっきりの笑顔でユリウスに言った。
「私、ユリウスと結婚できて幸せよ」
「俺も、君と……例え契約でも、結婚して良かったと思ってるよ」
二人は、そっと手を繋いだ。
シナリオが終わっても、物語はずっと続いていく。
fin.
これにて終幕です。読んでいただきありがとうございました。
新連載のお知らせです。
★「薄幸令嬢、第二王子に拉致される。〜彼とクーデター起こします〜」
https://ncode.syosetu.com/n4095jl/
主役二人が国を立て直していくお話です!宜しくお願いします!




