4-11 クロードの演説
パーティーの中盤のことである。クロードがにわかに、壇上の真ん中に進み出た。プログラムにはないことだったので、貴族たちは少しざわざわとしている。
「今日は、皆に是非聞いて欲しいことがある!」
『拡声』の魔法を使っているので、声の通りはばっちりだ。打ち合わせ通りである。アデルとユリウスは決められた位置について、見守っていた。
「第二王子派閥がこのパーティーで武力鎮圧をおこない、立太子宣言をしようとしていることは予め掴んでいる!証拠もあるので、観念するように」
――武力鎮圧だって!?
――立太子宣言を一方的にするとは、実質的なクーデターなのでは?
大衆が揺れると同時、視界の端のあちこちで、兵士が一気に取り押さえられた。武力鎮圧を行おうとしていた者たちは、予め特定されていたのである。
「うわあぁっ!」
「動かないでください」
「抵抗したら撃ち抜きますよ」
リナとファビアンもそれぞれ動いていた。クーデター側の兵士に鋭利なナイフや氷柱を突きつけ、動きを封じている。
「無駄だよ。全員押さえている。僕の勝ちだ!」
クロードは高らかに言った。そして彼に寄り添うように進み出たのは、ニコラだった。
「今日の武力鎮圧については、ここにいる第二王子ニコラが、自ら証言してくれた!」
――そんな……!?ニコラ様が自ら……!?
――何故……!!ニコラ様!!
どよりと大きくざわめく第二王子派閥。それに構わずニコラは堂々とし、朗々と告げた。
「私は全てを兄クロードに伝えた。私は王の器ではない!王位継承権を放棄して、大公になることを、ここに宣言する!現王である父の許可も、もう既に得ている!」
ニコラの宣言に、貴族たちのどよめきは一層大きくなる。しかし、横から待ったをかける者がいた。他ならぬ王妃だ。
「ニコラ、お前一体何を……!!勝手は許さないわよ……!!」
血のように真っ赤なドレスを着た彼女の、その目はもはやギラつき、狂気に染まっていた。彼女は立ち上がって進み、壇上のクロードを指差して叫んだ。
「クロード……!!お前さえ……お前さえいなければ!!ロキ、やっておしまいなさい!!」
その合図と同時に、クロードの後ろに瞬時に転移してきた者がいた。白い仮面をつけた、あの時の『転移』使いだ。しかし、その更に背後に現れる者がいた。
「無駄だ」
「ぐっ!!」
ユリウスだ。彼は瞬く間に、相手を羽交締めにした。
「何故!!転移……できない……!!」
「無駄だ。こちらは魔道具を使っている」
ロキと呼ばれた男は暴れ、転移を使おうとするが叶わない。ユリウスは今日、触れた相手の魔法を封じる腕輪の魔道具を嵌めているのだ。クリスティーネに依頼して、時間をかけて作ってもらったものである。
ユリウスは淡々とした声で言った。
「お前の魔力の痕跡は、先日の仮面からもう記録されている。帝国からの入国記録も、うちの兵士がずっと記録していた!」
「!」
鋭い手刀で敵の意識を落とす。あっという間に周囲にいた兵士が動き、王妃も一緒に取り押さえられた。それからユリウスは彼のことを指さし、大きな声で言った。
「この密入国者は、ストイッタ帝国からこの国に入国した記録が取れている!!王妃は帝国と繋がっていた!!」
群衆は一気にパニックになった。
――帝国だって……!?
――王妃が帝国と……!?
ざわめく会場の中、クロードがよく通る声で演説を続ける。
「此度のクーデター計画には、ストイッタ帝国が関わっている!そこにいる聖女マリア――――彼女は帝国の間諜であると裏が取れている!」
その言葉と同時に、ヒロインの身柄がアレックスにより押さえ込まれた。彼は密かに待機していたのだ。
「止めてっ!!ニコラ様、助けて!!」
「…………すまない、君の命を助けるためなんだ」
「そんな…………!!」
マリアは取り押さえられながら、絶望した声を出した。
それに構わず、クロードはよく通る声で、力強く演説を続けた。
「今回計画を企てた者たちに問う!!帝国に操られ、言いなりになって本当に良いのか!?彼らの目的は我が国を分断すること!今一度、よく考えよ!良いか。今回武力鎮圧を企てた者達は、重い罪に問わない。未遂であるからだ!」
――何だって…!?
貴族たちの声はもう止まない。この場から逃げ出そうとする者もいたが、待機している騎士に次々と取り押さえられた。
「僕は間も無く立太子され、来年には王位を継ぐことが内定した。これを機に、身の振り方を良く考えよ!僕に良く支えてくれるならば、派閥を問わずに、引き立てることもしよう!そう約束する!!今一度結束し、コンラート王国を良い国にして行こうではないか!!」
貴族たちの中から、パチパチと小さな拍手が起こった。アデルたちも拍手をする。だんだん音は大きくなって、やがて割れんばかりの大きな拍手となった。クロードの演説は、貴族たちに受け入れられたのだ。
二つに割れた派閥をまとめていくのは、並大抵のことではないだろう。しかしその第一歩を、クロードはいま踏み出したのである。




