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4-1 聖女現る(※ユリウスサイド)

大幅に加筆修正必要


 「初めましてユリウス様!私、マリア・コストナーと申します。この度、聖女として働くことになりました!」


 目の前の女性は、まるで花が開くように瑞々しく、美しく笑った……のだと、思う。多分。

 ユリウスには、よくわからない。

 確かに香水臭くないな、とは思う。一般的に見て、美人の類に入るのだろうな、とは思う。でも、それだけだった。


『ゲーム』の自分が、一体彼女のどこを好きになったのか――――ユリウスには、まるで分からないのだった。



 ♦︎♢♦︎



「おかえりなさい!ユリウス」

 

 ユリウスが帰ると、いつものようにアデルが小走りでパタパタと降りて来た。玄関の大階段を降りて来るその姿がとても可愛いので、ユリウスは毎回癒される。

 それにアデルは優しいから、どんなにユリウスが遅くなっても待っていてくれるのだ。自分も忙しいのに、とても健気だと思う。

 

「夕食は?」

「軽く済ませてきたから平気」

「そっか」

「アデル……」


 ユリウスはアデルを抱き締め、その耳元にそっと囁き入れた。

 

「一緒に湯浴みしたいな」

「……っ!」

 

 アデルの頬が、さくらんぼみたいな桃色に染まる。

 彼女とは結局、可能な日はほとんど毎日セックスしていた。あんなに長期間、ただ一緒に寝るだけでずっと我慢していたなんて、嘘みたいだと自分でも思う。でも、一度彼女の味を知ってしまったら、ユリウスはもう戻ることができそうになかった。


「だめ?」

「…………いいよ?」


 ユリウスが首を傾げてお願いすると、アデルはすぐに折れた。どうやら彼女は、ユリウスの顔がとても好きらしい。自分でも狡いことをしているとは思う。

 けれど、恥ずかしがりながらもアデルは喜んでいるのだと、ユリウスはちゃんと分かっていた。



 浴室で沢山くっついた後、アデルは急に深刻そうな顔になった。

 

「あのね、私……ユリウスを、満足させられてる……?」

「急に、どうしたの?」


 ユリウスは怪訝な顔をした。満足も何も、ユリウスは幸せしか感じていないのだが。

 不審に思いわベッドの上に座り直して、アデルのことも座らせた。彼女の様子が、どこかおかしい。きちんと話さねばと思ったのだ。

 

「あのね、少し不安なの……」

「……『ヒロイン』のこと?」


 ユリウスがその単語を言うと、アデルはピクリと反応した。図星だったようだ。

 

「ユリウス。今日、ヒロインのマリアに……会ったんでしょう?」

「うん、会ったよ。彼女はこれから中枢に配置されるから」

「やっぱり、可愛かった……?」


 アデルは心底不安そうに聞いた。そんな彼女が愛しくて、ユリウスは小さく笑った。

 

「聞いていた通りの容姿だった。オレンジのブロンドに濃いピンクの瞳だ。きっと一般的には美人なんだろうな、と思った。でもそれだけだよ」

「あ、あのね。マリアは平民出身で貴族の常識に疎いから、色々な貴族男性に、随分気安く接しているようだって……お茶会仲間のご婦人から聞いたの。ユリウス、触られたり、しなかった…?」

「確かに急に手を握られて、随分馴れ馴れしいなと驚いた。俺は既婚者だと、しっかり苦言も呈した」


 アデルは分かりやすく、ガーンとショックを受けた顔になった。そして少し悩んでから、思い詰めた表情で言う。

 

「……もしかしたら。ユリウスは……彼女に惹かれることがあるのかもしれないわ……。その時は、ちゃんと言って欲しいの……」

「馬鹿だな……」

 

 目の前のアデルを、ぎゅっときつく抱きしめる。いつも力を加減するが、今日は思い切りだ。ユリウスは珍しく、少し怒った声を出した。

 

「君以外を好きになるわけないだろ。嫉妬してくれるのは嬉しいけど、心配しすぎだよ」

「ん……」

 

 そうしてアデルを覗き込んで、口付けをする。彼女は少しだけ、涙ぐんでいるようだった。

 

「第一、アデルの方がずっと綺麗だ。君より素敵な女性なんていないよ」

「……疑って、ごめんなさい」

「いいよ。不安なことは言って欲しい」

「うん……」


 頭をさらりと撫でると、アデルはユリウスの手に擦り寄ってきた。とても可愛い。


「アデル、キスしよう」

「うん……」


 アデルに言い、その口にゆっくりキスを落とす。彼女の小ぶりな唇に口付けると、ユリウスはいつもふわふわして、幸せでいっぱいになるのだ。


「ん……」

「気持ちいいね?」

「うん……」


 アデルも頬を赤くしながら、頷いている。二人はベッドに座り、繰り返し繰り返し、唇をすり合わせるだけのキスをしていた。

 

 

 ♦︎♢♦︎


 

 睦み合いを終えた二人は、寝室でお茶を飲みながら一息吐いていた。


「今日のケーキは、グレープフルーツのチーズケーキよ。再来月の季節メニューにしようかと思って、試作してみたの」

「美味しい。チーズケーキの部分は、二層になってるんだね」

「ニューヨークチーズケーキっていう濃厚な層と、あっさりしたレアチーズケーキの層なの。ちょうど良いバランスでしょう?」

「うん。最高だ。それに二色のグレープフルーツが綺麗だし、ケーキに合うから幾らでも食べられるな……」

「夏用のメニューだから、さっぱりした爽やかなケーキにしたのよ」


 アデルはお茶を飲みながら、ニコニコと話している。ケーキは美味しいし、アデルは可愛いし、この時間はユリウスの幸せのひと時である。

 

「そういえば、アレックスたちの結婚式の準備も始まったみたいだね」


 ユリウスがそう言うと、アデルはパッと顔を輝かせた。

 

「今から楽しみだわ!エリーゼはどんなドレスでも似合いそうだもの。私、泣いちゃうかも……」

「本番はかなり先かな?当のアレックスは、休みがなかなか取れないことをボヤいてるよ」

「アレックス、一刻も早く結婚したいんでしょうね!…………」


 そこでふと、アデルが顔を(かげ)らせた。

 

「……あの、ね。話が戻っちゃうんだけど……。エリーゼも、かなり不安そうなの。マリアに会ってみて、アレックスは大丈夫そうだった?」

「うーん……。確かに、かなりしつこく付きまとっていたな。アレックスは、婚約者がいるからと言って距離を置こうとしていた。だけど、向こうは気にしていない感じだった」

「ううん……それも、どうかと思うけど。一応未婚男性だもんね……」

「でも、今日俺が見た限り、アレックスは全く心を開きそうになかったよ。俺にはよく分かるんだ」

「そうなのね……アレックス、見るからにエリーゼに骨抜きだもんね」


 アデルはクスっと笑った。確かにエリーゼと婚約してから、アレックスは変わった。あいつはもともと強かったけど、そこに一本、揺らがない芯が通った感じがする。


「大切な人たちが、誰も傷つかないといいわ……」

「きっと、大丈夫だよ」


 そう願うアデルは、誰よりも綺麗だった。もし人生をやり直しても、きっと彼女を好きになるのだろうなと――――ユリウスには、そう思えるのだった。

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