表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/61

4-13 第三皇子ヴァレリー

 クロードが演説する裏でのこと。

 ヴァレリー・チェルネコフは、もう帰国するための船に乗り込むところだった。

 

「ゲームオーバーだ。この国も案外、つまらなかったな……」


 皮肉げにそう言い残し、コンラート王国を立ち去ろうとしたその時である。


「逃げられるとでも思ったのか?」


 

 ――――ぞくり。


 

 彼は突然『出現した』殺気に、その強さに、震え上がった。その殺気の形をした何かは、ひたりと自分の首に剣を当て、静かに告げた。


「ヴァレリー・チェルネコフ。我が国の法律と国際法に則りお前を捕縛する」


 混乱状態のヴァレリーの手には、手錠がガシャリと掛けられた。

 恐怖心を抑え込みながら、何とか振り向くと――――そこにはユリウス・ローゼンシュタインが立っていた。

 

 意味がわからない。

 今、何が起こっているのかわからない。

 だって。


「貴様…………何故、俺の位置がわかった……!?俺の魔法は物音も、気配も、自分の魔力の痕跡すら!全て消すものだというのに……!!」


 だからヴァレリーは、今までどんな場所からだって、逃げることだけは一番得意だったはずなのに。

 

「からくりは後で聞け」


 馬でやってきたらしい他の騎士たちが集まってきて、ヴァレリーはあっという間に取り押さえられてしまった。



 ♦︎♢♦︎



 牢屋で頑丈な手錠に繋がれ、呆然とするヴァレリーに声を掛ける者がいた。

 

「無事に捕まったみたいね?」


 鈴を転がすような声。闇の中でもきらめくプラチナブロンド。先ほどダンスを共にしたばかりの彼女に向けて、ヴァレリーは憎々しげに叫んだ。

 

「アーデルハイト・ローゼンシュタイン……!貴様の仕業か!!一体、どんな魔法を使った……!?」


 アデルは呆れたように一つため息をつき、胸元からあるモノを出した。透明な液体の入った、ガラス瓶のようだ。


「魔法じゃないわ。私が使ったのは……()()よ」

「……?それは、一体何だ……?」


 意味が分からなすぎて、怪訝な顔で尋ねる。アデルはせせら笑いながら言った。

 

「あなたの国のものなのに、もう忘れたの?うちの国の大舞踏会で描いた、透明化の大魔法陣……」

「そ、それは……!」

「ここにあるのはあの大魔法陣で使われた、『魔力を込められる透明な絵の具』よ」

「!?」


 透明な液体の入ったガラス瓶を、アデルが揺らす。とぷんと中の液体も揺れた。


「この絵の具に私の魔力を込めて、私の手にべったりと付けておいた。あなたから私に、必ず何らかの接触を図ってくると、踏んでいたから…………その時に、べたっと付けてやるつもりだった。ダンスを直接申し込んできたものだから、拍子抜けしちゃったけどね」

「何だって…!?」

「あとは私の魔力を追跡しただけよ。あなたは、自分の気配や魔力を消せたかもしれないけど……私の魔力までは、消せなかったみたいね。残念だったわね?」


 それでもヴァレリーは、まだ意味が分からなくて、首を振りながら言った。

 

「は……!?だ、だが……!その絵の具の技術は、まだどこにも、漏洩していないはず……!!何故、貴様がそれを持っている……!?」

「そんなの簡単よ。『分析』して『合成』すれば良いんだもの」

「……?」


 首を傾げる。言葉の意味が理解できないからだ。


「分析するのはそりゃあ大変だったけど、この世界には便利な魔法がたくさんあるから、何とかなったわ。『化学構造』さえ分かれば、あとは『調合』持ちの私には簡単だった」

「は……?え……?わけが……わからない……」


 なおも首を振るヴァレリーに対し、アデルは呆れたように言った。

 

「理解できない?あなたは転生者じゃないの?」

「…………転生者だよ!お前と同じ!!せっかく『シナリオ』を知って生まれてきた!よりによって、違う国に……!!」


 ダン、と大きく床に手をつく。ヴァレリーは怒っていた。

 

「……!」

「だからどうにか、その知識を使って!この国をぶっ潰して!!成り上がってやろうと思ったのに……!!何で邪魔するんだよ!」


 怒りのままに大きく吠え続ける。

 

「何故、お前ばかりが恵まれている!?『シナリオ』の起こる国に生まれて!公爵夫人になって!!何故……呑気にケーキなんて作っている!?」


 ヴァレリーの目はもはや血走り、その白い髪を振り乱していた。

 

「俺は……先行きの暗い国で!!皇位継承権も低くて!!何で何で!何で俺ばっかり……!!」

「私は『シナリオ』を悪用したことなんて一度もないわ。その違いじゃないかしら」


 アデルがピシャリと言い放ち、ヴァレリーは黙った。

 

「あなたは人を不幸にすることで成り上がろうとした。だからバチが当たったんだわ。違う?」

「……!この、クソ(アマ)……!!!」

「ユリウス、これで良いかしら?」


 アデルはもう用はないと言わんばかりに会話を打ち切り、部屋の向こうにむかって話しかけた。すぐにユリウスが姿を現し、彼女に答える。

 

「ああ、この肉声も魔法で記録している。十分な証拠になる」


 ヴァレリーは目を見開き、またダンと手を打ちつけた。

 

「貴様……!!また嵌めたな!!」

「そんなこと言っても、もう遅いわよ。あなたの国があなたを助けてくれるかどうかなんて、私は知らないけど……もう会わないことを願うわ」


 アデルはくるりと後ろを向く。冷え切った声で、最後の挨拶を告げた。


「さようなら」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ